「金魚をさ、すくいたいんだ」
そうポツリと呟いた南沢に三国が声をかける。
「金魚掬い?確か週末に縁日が隣町であるみたいだが、行くか?」
南沢はその誘いに首を横に振った。
三国と縁日は行きたいよ、でも金魚掬いをしたい訳じゃない。そう言って。
金魚をすくいたいが、金魚掬いをしたい訳じゃない。
その南沢の言い分に三国は首を傾げる。
どういう事なんだ?と尋ねてみた。

「家に帰ると金魚がいるんだ」
南沢はベットに腰掛け下を向いたまま話しだした。
三国は黙って聞いている。
静かに、南沢の口元を見て続きを促している。
「金魚が一匹玄関で小さく弱々しく跳ねてるんだ。水もない、もうくたばる寸前の金魚がいるんだ。」
「誰かが置いていったのか?」
「違うと思う。誰かが置いていったとしたら不法侵入になるけど、金魚だけ置いてく意味がわからない」
家に帰って、扉を開けたら死にかけの金魚がいたらどう思うだろうか。
三国は思考を動かしたが、多分間に合うなら水槽にいれて駄目なら墓を作る程度の事しか出来ない。

南沢は続ける。
「助けようとするんだ。俺は。
金魚をせめて水にいれてやろうって。
でも水槽も何も近くに無くてさ。
だからとりあえず洗面台に栓をして水を貯めようとしたんだ。
応急処置としてさ、そこに金魚いれといて水槽なりなんなり探そうと思って。
だけど金魚をそこに入れた途端栓が外れてさ、水と一緒に金魚が流れていった」

最近ずっと、そんな夢を見るんだ。
そう南沢は呟いた。


その日、三国は夢を見た。
南沢と金魚を見ているだけの夢だった。
昼間南沢の口から話された金魚の話。
排水溝に流れ消えていった金魚、それを見つめながら眉間に皺を寄せて泣きそうな顔をする南沢が忘れられなかった。


次の日、三国はまた改めて南沢を縁日に誘った。
金魚をすくいに行こう。
そう言って。
金魚を掬いたくないよ、家に金魚を入れたくない。
うちには夢でも現実でも水槽が無いんだ。
そう言う南沢の頭を優しく撫でる。
「大丈夫だ、水槽ならうちにある。小さな金魚鉢だがそれなら流れていかない」
まだ不安そうにする顔をする南沢の頬を軽くつねる。
「お前の前から消えていかないよ」
痛いよ、ばか。そう南沢は言ったあと小さく頷いた。
縁日に金魚掬いに行く事にこれで決まった。
よくよく考えたらこれデートだな、と笑う南沢にちょっと照れながら三国は「そうだな」と返した。
折角だし浴衣でも着ないか?と提案する三国に南沢はいつもより素直に頷いた。




「金魚を掬いに行こうか」
「そしたら夢の中の金魚も救えるかも」
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