暗い、仄かにランプの灯りだけが燈る地下室に一人の少年がいた。
ここではわかり辛いが、色黒で前髪により片方は隠れてはいるが大きく、しかし黒目は小さいその目をしている。
その黒目と右手を忙しなく動かし、床に這いつくばって白いチョークで何やら書きこんでいる。
ーー・・・魔方陣だ。
少年の名前は倉間といった。
倉間はこの地下室がいつ作られたのかはわからない。
ただ、自分の家庭はここ最近落ちぶれ、薄れてきたとはいえ先祖代々魔術師の家だったというのは父の口から聞いている。
ほぼ一般人であった両親の元で育った倉間は実感があまり湧いていなかった。
倉間は、倉間にとって一般人であり、まさか自分も魔術の血をひいているという事実に。
そんな倉間がせっせと腕を動かし、冷たい床に這いつくばって魔方陣をかいているかと言うと、話は少し前に遡る。


倉間は昼休み、人気の無い校舎裏にいた。
そこには彼ともう一人、肩までに揃えた栗色の髪をした少女がいた。
ご覧の通り告白場面である。
ただ残念な事に倉間は呼び出された方ではなく呼び出した方なのだが。
「えっと、あのね……」
少女はおずおずと口を開く。
倉間は知らず息を飲んだ。
「ありがとう。でもごめんね」
少女は少し申し訳なさそうにそう言う。
倉間はその返答に少しショックを受けたが自分の気持ちを伝えられた事に肩の荷が降りた気がした。
その楽になった気持ちのまま何気なく、「よかったら理由教えてくれねぇ?」と聞いたのがきっかけだった。
その時の倉間は気づき様がなかったが、その一言が、確かに彼を数奇な運命と落とすきっかけとなったのだ。
「なんていうか……、倉間くん性格とか悪くないし、別に他に好きな人がいるってわけじゃないけど……私自分より背の低い男と付き合うの嫌なの」
多分彼女は、今倉間が受けてる衝撃を知らず、そして悪気は無かったのだろう。
でもだからこそ真っ直ぐにその言葉は倉間の胸を深く刺した。
少女は去り、一人残った倉間はただ呆然とその場に突っ立ってしまっていた。



予鈴が鳴り、なんとか意識を取り戻した倉間は教室に戻った。
そこで待ち構えていた二人に捕まった。
友人であり、ただなんとなく話が合うから絡んている奴らだ。
「で、どーだったの?その様子じゃやっぱフラれた!?」
「やっぱってどういう意味だよ!?」
遠慮なく聞いてくる浜野と側でおろおろしている速水。
速水は直接聞いてこないが、浜野を止めない辺り彼も倉間の恋路の結果が気になるのだろう。
とりあえず倉間は経緯と結果を至極完結に述べ、机に突っ伏した。
そして深いため息をつくと、速水が心配そうに声をかけてくるがまともに返事するのも億劫だった。
「んー」と空返事をしてそのまま眠りに入る体制を取る。
黒板には自習と書かれているし問題は無い。
そもそも倉間は真面目に授業を受ける性質では無いのだが。
「倉間くん、落ち込んでるみたいですね……。やっぱフラれたのがショックだったのでしょうか……?」
「ちゅーか『自分より背の低い男とかイヤッ』とか言われたんじゃね?」
途端ガタッと倉間の机と椅子が鳴り、わかりやすい反応があった。


浜野と速水が互いに顔を見合わせる。
ニュアンスは微妙に違うが二人ともやれやれといった表情をし、倉間にまた向き直る。
「そんな落ち込まないでください倉間くん。……きっといつか伸びますよ」
「そーだよ、いつか多分伸びるって!」
「いつかとかきっととか多分ってなんだよ!今伸びなきゃ意味ねーよ……」
怒鳴る気力もなくなり、力の無いツッコミをする倉間に二人は本格的に心配しだした。
あーでもないこうでもないと思案を練り、暫く経って浜野が思い出したように声を上げる。
「そう言えば俺前にさ、体の変化や成長を促進する魔獣の召喚魔方陣、聞いてメモってたんだよね!」
「はぁあ!?」
ガバッと机か、顔を上げた倉間はそのまま席を立ち、浜野に詰め寄る。
「なんだよそれ!?いや、そういう魔獣がいるのは知ってたけど、なんでお前が知ってんだよ!?」
「いやー魚釣りに出かけた時に意気投合したおっちゃんが元魔術師らしくてさー、おもしろそうだったから聞いてきた!」
そう言って鞄をごそごそ漁りだし、一枚の紙を出す。
少しくしゃくしゃになったその紙を倉間に渡す。
「俺も試してみたけど魔力無いし駄目だった。けど倉間なら魔力あるし多分まーいけると思う!」



そうして今に至るわけだ。
最初は倉間もまあ、勧められたしもし上手くいけば万々歳だという軽い気持ちだったのだが。
魔方陣をかき始め、形が完成していくうちにフツフツと奥底から熱が湧き上がってきた。
倉間はその時はもう、あの栗色の髪をした少女への未練は無くなっていた。
ただ、彼女のあの一言を見返してやろうと、復讐でもなくただ純粋にそう思った。
そうしてかき終わった魔方陣の前に立つ。
長くも短くもない詠唱呪文を唱えると、魔方陣から光が沸き起こった。
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