・次男と夫婦













トントンと階段を下りてくる足音に真斗は編み物の手を止め、リビングに現れた次男坊に眼を向けた。
先程帰ってきた時とは違う服装に、手櫛ではあるが髪を整える仕草。

「なんだ、出かけるのか?」

「ん? あぁ、まあね。麗しき未来の美人教師と、一足早い恋のレッスンさ」

「……お前という奴は…。交友関係に一々口を出すつもりはないが、ほどほどにしておけよ。――というか、俺の記憶違いでなければ以前お前が口にしていた相手はたしか、雑誌モデルの女性ではなかったか?」

「へぇ、よく覚えているな。そのレディとは三週間後にまたデートをする予定だ」

「……遊び歩くのは勝手だが、大概にしておかないと廻り回って痛い目を見ることになるぞ。お前のことだから要領よくやっているのだろうが、女性を悲しませるようなことは絶対に ――と、電話が鳴っているぞ」

「おっと。ん、件のレディからだね…。
――やぁ、どうしたんだいレディ? 予定の時間にはまだ時間があるようだけれど…もしかしてもう俺に会いたくなった?」

話し始めてしまったレンに、聞こえない程度に真斗は小さく溜息を吐いた。
いつの間にやら毛糸玉にじゃれついていたクップルに詫びを入れて用具をしまい、キッチンへと向かう。
冷蔵庫を開けて食材の残量に一通り眼を通してから、愛用の巾着に財布を入れたところで通話を切る音がした。
カウンター越しからリビングに顔を向けると、やれやれといった体で髪を掻き上げる姿。

「随分と早かったようだが…、もう行くのか?」

「いや、出かける予定はナシになったよ。ゼミの飲みが入ってしまったんだと」

「それは残念だったな」

「ま、そういう日もあるさ。……っと、夕飯の買出しかい?」

「ああ。近頃とんと寒くなってきたことだし、今夜は鍋にでもしようかと思っているんだが。用事もなくなったことだ、お前も一緒に来ないか?」

「ふうんそうだな……。まぁ暇なことは確かだし、非力なお袋のために荷物持ちでもやってやりましょうかね。……それにどうせ、誰かさんのために具沢山の野菜鍋にでもするんだろうしぃ?」

「む、俺は非力というほど力がないわけではないぞ。日本男児たるもの…そして家庭を支える主婦として、夕飯の食材くらい一人で持てなくてどうする。…それと別にトキヤのためだけに野菜鍋にしようというわけではない。もう成長期を終えたお前や那月はともかく、育ち盛りの音也たちにはバランスよく栄養を摂って、大きく健康的に育ってほしいからな」

「誰もダディのことだなんて一言も言っていないんだけれどねえ。あーぁ、ゴチソウサマなこって」

「な…っ! お、親をからかうものじゃないっ」

「へいへい、どーでもいーからさっさと行こうぜ」

「待て、お前はいつもいつもそうやって、―――」












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