審神者(バケモノ)と明石国行の話
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昔から、人には見えないものが、自分には見えることがあった。それは、俗にいう幽霊とか、お化けとか、妖怪に分類されるものだったのだろうと思う。全てが当たり前に見えていた自分にとって、それは生活の一部で、他の人が生きている時間と変わらない。と思っていた。政府からの通知で、十七歳になった日、子供は一斉に審神者の適正テストを受けることになっていた。その適正テストで認められたものは、有無をいう隙も与えられぬ間に、審神者として戦争に加担させられるのだ。世間の認識はそうだったし、自分もそう思っていた。

あの日、審神者の適正テストの結果を見て、息を飲んだ。Sランク・適正と書かれた手紙、周りの友達がけらけらと笑いながら見つめる紙には、一様に「不適正」の文字。選ばれてしまった。その瞬間から、今まで自分の見ていた世界は、変わった。クラス中が、仲の良かった友達が、向ける視線は【化け者】を見る目で、「戦争に行くんだ」と放たれた言葉が冷たく自分の中に流れ込んだのだ。その時に感じた絶望は、計り知れなかった。誰が戦争なんかしたいのか、誰が、死ににいきたいのか、誰が、好きでこんな人生を送るのか。けれど、その気持ちが大切だった人達に届くことはなく、えぐられた心を抱えて、名前は聖域へと足を踏み入れたのだ。


「主はん、手紙がきてまっせ」

そういって襖を開けた近侍の明石国行は、そんな彼女の過去を知っている唯一の刀だ。審神者として何をするもわからない中、共にいてくれた刀の一人だ。扱いにくいことも多いが、根は優しく、まっすぐな青年だ。

「あぁ、いいや、捨てといて」

送り主を見てそう告げると、彼はその手紙を迷うことなく破り、傍にあった屑箱に入れる。そうして今日の仕事を受けると、先ほど捨てた手紙に視線を落とした。

「なぁ、ええんです?」
「…ん?」
「これ、現世に帰るための申請書ちゃいますん。これを出さんと、また1年帰れへんのでっしゃろ?」

彼の瞳がこちらを見つめて、彼女が小さく笑うと、いいのと言った。

「帰っても何もないし。現世に行ったっていい事ないよ?」
「…さよか」
「みんな、なんとも思ってないよ。戦争してる野蛮な子って思ってる。そんなところに帰りたくない」


夏に良く見た、あの恐怖特番はなんだったのだろうか。スタジオで雇われた流行りのタレントがそれらしい悲鳴を上げて楽しんでいたではないか。動画は作り物や、どう見たって嘘なものも多かったが、それでも、みな、それを娯楽として楽しんでいたくせに、審神者になるだけで、適性検査をクリアしただけで、彼らが向けた視線はあの娯楽を見ていたものと違ったのだ。得体のしれない、理解しえない、付き合いきれない、そんなものばかりだった。

「でも、おかしいよね。バケモノ扱いされてるのに、私たちが守ってるのが現世って」

悲し気な笑みを浮かべ、そういう彼女が、明石は愛しかった。それでも、懸命に生きようとしている自分の主が、健気で哀れで。
彼は座っていた足を崩すと、彼女の背後に周り、その小さな背中に自分の大きな背を預けた。衣擦れの音と共に、淡い彼の香りが部屋に舞い、名前がくすくす笑う。自分の背中にかかった重みを受けた。

「明石さん?さぼりはダメです」
「さぼりちゃいます。休憩です〜」
「10分だけね」

そうして、カタカタと政府へと報告書をパソコンで打ち込んでいる音が響いて、明石は大きく息を吸い込んだ。

「主はん、ずっとここに居たらええよ。蛍も、国俊も、喜ぶわ」
「…明石さんも?」
「…しゃーないから。喜んであげますわ」

その言葉が空気に溶けて、彼女の小さな「ありがとう」が聞こえた。


嗚呼、恥ずかしい。早く寝てしまおう。と、明石が少しばかり体制を崩した。





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