嘘つきは愛の始まり




※最初だけ事後注意!




「嘘つきは愛の始まり」











重たい体に鞭を打ってゆっくりと起き上がると、これまでの事の運びをじわじわ再認識させられた。
少し鼻をつく青臭い匂いと、そこら中に散らばったくしゃくしゃのティッシュ、そしてべたついた自分の体。白蟻に侵食されているように浮かび上がる記憶と痛む腰にほんのり頬に熱が籠った。
まだあまり見慣れていないかなり殺風景な部屋にはバイクの雑誌がずらりと並べてあり、掃除もされていて小綺麗だ(亜久津のお母さんの服が所々占領しているのが気になるけど)。
この部屋に住んでいる当本人もこんな風に小綺麗できっちりしていればいいのに、と思って小さく溜め息を吐くと、丁度入ってきたそいつの眉間にうっすら皺が寄せられた。


「…なんか不満かよ」



「別に…何も無いよ」

亜久津は俺の目の前まで来ると水の入ったペットボトルを手渡し、舌打ちした。
なんだよ、と言うと、ぎろりと睨まれ「別に」と一蹴されてしまう。
「…お前、寒くねえかよ」
「え?ああ、別に寒くないけど…」
「ふん……」
うつされたらうぜえから風邪引くなよ、とうざったそうに呟いた亜久津の頬はほんのり赤かった。
「…本当は優しいんだよな、亜久津って」
「ああ?てめえ…頭おかしいんじゃねえの」
「人が折角長所見つけてやったんだからそんなこと言うなよな」

最初はこういう誰にも素直にならないところが嫌だと思っていた。
口を開けば誰彼構わず悪態ばかり。親友である南にも平気で暴言を吐くから、正直俺はこいつが嫌いだった。
特に俺の事も嫌っているように思えたし、亜久津の態度も悪い。が、どうやら思っている事がなかなか言えないだけであって、優しさは十分に持ち合わせているようだった。それを分かった上で亜久津の悪態を聞いていれば、言葉とは裏腹だったりすることも多い。
まさかここまで発展していくとは思っても見なかったが亜久津も本当に悪いやつでは無いし、俺自身も亜久津の事は好きだから、段々とそれを受け入れられるようになった。
南は俺達の関係に驚いてはいたものの、応援してくれるらしい(千石は少し意味深に笑って茶化していたが)。
今日、亜久津の部屋で触れた汗ばんだ手の平は、俺にとっては忘れられない初々しい思い出となったのだ。

「亜久津」
「あ?」


「腰とお尻が痛いんだけど」
「…てめえのケツなんざ知るかよ」
「誰のせいでこんなに痛いと思ってるんだよ」
「力みすぎなんだよてめえは」
「女じゃないんだからしょうがないだろ」
「じゃあそんな文句言ってんじゃねえ」

冷たいやつだなあ。
そう呟くと、亜久津は不満げに俺を見てから隣に腰を下ろした。
しかし、今日の亜久津はいつもより幾分機嫌はいい(と思う)。
普段学校ではこんな顔しないよなあ、と思うと俺だけが亜久津のこんな顔を知っている様な気がした。
目付きが悪くて、態度も悪くて、口の聞き方も最悪。
だけど、そんな最悪な亜久津は最高の恋人。人って見かけで判断するべきじゃないよな。

「…俺の制服は?」
「洗濯した」
「ズボンは?」
「洗濯した」
「…シャツ「洗濯した」」

「じゃあ俺の服はどうすればいいんだよ」

「乾くまで待てばいいだろうが」

「…は?」

突然の言葉に驚いて、俺は裸のままだった上半身に鳥肌が立った。
乾くまで待つ?明日はもちろん学校だ。朝練だってある。
少しずつ日が傾き始めている今から乾かすとなればそれなりに時間はかかるだろう。

自ずと見えてきた亜久津の言葉の意味に、俺はただ驚いて口を開けることしか出来ない。

「えっ、と…もしかして、亜久津の家に泊まるってこと…?」
「…自分で考えろよ」
「ご飯とかは…」
「ババアが作んだろ、」
「親には何て言えばいいんだよ…」
「ババアが連絡した」

なんでこんなに用意がいいのか。
トントン拍子で事が進み、気付けば俺は今日亜久津の家に泊まることになってしまったのだ。
俺は余りにも急すぎる展開に溜め息を漏らした。
南に「明日の朝練遅れるかも」とメールをして、これからどうするかを考えよう。
とりあえず服を着たい。
亜久津に言うと少し考えてから、Tシャツと山吹の短パンが返ってきた。
短パンには几帳面な字で「亜久津」と書かれてある。母親の字だろうか。
さほど身長に変わりはないので、サイズはぴったりだった。
「亜久津の服、ぴったりだな。ありがとう」
「…ふん」








その日の夜、亜久津は俺にベッドを譲って床で寝ると言い出した。
確かに今日は蒸し暑いし、大の男二人でここに寝るのはキツいかもしれない。
だけど、別々で寝る。それだけの事なのに、なぜかたまらなく寂しく感じてしまった。もう少しだけ亜久津といたい。俺は心の中でそう思っていたのかもしれない。
テレビを見ながら寝る支度を始めた亜久津におずおずと口を開く。

「なあ、亜久津」
「あ?」
「あのな、その、寝る時のことなんだが……」

中々次の言葉が出てこない俺に苛立ちを感じた亜久津が舌打ちをした。
「早く言えよ」
「あー、えっと、お…同じ…ベッドで…寝ないか?」
「…はあ?」
顔にはみるみる熱が上がる。耳が熱くて仕方がない。
「暑いじゃねーか」
「ど、どうせ泊まるなら、暑い…方が、いいだろ…」
あまりにも慌て過ぎて理由がよく分からなくなってしまったが、どうやら亜久津は俺の言いたい事を理解してくれたようだった。
仕方ねえな、とか、あちいんだよ、とか呟きながら嫌そうな顔をしたものの、大人しく俺の隣に寝転んでくれた。

「…おい」

「…な、何?」

亜久津が俺の顔は見ないまま話しかけた。俺は思わず驚いてどもってしまう。





「……お前は、…俺でいいのか」
「…?」




こういう話を亜久津からふっかけてくるのはちょっと珍しい。好きとか嫌いとか、そういった話題は基本俺から振る上、余り表に出さないからだ。
今になって改めて思うが、俺は元々嫌いだった亜久津をこうして好きになったのだから、世の中何が起こるか分からない。少し前の俺なら、亜久津に話し掛ける事もおろか、近付くのも拒むだろう。

俺でいいのか、なんて聞かれて、今更「良くない」なんて言う訳無い。俺はちゃんと、亜久津が好きだ。


「亜久津」
「…」
「俺は、…亜久津でよかったと思ってるよ」
「…」
「…確かにさ、亜久津は誤解されやすいだろうけど…俺は、全部含めて、その…あー……す、好きっていうか…うん…まあ…」
「チッ、ハッキリしろよ」
「…えっと…す、…すき、だ…?」

言葉にするのは難しいけど、亜久津は俺の気持ちを分かった上で言っているんだと思う。…けど、恥ずかしい。

「…フン…そうかよ」
「なっ、なんだよ…恥ずかしいんだぞ」

背中合わせになって寝転んでいるからよかったけど、俺は自分のこういう意見を面と向かって言うのは苦手だ。
亜久津相手となると、そのハードルは益々高くなる。正直、顔から火が出そうな程暑い。
でも、今だから言えたし、恥ずかしさに死にそうだけど言って後悔はしていない。きっと亜久津も口にはしないけど、俺の事が好きだと思う(でないとこんな風になっていないよな)。
ゆっくり寝返りを打って向こうを向いている亜久津の背中に思い切って腕を回すと、亜久津の肩が揺れた。
「…大胆だな、てめーは」
「たまにはいいだろ、折角俺が言ったんだし」
「…フン、そういう所は嫌いじゃねえ」
「素直に、好きって言えよ」
「あんまり調子に乗ってっとドタマかち割んぞ」
「なんだよ、恐いぞ亜久津」
まあ亜久津が恐いのはいつもの事だけどな。

少し力を込めて背中に顔を擦り寄せてみると、ふんわりと甘い石鹸の香りが鼻を擽る。俺の着ている服も今はこの香りなんだと思うと、少し嬉しくなった。ずっとこんな時が続けばいいのにな、心地いいな、なんて思いながら、俺はまだブツブツと文句を垂れている亜久津を余所に、徐に目を閉じた。





翌日仲良く寝坊したのは言うまでもない。





_120924




777hitキリリク!大日方さんに捧げる亜東です。
始めは書けるか心配でしたが意外にも東方の可愛さに目覚めてしまいましてノリノリでした。(笑)
それに比例して文章力もノリノリになればいいんですけど…\(^o^)/
最後とかもう無理矢理感満載ですみませんでした。
遅くなってしまいすみません!それではリクエストありがとうございました!

大日方さんのみお持ち帰り可能です。

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