十二話 理性と本能

 あれから数週間後。
 一行は草原に流れる川に沿って歩みを進めていた。

 川上の方へと歩いて行くうちに、やがて景色は草原から渓谷に変わった。ゴツゴツした岩肌の崖はしっかりしていたが、下を見下ろすと川の激流にのまれそうで、足が竦む。

 そんな場所を歩いていると、小さな洞窟を見つけた。小さい、と言っても、一行全員がゆったりできるほどの広さはある。奥に続くような道はなく、風をしのぎ、休憩を取る分には丁度良かった。

 もう日も暮れかけていたので、今日はそこで野宿をすることになった。


 乾いた枝を集めて火をつけ、いつも通りの三人で夕食を終えた。
 紗夜は洞窟の外で佇む殺生丸を見る。彼は遠くの方ばかりを見て、不快そうな顔をしていた。

「……あの様子じゃと、何か気に入らない臭いがされるのじゃろう。犬夜叉とか」

 同じく殺生丸を見ていた邪見が言った。

「……犬夜叉……?」

 紗夜は聞き慣れない名前に首を傾げる。邪見は殺生丸に聞こえないように、小声で話し始めた。

「犬夜叉というのは、殺生丸さまの弟……と言っても、人間の女から生まれた半妖じゃ。つまりは殺生丸さまの腹違いの弟に当たる。殺生丸さまは半妖なんぞと違い、立派な大妖怪じゃからな!」

 殺生丸の話をするときの邪見は、まるで自分のことを話すように誇らしげだ。

「そして、その憎たらしい犬夜叉は父君の刀……牙の剣、鉄砕牙を殺生丸さまから盗み、さらには殺生丸さまの左腕まで、何の躊躇もなく切り落としたのだ!」

「!!」

 殺生丸の左腕がないことは、紗夜も気づいていた。
 でも、まさか弟に腕を切り落とされたなんて。衝撃的な事実に、紗夜は息を呑んだ。

 それから邪見は、二人が犬猿の仲であり、犬夜叉は超単純な暴力男だと紗夜に聞かせ続けた。そのため、紗夜の『犬夜叉』という人物に対しての印象は、至極最悪なものとなったのだった。





 やがて夜は更けていき、邪見と話している間にうとうとしていたりんは、いつの間にか眠ってしまっていた。ふと空を見上げると、ほぼ円形の月が浮かんでいる。

 ――明日は満月、か……。

 紗夜はゆっくりと立ち上がると、邪見に頭を下げた。

「おやすみなさい」

「お、紗夜、どこに行くのじゃ?」

「少し暑いので、今日は外で寝ます」

 そうして紗夜が洞窟の外に一歩、足を踏み出した瞬間――。

「見つけたぞぉ!!」

「喰ってしまえーぇっ!!」

 恐ろしい獣のような咆哮を上げながら、空の雲の切れ間から幾十もの妖怪が一斉に降りてきた。
 妖怪たちは、一直線に紗夜に向かってくる。紗夜は一瞬驚いて目を見張ったが、逃げることはなかった。

 妖怪たちが紗夜に体当たりしてくる寸前。

 ――ザンッ!!

 鋭い音がして、紗夜は反射的に目を閉じた。

 そして、何事かと目を開けて見れば、妖怪たちは一瞬にして肉塊と化していた。誰がやったかなど、妖怪の体を裂いている傷跡を見れば一目瞭然。

「殺生丸様……!」

 紗夜は驚いて、爪に付いた血を払っている殺生丸を見る。

 ――助けてくれたの……? 私が死なないこと、分かっているはずなのに……。

 そう思った瞬間、とくん、と心臓が鳴った。

「数が多すぎだ。あまり自らの結界に頼るな」

 殺生丸が紗夜を静かに見つめながら言う。口調は少し厳しかったが、それも自分を心配してくれているのだと感じて、紗夜は素直に頷いた。

「はい、ありがとうございます」

 紗夜はぺこりと頭を下げ、少し離れた地面の上に横たわった。

「……何じゃ、今のは……」

 邪見は呆然と立ちつくし、その様子を見ていた。

 沢山の妖怪が紗夜を狙ってきたのは驚いた。だが、それ以上に――。

 ――い、今の殺生丸さまのお言葉……まるで、あまり無理をするなと言わんばかりではないかっ! この邪見……!お仕えしてこの方、そのような労いのお言葉はかけて頂いたことがございませぬ……! ううっ、殺生丸さま〜……!

 邪見がぽたぽたと涙を流していると、

「も〜っ、邪見さまったら、うっとうしいよ。そんなに殺生丸さまを見たら、殺生丸さまが可哀想だよーっ……ぐー……」

 りんが寝言を言った。

「おのれ、小娘……っ! どんな夢を見とるんじゃ!!」

 邪見はぷりぷりしながらそう言ってから、盛大な溜息をついた。





 翌日、一行は再び川の流れに沿って歩き出した。変わらない風景はまだまだ続きそうである。

「紗夜ちゃん、どうしたの? 今日は歩くのゆっくりだね」

「え……そ、そうかしら……?」

 口籠る紗夜の声に、邪見は振り返ってみた。
 確かに、普段なら阿吽の隣を歩いている紗夜が、今日はその後ろを歩いている。その足取りは軽く、足を挫いている風でもない。どちらかというと、意識的に遅く歩いているようだ。

 邪見は不思議に思いながらも、再び前を向いて歩き出したのだった。


 そして、この日の紗夜は特別変だった。

 最近ようやく話すようになったかと思っていたのに、あまり口を開かず、さらには邪見と視線を交わすことも一切なかった。

 視線を交わさないのは、殺生丸に対しても同じようで、紗夜が彼を見ることは一度もなかったのだ。邪見は心底不思議に思ったまま、一行は夜を迎えたのだった。





 今晩は洞窟がなかったので、紗夜たちはそのまま地面に焚火をし、夕食をとる。

「ごちそうさまでした」

 紗夜はいち早く食事を終えると、静かに席を立った。

「紗夜ちゃん、どこか行くの?」

 りんが不思議そうに尋ねると、紗夜は歩みを止めて顔だけ振り返る。

「……今日は、一人で考えごとをしたいの……」

 微笑んだ顔が、少し寂しそうだった。

「何じゃー紗夜のやつ、今日はずっと様子がおかしいわい」

「邪見さまがなんかしたんじゃないの?」

「そう言うお前はどうなのじゃ!? そもそもお前は――」

 二人の言い合いを少し離れた所で聞きながら、殺生丸は遠ざかる紗夜の背を静かに見つめていた。





「……………」

 紗夜は、りんたちのいる所から離れた岩の上に腰を下ろした。

 もう直に月が昇り、本当の夜がやってくる。今夜は満月だ。紗夜はそっと瞳を閉じ、朝を待とうと思った。
 ――しかし。

 ジャリッ、と地を踏む音が聞こえて目を開ける。視線は伏せたままにしておいた。
 誰かなんて、見なくても分かる。

「……殺生丸様……」

「……何かあったのか?」

「いいえ……」

 紗夜の顔が、ほんの少し苦しそうに歪んだのを殺生丸は見逃さなかった。

「では、私の目を見ろ」

「……っ……」

 紗夜は目を伏せたまま、静かに小さく首を振る。悲しげな表情は、そうすることが出来ない、と言っていた。

「……紗夜、昨日から不自然だ。何を隠している? この殺生丸を誤魔化せるとでも思うたか」

「!」

 紗夜が思わず顔を上げようとした瞬間、

「女ァ……!! 喰ろうてやるぅ!!」

 紗夜の背後の切り立った崖の上から、妖怪の恐ろしい咆哮が響き渡った。反射的に立ち上がった紗夜を、殺生丸が庇うように前に出る。

 暗闇の中、妖怪の目がギョロギョロと光っているのが見えた。その数は昨日の比ではない。大まかに数えても百はいる。

 ――どういうことだ? なぜこれほどの数の妖怪が、一度に紗夜を襲う?

 殺生丸は闘鬼神の柄に手をかけた。

「グアアアアアッ!!」

 妖怪たちは一斉に叫びを上げると、殺生丸たちの方へと飛び掛かってきた。

 ――ヒュッ、ドオオオオンッ!!

 刹那、刀を抜く音がして、激しい爆発音が辺りに響く。

「な、何ッ!?」

 りんと邪見が音のした方を振り返る。

 殺生丸の前にいた妖怪は、一匹残らず消え去っていた。殺生丸はしなやかな動きで、刀を納める。紗夜は呆然と彼を見つめていた。

 ――強い……! この数の妖怪を、一瞬で……!

 恍惚と見惚れていて、紗夜は気が付かなかった。

 自分が彼の瞳を見て、彼が自分の瞳を見ていたことに。――金に輝く満月が、雲の中から現れたことに。

 殺生丸と紗夜の視線がぶつかった、その瞬間。

「!!?」

 殺生丸の全身が、ドクンッと脈打った。

「っ……!!」

 しまった、紗夜が息を呑んだときにはもう遅く。
 殺生丸は眉を寄せて、自らの心臓のあたりを強く押さえ付けていた。

「は、っ……くッ……」

 殺生丸が荒く息をしながら、苦しげな呻きを漏らす。

 紗夜は自分が今何をしなければいけないか、分かっていた。自分の願いとはまるで逆の、でもきっと殺生丸が望んでいること。

 ――ここから、逃げること。

 でも、逃げたくない。殺生丸を放っておきたくない、そう思った。

「っ……殺生丸様っ!!」

 駄目だと分かっていたが、紗夜は思わず殺生丸の方に駆け出す。
 だが、あと一歩という所で、殺生丸が苦痛の濃い声をあげた。

「っ……来るな、紗夜! 早く……走れ!」

「!!」

 紗夜は弾かれたように足を止めると、一瞬迷って踵を返し、勢いよく走り出した。苦しそうな殺生丸の息遣いを後ろに聞きながら、紗夜は泣きそうになってしまう。

 ――迂闊だった。

 今日が望月の夜であると知りながら、殺生丸の側に居てしまった。こんなことになるのなら、初めから殺生丸にすべてを話しておくべきだったのだ。

 満月の夜、紗夜の身体は妖怪にとって最も有益なものになるということを。

 そう考えながら走っていたとき、紗夜はりんと邪見がこちらに出てきているのを視界の端に捉えた。

「りんちゃん、邪見様、来ちゃダメ!!」

 紗夜の叫び声にきょとんとした二人だったが、紗夜の背後に目をやって、驚愕の表情を浮かべる。

「紗夜ちゃん、後ろっ!!」

 りんの悲鳴に近い叫び声に、後ろを振り返ろうとしたとき。

 ――ガッ!!

 身体が物凄い力で後ろに引かれた。

「きゃあっ!」

 驚いて反射的に瞑った目を開けると、そこには確かに彼の姿がある。
 でも――。

「……せ、殺生丸、様……っ……?」

 殺生丸はもう、いつもの殺生丸ではなかった。

 紗夜の胴を抱いている彼の腕は、力の加減などないほど強く紗夜を引き寄せている。爪はいつもより鋭さを増し、そして、優しかった殺生丸の瞳は、飢えた獣のように赤く染まっていた。

「――せ、殺生丸さまっ!」

 邪見が殺生丸を呼ぶが、殺生丸には届かない。
 殺生丸の目には、獲物としての紗夜しか映っていなかった。

「殺生丸、様……」

 変わり果てた殺生丸の姿を見て、紗夜は心臓を抉られるような心地がした。

 辛い時に抱きしめてくれた腕も、優しい瞳も、今ここにはない。彼をこんな風に変えてしまったのは、他でもない自分だ。

「殺生丸さ――……ッああっ!」

 彼の名前を呼ぼうとしたとき、腕の力をきつく強められ、掠れかかった悲鳴が漏れる。苦しさに涙が滲んだ。

 ――すると、

「ぐ……っ……あ……紗夜、ッ……」

「!!」

 殺生丸が額に汗を浮かべながら、紗夜の名を呼ぶ。一瞬だけ腕の力が弱まって、赤い瞳が困惑したように揺れた。

 殺生丸は葛藤している。紗夜にははっきりと分かった。そして、それに胸が締め付けられた。

 紗夜を殺したい、殺すまいとする相反する思いが彼の中でせめぎ合っているのだ。
 それはつまり、殺生丸が紗夜を殺したくない存在だ、と僅かながらでも思ってくれているということである。

 力を求める妖怪の本能、殺したくないという理性。殺生丸はその狭間で苦しんでいる。

 紗夜はどうするべきか迷った。
 本来紗夜の望みは“永遠の死”を迎えること。

 殺生丸なら、紗夜の身を守る結界も破り、この身を喰らうことも出来るはずだろう。
 そうして今殺生丸に喰らわれれば、紗夜の望みは叶う。

 ――だが、こんな形で彼にそんなことをさせていいのだろうか。彼は本能と闘ってまで、自分を生かそうとしてくれているのに。

 紗夜が死んだあとで、それを自分が手にかけたと知ったら、彼はどう思うだろうか……?

 ――自分のせいで誰かが死ぬ……。その怖さも寂しさも、自分への嫌悪も、私は知っている……。それがどんなに辛くて恐ろしいものか……、一番知ってるのは私だわ……。

 紗夜は身体の力をすうっと抜いた。その分殺生丸の腕の力が強まって、息が苦しくなる。

「っ……う、」

 どんどん息が出来なくなって、目の前が徐々に霞んできたとき。

 ――バチバチッ!!

「!!」

 弾くような音がして、殺生丸が僅かに身じろいだ。
 紗夜の周りには、敵意を持つものを排除するあの結界が出来ていた。

 バチバチバチバチッ!!!

「く、うッ……ぐあッ!!」

 殺生丸を拒絶する結界が、殺生丸を消し去ろうとする。殺生丸は、痛みに呻きながらも紗夜を放すことはない。

「いやっ!! 殺生丸様っ!!」

 殺生丸がこの結界で死ぬなんて、どう考えてもあり得ない。
 そう、分かっているはずなのに。

 何度も見てきた、妖怪が自分を喰らおうとして死んでいく光景。それが頭の中をぐるぐると回り続けて、紗夜の思考回路を完全に狂わせた。

 ――死んでほしくない。殺生丸様には、絶対死んでほしくない……!!

「っ……お願い、殺生丸様……!! もうやめてっ……!!」

 紗夜は泣きながら彼の身体に手を回し、強く抱きしめた。

 殺生丸の腕の力で呼吸も苦しかったが、そんなことは頭に入らないぐらい、殺生丸が死ぬのが嫌で嫌でたまらなかった。

「殺生丸様……もとに、戻って……!」

 ありったけの気持ちを込めて彼を抱きしめると、殺生丸の腕の力が微かに緩んだ。
 やがて、殺生丸は腕をだらりと下ろすと、ふらりと紗夜にもたれかかった。

「! 殺生丸様……!!」

「っ……紗夜……」

 すうっと殺生丸の爪がいつも通りに戻り、赤かった瞳も元の金色の光を宿している。

「良かった……殺生丸様……!」

 ほっと安心しながら殺生丸の身体を支えると、彼は荒い呼吸を繰り返しながら紗夜に言った。

「……すまない……苦しかったか……?」

「っ!」

 ――苦しいのは自分だって一緒だったのに……。私より、ずっと苦しかったはずなのに……。

「ごめんなさい……!! 私が……もっと早くに、言っていればよかった……! そうすれば、殺生丸様はこんなことに……ならなかったのに……っ!!」

 涙と嗚咽が混じりながらもそう叫ぶと、結界のせいでボロボロに傷ついた殺生丸がふと言った。

「構わん。お前は、死ななかった……」

「!!」

 紗夜ははっと息を呑んだ。
 殺生丸はもたれかかっている紗夜の瞳を見て、静かに言う。

「先ほど、お前は私に喰らわれ死ぬことが出来た。だが、お前はそれをしなかった。……己の望みと何を秤にかけたのか――。だから構わん、気にするな」

 ――私が秤にかけたもの。
 私の望みと、殺生丸様の心。
 殺生丸様は、どうして分かってしまうんだろう。

 紗夜は泣きながら掠れる声で返事をして、こくりと頷いた。

 いつもより近い、殺生丸の肩を抱きしめて。





「ねえ……邪見さま、どうしてりんはこっちを見てなきゃいけないのー?」

「小娘のお前には、まだ早いわい」

 りんは紗夜たちとは反対方向を向いて、地面に屈んでいた。それを指示したのは、言うまでもなく邪見である。

「邪見さまのケチ。心が小さいから、背も小さいんだよ」

「な、なんじゃと……!! これでも少しは気にして――」

「あーっ!!」

「な、なんじゃ! 突然!!」

 邪見の言葉を遮って、りんが叫んだ。そして、さっと立ち上がると、空を見上げて指を指す。

「見て! すごい数の妖怪だよ!」

「!? な、なんと……!」

 邪見もりんの指し示す空を見上げると、数百、数千と言ってもいいぐらいの数の妖怪が、ひしめき合って空を泳いでいた。

「あんなにいっぱい……どこ行くのかなぁ?」

 のんびりした口調でりんが言う。邪見は、嫌な汗が流れるのを感じた。

「……なありん、なんか近づいて来てる気がするのは、わしの気のせいか?」

「え?」

 りんと邪見が空を見上げると、

「ガアアアァッ!!」

 咆哮とともに、妖怪の群れが押し寄せてきた。

「「きゃあああっ!! 殺生丸さまあぁぁっ!!」」





「「!?」」

 邪見とりんの声に、紗夜がそちらを向くと、二人は死にもの狂いでこちらに駆けてくる。
 そして、その背後には何千ともいえる妖怪の群れが迫ってきていた。

 狙いは間違いなく自分だ。
 紗夜は瞬時にそう判断して、殺生丸を見た。

 殺生丸は迫りくる妖怪が近付いてくるのを待つように、闘鬼神の柄に手をかけている。
 でも、彼は今怪我をしている。なにより体力をかなり消耗しているのだ。

 これほどの数の妖怪を相手するのは、今の殺生丸の身体に確実な負担を掛けてしまう。そのうえ、守らなければいけない者が三人もいては、全員の命が危ない。

 ――紗夜はぎゅっと拳を握って覚悟を決めた。
 妖怪の狙いは紗夜なのだ。ならば、自分がここを離れればいいだけのこと。そうすれば、邪見もりんも、殺生丸も助かる。

 妖怪の群れが、目の前まで迫った瞬間。
 殺生丸が闘鬼神を抜こうとするのと、ほぼ同時だった。

「殺生丸様」

 紗夜の静かな声に、殺生丸がそちらを振り返ると、紗夜は儚げに笑っていた。

「……?」

「ありがとうございました」

 紗夜はそう言うと、すぐ後ろにあった崖の方へと後退する。
 殺生丸がはっと気が付いたときには、もう遅かった。

 フッ、と、紗夜の姿が消えた。

「!!」

 殺生丸が急いで崖の方に向かおうとすると、妖怪の群れが阻むように行く手を塞ぎ、紗夜の姿を追って、崖の下へと落ちていった。

 すぐに後を追おうとしたが、りんと邪見に目を付けた数百の妖怪が、二人を取り巻いている。

「チッ……」

 殺生丸は舌打すると、その妖怪へと斬りかかった。
 逸る気持ちを抑えるように、殺生丸はただひたすら刀を振るった。

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