真斗と出会って二週間後の月曜日。
引越しの日取りは、明日に迫っていた。
夜、クラスメイトからもらった色紙を段ボールに詰めながら、トキヤははあと溜息を零した。
その日も真斗が学校に現れることはなく、また無駄になってしまったモンブランは先程トキヤが自分で食べた。
おいしくつくれたのにな。
最初は下に敷いたダックワーズがうまく膨らんでいなかったりクリームがうまく巻けなかったりもしたが、何回も挑戦しているうちにもともと覚えの早いトキヤはもうすっかり上達していて、ダックワーズもクリームもそのほかもぜんぶが上手にできた。
今日が、最後のチャンスだったのに。
うまく作れたモンブランを手に、『明日で自分は引っ越してしまうから、今日はきっと会えるかもしれない』なんて幼稚な期待を抱いて登校したトキヤに、しかし現実は無情な結果を突きつけた。
結局、トキヤは真斗にモンブランを食べさせてあげることはおろか、もう会うことすらできなかったのだ。
そんな事実を徐々に実感していくと、じわりじわりと涙が溢れてきた。
目尻に溜まっていったそれが、耐え切れずぼろりと溢れたその瞬間、突如家の電話が鳴り響いた。
受話器を取った母は、すぐにトキヤを呼び寄せた。

「な、に」

目元を拭い、見上げたトキヤに母は受話器を差し出した。

「あなたにお電話ですって」
「だれから……?」

トキヤは首を傾げた。
トキヤのもとに電話を掛けてくる友だちはあまりいないからだ。
けれどその後母が返した名前に、トキヤは慌てて奪うように母から受話器を受け取った。

「も、もしもし……ッ!」
『……トキヤくん?』

電話の相手は、もう会えないと思っていた真斗からだった。
トキヤは、それだけで嬉しくなってしまい受話器を耳に押し付けたままぺたりとその場にしゃがみこんだ。

『おかあさんからきいたんだ』
「……? なにを?」
『あした、ひっこしちゃうんでしょ?』
「!……うん…………」
『おかあさんがね、おじいちゃんのたいちょうがすこしよくなったって』
「……?」
『だから、いってらっしゃいって』
「……えっと、よく、わからない……」
『あした、ぜったいあいにいくから』
「!」
『だから、そのときにきっと、トキヤくんのつくったモンブランたべさせて』
「……っ!」

真斗の言葉に、身体が震えた。
手が真っ白になるほど受話器を握り締めて、トキヤは涙を溜めて笑った。

「つくるよ……! とびきりおいしいモンブランつくって、まさとくんのことまってる!」

通話が終わり受話器を戻すとトキヤはしゃがんだまま腕を抱えて縮み込み、喜びに熱くなる胸をぎゅううと強く抱きしめた。








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