幸せだけど辛い、今まさに兵頭はその様な状況と対面していた。


話は二時間程前に遡る。陽の当たる、風通しの良い場所で兵頭が本を読んでると南沢がふらふらとこちらにやって来た。
覚束ない足取りに具合でも悪いのかと心配になった兵頭は、畳に倒れこむ様にうつ伏せになった南沢に声をかけた。
「南沢、具合が悪いのなら部屋で寝るべきだろう。送るからひとまず起きてくれ」
しかし南沢はくぐもった声で「んー」と了解とも拒否とも取れぬ返事をした。
そこで兵頭は具合が悪い訳では無くただ単に眠いだけという事に気付いた。
仕方ない、軽くかけるタオルケットでも持って来てやるかと立ち上がりその場を去ろうとしたら止められた。
下を見ると南沢が腰に張り付いていて、兵頭は身体が熱くなるのを感じた。
もちろん熱くなったとしてもここは一応寮の共同スペースのためこれ以上の事をするわけにはいかないのだが。

「南沢……?」
「兵頭お前ちょっと抱き枕になれよ」
そう言って南沢は兵頭に胡座をかいて座らせ、その膝の上にのりそしてコテンと厚い胸板に紫色の頭を寄りかからせた。
兵頭にすっぽりおさまった南沢は暫くもぞもぞ動いていたが丁度よく収まる場所が見つかったのか満足そうに短く笑うと目を瞑った。
その後、小さい寝息が聞こえ始め自分に身を任せて寝る南沢が愛しいと兵頭は起こさない程度に頭を撫でる。


そこまでは良かった。そこまでは。
一時間経っても南沢は目を覚まさず、兵頭は少し困り始めた。
人を乗せたまま同じ体制でいるのは想像以上にきついようだ。勿論兵頭は毎日正座で座弾を早朝に組んでいるため人よりかは足の痺れに強かった。
だから兵頭が困っているのは足や身体の痺れなどでは無い。
しかしそんな兵頭でも勝てないものがある。尿意だ。
今はまだ我慢出来る範囲だが、この先はどうなるかはわからない。確実に強まって行く尿意に兵頭は小さく身をよじらせた。
さっさと厠に行けばいいのにと他の奴なら思うだろう。だが兵頭はこのプライドの高い南沢が甘えて来てくれたこの状況を自ら壊したく無かったのだ。
そして気持ち良さそうに寝てる南沢を起こすのはしのびないという兵頭の優しさだった。

「何をしておるのだ?」
そんな兵頭に声がかかった。救世主とばかりに兵頭が顔を上げると怪訝な顔をした月島が立っていた。
質問に答えようとする兵頭を遮り月島は叫ぶ。
「ずるい!!」
勿論叫ぶと言っても勢いだけで声量は抑えてあった。月島なりに寝ている南沢に遠慮した結果だろう。
「月島、お主が言えば南沢も一緒に寝てくれると思うが……」
「それでは意味が無いのだ……」
そう言って拗ねる月島は続ける。
「南沢から来てくれなければ意味が無かろう」

暫く拗ねていた月島だが、思いついた顔をして、そして南沢の横の空いてるスペースに入り込んできた。
つまり兵頭の膝上には南沢と月島二人の重みが乗っかる結果になった。
二人とも小柄なためがっしりとした鍛え上げた兵頭には軽いが先程も言ったようにそう、尿意がもよおしてるのだ。

そして更に30分が経った今兵頭は相変わらず寝ている南沢と、同じく熟睡している月島を可哀想だがどかしてひとまず厠に行くべきかと思案する。
しかし気持ち良さそうに擦り寄られてはその考えは吹っ飛んでしまう。一緒に尿意も飛べばいいのだが。

そのまま更に30分が経った。つまり今始めの状況に戻る。
幸せだけど辛い。こういう事だ。
先程、尿意が峠を越えたのか感じなくなり大丈夫かと一瞬油断したが、再びまた尿意が顔を出してきた。

「なんだ、まだそこに居たのか」
柴田がひょっこり顔を出した。ニヤニヤと笑っている。
隣には一文字もいて、兵頭によりかかって寝る月島を見て複雑そうな顔をした。
柴田には色々言いたい事はあるが一先ず厠に行く状況を作るのが先決だ。
「すまぬが起こさないようこの二人を床に寝かせるのを手伝っては貰えぬだろうか?」
「ああ、構わぬが……」
そう言って一文字は月島に手をかける。
そのまま起こさぬよう月島を兵頭から離す。あとは南沢だけだと柴田に目配せをすり。
「協力してめよいがまさかただでとは言わぬな?」
楽しそうに言う柴田に兵頭は「今宵の食後の甘味は貴殿の好きな和菓子であったな?」と言う。それに満足そうに頷いた柴田は南沢を兵頭の上からどかした。
短く礼を言ったあと兵頭は厠に足早に向かったのであった。




「……南沢、起きてるのであろう?」
「…………なんだ、バレてたのか」
「月島の方は寝ておるみたいだがな」
「あーうん、気付いたら月島いてビビった」
「兵頭かなり困っておったぞ」
「知ってる。でもちょっと今日はな」
「南沢!甘えるなら兵頭でなくてもよかろう!」
「お、月島起きたのか」



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甘えたかった沢さん。
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