見つけたのは自分だ。
こいつを犬や猫のように言うのはなんだが、拾ったからには最後まで自分の手で面倒をみたい。

「そんでいつかぜってーこいつの元マスターぶん殴る!」
「ぶん殴るって……。まあそうして頂けると私としても少しは溜飲が下がりはしますがしかし翔、いいのですか本当に? 確かに彼のコードを消すためにはとても有難い申し出ではありますがあなたには……こう言ってはなんですが……彼を抱えるだけの金銭的余裕などないでしょう?」

真斗と代わって端末を操作していたトキヤが、翔のあまり穏やかと言えない発言に呆れたようにちらりと一瞬だけそのアイスブルーを向けた。
その手はしかし一切止まることもなくものすごい速さでもってキーを叩き、次から次へと現れるウィンドウ群に翔には到底理解できそうもない文字列を打ち込んでは消しを繰り返している。

「そ、れは……」

翔には返す言葉もない。
日頃よく目にする、ものを食べているトキヤやセシルの姿を思い出す。
彼らは外から摂取しなくとも元から備わっている動力タンクだかなんだかで向こう五十年ほどは十分正常に動くことができるらしいのだが通常は―――マスターの意向がなければ―――ひとと同じようにそうやって食事を共にするのだ。
翔とてこれからずっと一緒ならば御飯だって一緒に食べたいと考えている。
ならば必然的にそこには単純に考えてもこれまでの二倍もの生活費が発生するわけで。
殆ど身一つで上京してきた翔はそもそもの貯金もあまりない。
加えて将来奨学金の返済も待っているし、実を言うと翔は真斗に対して決して少ないとはいえない額の借金がある。
それに関して真斗には「返さなくていい」と言われているが男として、借りたものは返さなくては気がすまない。いずれは押し付けてでも返すつもりだ。
それになにより、自分にはお金を貯めなければいけないもっとずっと大事なことがある。
どれほどの額が必要になるか知れないが、それが翔にとって途方もない数字であることは間違いない。
いまの自分のちっぽけな収入ではただでさえあまり順調とはいえないそれらの貯金も、下手をすると雀の涙ほどすら叶わなくなるかもしれない。
それは翔だって十分わかっているつもりだ。

「けど、だからってこいつ放っとけないだろ」

赤いウィンドウはいまもカウントを続けているのだ。

「金くらいどうにかなる……どうにかする」

トンっと自分の胸を叩いて、

「もう決めたんだ、男に二言はねぇ」

そう言い放った。
トキヤの手が止まり最後に軽やかな音を立ててエンターキーを叩くと、わかりました……と言って立ち上がり翔へと体を向けた。
「それでは翔。どこでも構いませんので彼にキスをして下さい」

「……………………は………………………―――はああああああああああああっ!!?」






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