南沢さんの瞳が偽物な話。







南沢さんの身体的特徴を上げるとすれば、まず一つは目だろう。
中に行くほど焦げたキャラメルのような色をしたその目は独特の雰囲気を醸し出している。
彼に見つめられるとドキッとすると霧野が言っていた。
なんだか、吸い込まれそうな、何か心を読まれそうな、ともかく心臓が一つ警告音を鳴らすみたいになるそうだ。
もしこれを言ってるのが神童だったら、お前それは恋じゃね?って思う。
思うだけなのはわざわざライバルを増やしたくないからだ。

ともかく南沢さんの目は、瞳は変わっていた。
紫の髪と、整った顔立ちに、不自然とも自然とも言えるその目。
……正直言うと俺はその目が怖かった。
南沢さんの事は、我儘だし、その癖本当に弱ったりしてる時は平気なフリする所とかどうにかしてほしい所は多々あるが、それでも好きが勝ってた。
だけどその目だけはどうしても駄目だった。
苦手を通り越して恐れを感じる。
人形、そう言えるように整った南沢さんだが、整った中でも生を感じられる。
しかし、目には、正確には瞳にはそれが感じられないのだ。
霧野は吸い込まれそうと言った、俺は逆に何もそこにはないと思った。


南沢さんの目には何も写っていない。


疑問は、解決せず俺や少しの人達の中で自然と淘汰され忘れさられていくものだと思っていた。
しかしそれは思わぬ形で解決に導かれようとしていた。
そう、南沢さん本人によってだ。

順を追って話そう。
南沢さんが倒れていた。
目から血を流して倒れていた。
俺はパニックになりかけながらも南沢さんを慌て保健室に運んだ。
保健医は居らず、俺は舌打ちをしつつ南沢さんをベットに寝かせた。
勝手に消毒液やタオルを拝借し、南沢さんの傷の手当てをする。
清潔なタオルで血を取ると、目蓋が切れている事がわかった。
血が沢山出ていたからもっと大きな傷かと思ったらそうでも無かった。
だが位置が位置だ。
もしかしたら失明するかもしれない。
やはり職員室に行って先生に頼んで救急車とか、病院に連れてってもらった方がいいかもしれない。
そう思って椅子から立ち上がろうとすると小さく名前を呼ばれた。
片目をうっすら開けた南沢さんが俺を見ていた。

「大丈夫ですか、今先生呼んできます。病院行った方が……」
「いい、必要ない」
「でも……」
「いいから、代わりに教室から鞄持って来てくれ」



教室に居た車田先輩に頼んで鞄を取ってもらった。
南沢は大丈夫か?と聞かれたがなんとも答えられなかった。
目蓋がちょっと切れてました、とそれだけ言って別れた。
保健室に戻ると南沢さんはベットから起き上がり、ソファにこしかけていた。
タオルを目蓋に当てている。
声をかけるとタオルを取りこちらを見た。
軽く礼を言われ手を出されたので鞄を渡す。
南沢さんは中から何かボトルを出した。

コンタクトの、洗浄液。

南沢さんはそのまま指を目の中につっこむと、薄いガラスを目から出した。
つまりコンタクトレンズをはずした。

はずされたそれを見て俺は息が止まるかと思った。
薄いガラスは、そのまんま南沢さんの目だった。
なんて言うんだ、カラコン?真ん中にいくにつれて焦げたキャラメルの様な三段階のその色をしたコンタクトレンズ。
慌て南沢さんを見ると彼は普通の、一般的な瞳をしていた。
黒い、どこにでもいるような目だ。
俺はもう一度洗浄液に使ったそのレンズに視線を向ける。
これが、俺が南沢さんの目と認識していたものか。
でも、何故こんな……

「なんでこんな目にしてるかって思うだろ?」

南沢さんの声にハッとして顔を上げる。
南沢さんは普通の目を怠そうに半分目蓋で隠しながら言う。

「だって理由もなく殴られるのは辛いだろ?」

そう言って彼はまた新しい、他の皆が彼の目だと認識している薄いガラスを目に入れた。
そうして洗浄液などを鞄に片付け、俺に改めて短く簡素に礼を言い、保健室を去っていった。


残された俺は、彼の目については解決したが、だが更に構築される彼の謎に喉奥が苦く感じた。
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