好き、好き、スキップ


※立海レギュラーみんな女
柳生→仁王さん
仁王→比呂海(ひろみ)

2→8

ハンカチ・ハンカチ・スキップ











「あ、ハンカチ」

全授業が終わった、終礼の前。トイレの水道で発せられた言葉だった。
仁王がぽそっと呟くと、さっと右隣からモスグリーンを基調とした、花柄の綺麗なハンカチを差し出される。


「流石じゃの」
「いち風気委員ですからね」



仁王はハンカチを受けとると柳生に微笑んで、ぽんぽんとハンカチで手を押さえた。
それを見た柳生も満足げに笑う。
当然の様に隣に柳生がいて、当然の様に柳生がフォローをしてくれる。
それが、仁王にはこの上なく気持ちよかった。
自分たちがまるで、何年も寄り添ってきた熟年の夫婦のようで。
そんな関係であり続けたいと、いつも仁王は感じている。


「ほい、どーもありがとさん」
「いえ、どういたしまして」

使い終わった花柄のハンカチを綺麗に畳み、柳生の手元へ帰す。

「あ、」

手が触れる。
華奢で神経質そうな、細く白い柳生の指に。
ああ、白魚のよう、とはこういう女の事を指すのだろうか。
柳生の髪の毛をさらりと鋤(す)くと、彼女は小首を傾げた。
しゅっと通った鼻。さらさらの髪の毛。透けるように綺麗な肌。長い睫毛に縁取られた、その、瞳。
吸い込まれそうだと思った。
自分には無いものを沢山秘めている柳生が、羨ましい。
汚い自分には無い、甘くて無垢なデザートの様に純粋で頑なな柳生の全部が羨ましかった。


「綺麗な髪やの」
「?…そうですか?」
「そんじょそこらにおる女子よりかは断然綺麗じゃ、勿論私よりものう」

ありがとうございます、と照れ臭そうに笑う柳生。



素直に可愛いと思った。
女の自分が女の柳生にこんな気持ちを抱くのは不毛かも知れないが、正直に言えば自分は柳生に特別依存している。運動場で柳生のクラスが体育をしていると気付けば柳生を目で追っているし、柳生のクラスとの合同授業があった日には物凄く嬉しい。同じ教室で同じ空気を吸いながら同じ勉強をしているのだと思うと、もう勉強している暇すらなくなる程柳生が気になる。

それくらい、女の自分は女の柳生が好きだ。




「…仁王さん、どうかしましたか?」

「ん、何にも無い」



軽く首を振れば柳生は納得したのか、行きましょう、とトイレを出ようとした。
トイレを出ると、もう二人きりの世界では無くなる。真田や他のクラスメイトに紛れ込んで、ただの生徒になる。
自分だけの柳生なんてものじゃ、なくなってしまう。
さらりと翻(ひるがえ)る髪の毛に急かされて、気付けば勝手に口が開く。



「あっ、ひ、比呂海!」



「…?」



くるりとこちらへ向いた柳生の柔らかい両頬を掴み、ぐっと顔を近付けた。
端正な柳生の白い顔が後数センチの所でぴたりと止めて、思いきり鼻息を吸い込んだ。

「す、す、…!」



「……?」















「……す、き、スキップ!!!!しながら歩かんか!!??」












「…え?あ、はい、いいですよ」








仁王さんって面白いですね。



クスクス笑われながら柳生にそう言われて、自分が恥ずかしくなった。
「スキップ」だなんて、言うつもりないのに、口が開けばその単語。







「…好き」




「え?」
「スキップ!!!」



スキップで駆け出せば真面目な顔でスキップしながら着いてくる柳生。
あぁ、そういう真面目な所も可愛い。
スキップなんてしなくていいのに。
ただ私に好きって言ってくれればいいだけなのに。
それが言えれば、苦労はしないのだろう。

仁王は背後から聞こえてくる柳生の声に微笑を浮かべてスキップをする。
何が嬉しいわけでもない。ただ、柳生が自分に向けるあの少し困ったような優しげな目が心地よかった。
柳生の髪の毛で遊んで、柳生と話をして、ごろごろ出来る心地よさがいつまでも続けばいい。そう思った。





好き、でも言えないから、スキップにしてみる。





スキップしながら、呟いた。


「…好きじゃー」

「ええ、私も好きですよ」




ずっと友達でいましょうね。
ぴょんぴょん跳ねながら柳生が言う。
友達だなんて、そんなものじゃ終わらせない。

きっといつかは私が彼女の頬を真っ赤にするのだ。
だから、その時まで柳生は余裕の顔をして私とスキップをしていればいい。
私は急にスキップをやめて、立ち止まって、比呂海にこう言うだろう。




「愛しとる」







スキップ、スキップ、スキップ。
好き、好き、愛しとる。
いつか迎えるその日まで。




___120701



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