−クリスマス数日前−






「おチビちゃん、モールと電飾はこんな感じでいいかい?」

「おー。いい感じいい感じ。あとは雪代わりに綿を乗っければ〜っと」

「だいじょうぶ翔ちゃん? 高いところは僕がやってあげようか?」

「普通に届くわッ! ったく…って、いつの間にか綿全部音也に取られてるし…」

「俺、これ乗っけんの好きなんだよね〜。このふわふわ感がたまんないっ! …えぇっとここをこうして、こっちにはちょこっとだけ乗っけて〜っと。よし!
――ジャーン! 題して、”ツリーを外に出しといたら雪が降ってきたけど屋根が被ってたせいで半分しか積もらなかったよ風アレンジ”〜!!」

「バランス悪っ! タイトル長っ!! 却下だ却下、それじゃあ見栄え悪すぎだろーが!」

「えぇー」

「あともうちょっとずらしておけば均等に積もったものを、ほんの些細なケアレスミスで片側だけになってしまったというちょっと残念な感じがとてもリアリティーがあって僕は素敵だと思いますよぉ?」

「そうだね。俺もこれはこれで斬新でいいと思うけどもな」

「………………俺か? 俺なのか? 俺のセンスのほうが間違ってるのか? 明らかにこっち側だけ飾りつけ全部見えなくなってて台無し感丸出しにしか思えないのは俺だけなのかァ!?」






リビングの一角で、朝から元気に四兄弟が大きなクリスマスツリーの飾り付けに勤しんでいる。
多少意見の食い違いもあるようだが、仲良くツリーを囲む様をコーヒー片手に見守っていたトキヤはふわりふわりと湯気のたつそれを啜りながらふふ、と目を細めた。

「どうかしたか?」

向かいの席に座る真斗がそれに気付き鋏の手を止めた。
丁度切り終えたらしい赤い色画用紙が、すでに完成していた他の三色の横に並べられる。
細長い、掌ほどの長さのそれらはどれもきっちりと同じ大きさだ。
綺麗に並べられた赤・黄・橙・ピンクにちらりと眼を向けながら、トキヤはいえ、と笑った。
「早朝からあのツリーを物置から運ぶのは骨が折れましたが、彼らの楽しげな様を見ているとその苦労も報われる、と。そう思ったものですから。…まぁ、少々元気が過ぎる気もしますが」
そう言うと、真斗も納得したように子供たちに目を向け、頷いた。
「そうだな。音也など限界までものを口に放り込み、食べきった途端にあれに飛びついていったからな。日頃から食事は良く噛み落ち着いて摂れと言っているのに、困った奴だ」
言葉とは裏腹に、真斗の表情は柔らかい。

「音也くん、十二月に入ってからずっと早くツリーでないかなぁって心待ちにしてましたからねぇ。ああそれにしても、口い〜っぱいに頬張っていた姿はまるでリスさんのようで、とってもとぉってもかわいかったな〜っ」

その傍らに、いつの間にやらやってきたらしい那月がその時の様子を思い出したのか両手を合わせてキラキラと瞳を輝かせていた。
「那月…。いくらかわいかったからといって、食事中むやみやたらに抱きつこうとするのは今後控えてくださいね。あやうく音也が口の中の物を噴出しかけ……下手をすれば食卓が大惨事だったんですから」
「…はぁい……気をつけます」

「――それで?何か用事があって来たんじゃないのか?」
「あぁっそうでした。ツリーの飾り付けが終ったので」
「短冊を取りに来たのか。丁度出来上がったところだ、持って行っていいぞ」
先程切っていた四色の紙片を束ねて、那月に手渡す。
ありがとうございます! と笑顔で受け取った那月は足早にツリーを囲む兄弟たちの元へと戻っていった。
那月からそれぞれ好みの色の短冊を受け取り、兄弟たちは思い思いの場所に移動してそれに文字を書き入れていく。
那月とレンはリビングのローテーブルで。
音也はその脇の床で。
そして翔は、夫婦の座るダイニングテーブルの定位置――トキヤの右隣――に腰を下ろし桃色の短冊を取り出した。
それをひらひらと振りながら、翔が二人を見る。
「毎年思ってたんだけど。なんで欲しいもん短冊に書いてツリーに飾るんだ? これじゃ七夕みたいじゃん。…まぁどっかのサンタさんにはこのほうが都合がいいんかもしれねーけど」
手紙でも良くね? むしろ手紙のがぽくて良くね? と頬杖を突きながら不貞腐れたように言う翔に、トキヤも真斗も苦笑する。
「あなたは毎年、先程の綿の件のように那月やレンにからかわれていますものね」
「すまないな翔、最初に短冊に願いを書けと言ったのは俺なんだ。どこかのサンタさんがプレゼント選びに困らないようにと考えてのことだったのだが…そうか、手紙という手もあったのだな」
「どこかのサンタさんってあなたたち…、音也などはおそらくまだ信じているのですからそういった発言と視線はなるべく慎んでいただきたいのですが」
期せずして翔がサンタクロースの存在に気付いていたことが判明したわけだが、末の子が信じていなくて年上のはずの兄達が信じているというのはいかがなものだろう。と、自分で言っておきながらううんと考えてしまう。
ちょうど視界に入った音也は、短冊にプレゼントを書き終わったようでツリーの枝に結び付けているところだった。
結んだそれに向ってぱんぱんと手を叩き祈るその様は、なるほど確かに西洋の行事には似つかわしくない。
「しかしすっかり短冊が定着してしまっていますからね。あの様子では今更手紙に変えるというのは難しいですよ。彼はあれが正しい形と信じて疑っていないようですから」
「確かになぁ。ま、ここは俺様が大人になって、あいつらのいやがらせに耐えてやっか」
どこか全てを諦めたかのような瞳でふっと笑い、ようやっと翔も短冊に欲しいものを書き始める。
最年少とは思えない大人びたその横顔に、トキヤは密かに彼の将来を心配しつつふとあることに思い至り顔を上げた。
「そうだ翔、短冊に”身長”と書くのはやめてくださいね。いくらサンタでも出来ることと出来ないことはありますから」
「そうだな、せめてもと乳製品の詰め合わせなどを用意することは可能だろうが…」
「〜〜〜、書かねぇしいらねぇよッ!!」
眉根を寄せ神妙な顔つきで忠告する父親とそれを受けて腕を組みうんうんと頷く母親に、小さな末子はペンを持つ手をふるふると震わせて叫んだ。






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