南沢さんと歩くと月がいつもより近く感じる。
特に満月だとそれはもう南沢さんの専属背景ですってくらいに。
月は南沢さんの背後でいつも以上に存在を主張している。
月は南沢さんのもので、南沢さんは月のものと錯覚するくらいに。

月は遠くから見るとぼんやりとした光を纏い綺麗に見えるが、実際はでこぼこした穴があるただの土塊で出来た球体だ。
遠くからと近くから、こうも違うのかと思う。
月を背景に佇む南沢さんは綺麗だが、南沢さんの背景へとなる月は事実綺麗じゃない。
南沢さんの背景になる事で、月は綺麗だという幻想を受けるのだ。

案の定南沢さんと別れて部屋から見た月は別段これといって何も感じなかった。
綺麗とも美しいとも思わない。
どちらかと言えば、思い出す南沢さんの方が綺麗だし美しい。
やはり月が綺麗な訳ではない。
俺は安堵の中眠りについた。

次の日も部活が終わり南沢さんと一緒に帰る。
昨日満月だった月は少しかけている。
が、また南沢さんの背景として存在を主張している。
南沢さんを飾り、そして自身も飾っている月だ。
一人部屋の窓から見た月は何も感じなかったが、やはり南沢さんがいると変わって見える。
南沢さんも、月も、何ものにも変え難い程綺麗で美しかった。
南沢さんと月が合わさる事でそれは完璧な美しさになるのだ。

「月が綺麗ですね」

俺は思わずポロリと言葉をもらした。
そのまま、思った事を口にしたわけだ。
本当に綺麗だったから。
感嘆、誰だって想像以上に素敵なものを見たら思わずもらすだろう?
そのまま分かれ道がきたので、さよならを告げて別れた。








「な、なんだよいきなり……言い逃げ、とか」
俺と別れたあと顔を赤く染めた南沢さんを俺は知らない。


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倉間の率直な感想「月が綺麗ですね」
をアイラブユーのほうだと勘違いしちゃった沢。
まああながち勘違いってわけじゃないけど。
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