「フランドールって知ってる?」
弁当を忘れた浜野と元から買い食いだった速水が購買に行ってる間、一人暇だった倉間は何となくその言葉に耳を傾けた。
クラスメイトの女子が同じくクラスメイトの友達に話しているようだ。
「フランドール、フランス人形みたいな女の子の人形なんだけどね」
あまり聞き耳を立てるのは良くないが、まあ聞かれたくない話ならこんな教室中に聞こえるような声で話さないだろう。
「フランドールはただの人形じゃないの、なんと喋れるの!」
「えー喋れる人形とか最近じゃ珍しくもなんともないじゃない」
「それだけじゃないのよ、フランドールが目の前に現れた人は、彼女になんでも願い事を叶えさせてくれるんだって」
「へー」
「でもその代わり一ヶ月ご飯を三食人形に与えなきゃいけないんだって」
「人形がご飯食べるの?」
「うん、だから一週間は人形を肌身離さず持ってなきゃいけない事になるの」
「えーでも一ヶ月それやればなんでも願い事が叶うなら私目の前に現れて欲しいわフランドール!」
「でしょでしょ!それでねー」
ここら辺で浜野達が帰って来たため後の話は倉間は知らない。
そして午後の授業、部活を経て倉間はフランドールの話はすっかり頭から抜けていた。



部活が終わり、釣り堀に行くという浜野達と別れ一人帰路についていた倉間は『ねぇ』という声に立ち止まる。
辺りを見回すが誰もいない。再び歩きだそうとするとまた『ねぇ、こっちよ』と再び声がした。
倉間は声がしたであろう方角に歩くと、電信柱の影にフランス人形が置かれてあった。
外に捨て置いてあるように思われるが、見た目は新品同様に綺麗だった。
人形が喋った事に驚いた倉間は、驚きすぎて逆に騒いだりせずに人形を見つめた。
人形は続ける『貴方の願い叶えてあげる。その代わり一ヶ月面倒見てね』
その言葉に倉間は昼休みのクラスメイトの会話を思い出した。
……もしかして、これがフランドール?




倉間は部屋にフランドールを持ち帰っていた。
にわかに信じがたいが、実際目の前に現れてしまったのだから信じるしかない。
フランドールは『早く早く』と急かす。
倉間は考える。願い事……なんでもいいとこの人形は言う。
それこそ大金持ちになりたい、頭が良くなりたい、憎いあいつを酷い目に合わせたい、などなんでも叶えてあげると。
倉間は考える。
サッカーを今より上手くなりたいは却下だ。これは練習を重ねて上手くならなければ意味がない。
ふと、倉間の頭に同じFWで先輩であるの南沢の顔が浮かんだ。倉間は彼に恋をしていた。片想い真っ最中である。
倉間はフランドールに尋ねる。
「人の恋愛感情も良いのか?」
フランドールはくすくす甲高い声で笑う。
『もちろんよぉ』




次の日朝練に行くと南沢から大事な話があるから昼休み屋上な、と言われた。
倉間はまさか本当に……?と目を丸くしながら頷いた。
そうして授業どころではなくなった倉間は午前中の授業だけで四回も、教師に注意を受けてしまった。
そうして昼休みとなり倉間は駆け足二段飛ばしで屋上へと続く階段を駆け上がった。
ドアを開けると既に南沢はそこに居た。
その後はもちろん南沢から倉間が好きだという告白タイム。
そしてもちろんOKを出した倉間は晴れて南沢と恋人同士になったのだった。



それから南沢とデートしたりキスしたりそれ以上の事をしたりと倉間は充実した毎日を送っていた。
その間きちんと人形に三食ご飯を与えていた。フランドールはパンでもご飯でもなんでもよく食べた、
昼も与えなければいけないので、鞄に人形をいれて持ち歩かなければいけないのがネックだが、南沢と付き合えるならこれくらいへでもない。


しかし、五日目の朝寝坊した倉間は人形に朝飯を与えるのを抜かしてしまった。
一回くらいなら平気だろうとたかをくくった倉間はそのまま人形を鞄に無造作に入れ朝練に向かった。
そしてその朝練で南沢が倒れたのだ。
いきなりの事に隣で話していた倉間は目を見開くだけで何も出来なかった。
慌てて駆け寄って来た三国と神童に「急に倒れたんだ」とだけ説明すると三国は短く頷くと南沢をおぶるとそのまま保健室に向かった。
保健室の方向を凝視していると神童に肩を叩かれ「気持ちはわかるが練習に戻れ」と言われてしまい、仕方なしにシュート練に戻った。


お昼は普通に人形に食べさせた。
朝を抜かしてしまったので少し多めに。購買の焼きそばパンとBLTサンドと唐揚げサンドだ。
そうして三年の教室に南沢の様子を見に行くと車田から彼はまだ保健室だと言われた。
保健室に入ると手前のベットで南沢はいた。横になっているが目は覚ましてるようである。
「大丈夫っスか?」
「ああ、なんか軽い栄養失調だってさ」
「はぁ!?」
「朝飯抜いたらこうなっただけだよ」
「は?スポーツマンが朝飯抜いたらだめでしょ!」
「いつもは抜かねーよ。ただ、なんか今朝は食べ物が口に入らなかったんだよ」
でもさっき食欲が戻って、保健の先生に頼んで購買で買って来てくれたパンを食べたんだ。と南沢は言う。
その言葉に倉間はひっかかりを覚えながらも元気になったなら良かったですと保健室を後にした。





保健室のゴミ箱には購買の焼きそばパンとBLTサンドと唐揚げサンドの包み紙が捨てられていた事を倉間は知らない。
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