「まさとくん、モンブランたべたことないんだ?」

トキヤが真斗と知り合った五日後の土曜日、隔週である午前中だけの授業を終えたトキヤは「しょくいんしつにいかなくちゃ」と言った真斗を待って、その後二人で公園へと向かった。
職員室から戻ってきた真斗は少し沈んでいるような気がした。
トキヤが真斗と出会ったあの日も真斗は職員室から出て来て、その翌日と翌々日は学校を休んでいたから、もしかしたらそれと関係があるのかもしれない。
それを真斗に訊いていいものか分からず、公園までの道すがら、トキヤは不器用ながらも励ますようにといろいろなお菓子の話を真斗にした。
そうすると真斗もだんだんと笑ってくれるようになり、トキヤは内心でほっと胸を撫で下ろした。

「うん。おじさんのおみせにはないから」
「じゃ、じゃあ、ぼくがまさとくんのためにつくってくるよ……!」

辿り着いたブランコで、トキヤが焼いてきたバターケーキをつつきながらも残念そうに笑った真斗に、トキヤは少し身を乗り出してそう言った。

「つくったことあるの? すごくむずかしそうなのに」
「お、おかあさんがつくるのをみてたことは、ある……。けど! まさとくんのためだから、がんばってみる!」

驚く真斗にトキヤは拳を丸めて宣言した。
トキヤには分からない真斗の悲しみが、それで少しでも軽くなればいいとトキヤは思った。

「ありがとう。たのしみにしてる」

心底嬉しそうな笑顔を見せた真斗に、トキヤは拳を一層強く握り締めた。




「ただいま」

その日の夕方、帰宅したトキヤに向かってキッチンにいた母は静かに言った。

「お引越しすることになったから。自分の荷物をまとめておいて」

そして翌週の一週間、真斗が学校に来ることは一度もなかった。

「まさと、とおくのおじいちゃんがたおれちゃったからしばらくおやすみするんだって」

真斗のクラスの少年は、モンブランを手に訪ねたトキヤにそう告げた。








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