5話 触れた指先

「行ってきまーす」

 月曜日の朝。

 玄関先で声を掛けたあと、音羽はいつも通り家を出た。
 通りに出ると初夏の心地良い空気に身を包まれ、穏やかな朝日に照らされる。

 暑くも寒くもないこの季節の気候は気持ちいい。けれど、土日の間も夜中まで勉強していて寝不足気味になっている今の音羽は、その気持ちよさについつい眠くなってしまいそうだった。

 ――授業、寝ないように気を付けなくちゃ……。

 音羽は自然と出そうになる欠伸を我慢して、並中への道をのんびりと歩き出した。



 

 並中の校門前には、生徒たちの姿が沢山あった。
 
 休み明けのせいか、はたまたもうすぐテスト期間になるせいか。
 一人で登校している生徒は、少し浮かない顔をしているように見える。友達と一緒に歩いている生徒たちは、皆楽しそうにお喋りし合っていた。

 ――が、そんな彼らも校門を潜る頃にはきゅっと口を引き結び、些か緊張した面持ちで昇降口の方へと歩いて行く。

 後に続いて校門を潜った音羽の目にも、その理由はすぐに映った。


 校門を入った先から、昇降口までの道。真っ直ぐに続いたその道の両脇に、風紀委員たちがずらりと並んでいるのだ。

 彼等はほぼ毎朝ここに立っており、生徒たちの服装点検と、生徒や校内に何か異常がないかをチェックしている。
 ここに雲雀がいることはなく、大抵リーゼントヘアの風紀委員がその役目を担っていた。

 ……ちなみに。ごく一般的な生徒として、且つ一人で登校している音羽がこれまで彼等に注意を受けたことはない。
 だから、今日もぼんやりと風紀委員の作った一本道を歩いていたのだが――。

 ふと、強い視線を感じた気がして、音羽は顔を上げた。すると、

「…………」

 列の一番奥で仁王立ちしていた風紀委員――副委員長の、草壁哲矢と目が合う。
 ……しかし、彼は音羽と視線がかち合うと、すぐに目を逸らした。

「……?」

 音羽は一瞬ドキリとしたが、草壁が再度こちらを見てくることはない。何かを言ってくるような気配も一切なかった。

 ――服装、何か変だったかな?
 でも、いつもと一緒だし……。
 まあいいか……。

 何も言ってこないということは、きっと何もないのだろう。
 
 音羽は少し首を傾げたものの、それ以上は気に留めず、そのまま昇降口に入って教室に向かったのだった。




 教室に入った音羽は席に着き、鞄を開けた。教科書や筆記道具を取り出して、机の中に仕舞っていく。

 ――うぅ……眠いなぁ……。

 椅子に腰を落ち着けた途端、残っていた眠気がじんわり身体に広がって、音羽は首を軽く振った。これはちょっと、授業中に寝てしまいそうだ。

 何か眠気覚まし出来るような良い方法はないだろうか……と、しょぼしょぼする目を瞬かせていると、不意に前方から明るい声が聞こえてくる。

「おっす、片桐!」
「!山本君、おはよう」

 顔を上げると、教室に入って来たばかりの山本がこちらに歩いて来た。その後ろにはツナと獄寺も続いている。

「おはよう、片桐」
「よう……」
「おはよう、沢田君、獄寺君」

 目の前まで来た彼等に微笑んで挨拶を返すと、山本が音羽の顔を見て不思議そうに瞬きした。

「あれ?片桐、なんかすげー眠そうなのな?」
「ほんとだ。なんか意外だね、片桐が眠そうにしてるの」

 ツナも目を少し丸くして言い、音羽は苦笑して頷く。

「うん。もうすぐテストだから、最近ちょっとだけ徹夜してて……」
「ええっ!?偉い……オレなんて何も分かんないくせに、何もやってないよ……」
「ははっ、なるほどな。偉いな、片桐は!」
「感心する前にお前もやれ!野球バカ!」

 ツナは絶望するし、山本は感心するし、獄寺は怒るしで、この三人組はいつも元気で慌ただしい。
 でも、その彼等と話したお陰で、少し眠気が収まった気がする。

 音羽が三人の様子につい小さく笑っていると、次の瞬間、さらに音羽の眠気を吹っ飛ばすような大きな声が、教室中に響き渡った。

「極限ーー!!沢田はいるかあぁーー!!?」
「!!!」

 バンッ!!と、勢いよく扉が開けられると同時に、耳を劈く(つんざ)ような声がして、教室にいた全員がビクッ!と肩を震わせた。

「お、お兄さん……!」

 ツナが青ざめた顔で、背後の扉を振り返る。

 そこには、この学年では見覚えのない男子生徒が立っていた。ツナの隣にいた獄寺も、その男子生徒とは顔見知りなのか、すぐに彼に食ってかかる。

「……ったく、芝生!!てめぇは朝からうるせーんだよっ!!」
「どうしたんスか、笹川先輩?」
「……?」

 ――笹川……?どこかで聞いたことがあるような……。

 山本が口にした“笹川先輩”に何か聞き覚えのようなものを感じつつ、音羽は突如現れた“笹川先輩”を呆然と見やる。

 するとすぐに、廊下の方からパタパタとこちらに走ってくる足音が聞こえてきた。

「お兄ちゃん、待ってー!!」
「京子ちゃん……!」
「!……」

 “お兄ちゃん”と言いながら教室に現れた京子を見た途端、ツナの頬が赤く染まる。

 嵐のように訪れた“笹川先輩”と、“お兄ちゃん”と言いながら走ってきた京子。音羽は困惑しながら、二人を交互に見つめた。

「おお、京子!どうしたのだ?」
「お兄ちゃん、お弁当持って行くの忘れてたでしょう?だから、慌てて追いかけて来たの」
「そうか!それはすまんかったな!」

 口元に微笑みを湛える可愛らしい京子に、兎に角声が大きい熱血漢、“笹川先輩”。二人の会話を聞くにかなり信じがたいことだが、どうやら二人は兄妹らしい。

 音羽がぽかんとしていると、一番近くにいた山本がこっそり耳打ちしてくれた。

「あ、片桐は初めて会うもんな。あの人は、笹川了平先輩。笹川の兄貴で、ボクシング部の主将だぜ」
「そ、そうなんだ……ありがとう……」

 何度見ても全然似てない……と思いつつも、少しずつ事実を呑み込み始めた音羽に、最早眠気の二文字はない。それくらい、了平のインパクト(というか声量)は大きなものだった。

「でもお兄ちゃん、どうして私たちの教室に来てるの?」

 了平は小首を傾げる京子からお弁当の包みを受け取って、「うむ」と一つ頷くと、ツナの方へ勢いよく向き直る。

「今日は極限に、沢田をボクシング部に入れに来たのだ!!!」

「ええーっ!!またー!?」

「もう、お兄ちゃんったら……!ごめんね、ツナ君……」

「い、いやいや!謝らないで、京子ちゃん……!」

「沢田、お前は百年に一人の逸材だと言っているだろうが!なぜ分からんのだ!!」

「分かんねぇのはお前だろ、芝生頭!ってか、声でけぇんだよ、片桐がビビってんだろうが!」

「!」

 そう言って獄寺は、呆気に取られている音羽を見やった。全員の視線が一気に集まり、瞬時に音羽の身体が緊張で硬くなる。

「うん?極限に見慣れん奴だな」
「あっ、音羽ちゃん!ごめんね、びっくりさせちゃって……」
「う、ううん……!」

 申し訳なさそうな顔で謝る京子に、音羽は慌てて首を横に振る。

「なんだ、京子。知り合いか?」
「うん、片桐音羽ちゃん!この前、ハルちゃんたちと一緒に遊んだんだよ!」
「え、そうなの!?いつの間に……」

 唖然とするツナとは対照的に、了平はなるほどと納得したように大きく頷き、音羽の方に一歩歩み寄った。

「そうか、京子の友達だったか。驚かせて悪かったな、これからも京子と仲良くしてやってくれ」
「あ、はい……!あの、こちらこそ、よろしくお願いします!」
「!お、おう……!……そうだ、オレは極限に用事を思い出したぞ!沢田、また来るからな!!」

 音羽が微笑んで答えると、了平は心なしか顔を赤くして、来たときと同じ勢いで教室を出て行った。

「もう、お兄ちゃんったら……」
「……あ、あははは……」

 ツナは苦笑しながら、きょとんとしている音羽を横目で見る。

 ――お兄さんのあの反応……まさか、お兄さんも片桐を……!?

「いやいや、そんな……あのボクシングにしか興味のないお兄さんに限って……」

 と、ツナがぼそぼそと独り言ちていると、獄寺が不思議そうにツナの顔を覗き込んだ。

「?どうしたんスか、十代目?」
「う、ううん!何でもないよ!」
「にしても、びっくりしちまったな、片桐。でも、笹川先輩は良い人だからな!」
「うん、京子ちゃんのお兄さんだもんね」

 屈託のない笑顔を浮かべて言う山本に、音羽もにっこり頷き返す。

 初めこそそのパワフルさに圧倒されてしまったものの、了平は京子と同じで裏表のなさそうな人のように見えた。そう考えれば、見た目こそ似ていないけれどあの二人は兄妹なんだなあと、音羽は何となく納得してしまったのだった。





 了平の大声を聞いてすっかり眠気が覚めたお陰で、午前中の授業は睡魔に襲われることなくやり過ごせた。
 しかし、お昼を食べてから迎える午後の授業の眠さと言ったら――本当に耐え難い。板書の書き写しをしながら、何度頭がカクカクしかけた事だろう。

 それでも何とか寝ないまま六時間目を終えて、音羽は重い瞼を擦りながら、帰り支度を始めた。

 ツナたちは今日、ツナの家で勉強会をするらしい。一緒にどうかと誘ってもらったが、今日は図書室で集中してやるつもりだった音羽はその誘いを丁重に断って、一人図書室へと向かった。


 図書室には、相変わらず人の気配がなかった。音羽は定位置に腰を落ち着け、さっそく教科書とノートを机に広げる。勉強する科目はもちろん数学だ。絶対に80点以上取って、雲雀に報告したい。

「……よし!」

 音羽は気合いを入れるため、そして眠気覚ましのために頬を叩き、シャーペンを握って問題集に向き合った。




 一時間後――……。

「――はぁ、やっとひと段落……!もう無理、もう出来ない……」

 大きく息を付きながらペンをその場に放り置き、音羽はばたん、と机に倒れ込んだ。頭の中では数字が踊り、頭も身体も眠い眠いとさっきからずっと訴えている。

 ちょっとだけ休憩しよう。
 そう思って、音羽はノートの上に頬を乗せたまま、ぼーっと窓の外を眺めた。


 白くて小さい雲が漂う、抜けるような青空が見える。けれど、建物に反射する光は微かな赤味を帯びていて、夕暮れ時がすぐそこまで迫っていることを教えてくれた。

 浮かんだ雲がゆっくり、ゆっくり、音羽の呼吸と合わせるように流れていく。少しだけ透かしていた窓から、気持ち良い風が吹いてきて――音羽はつい、優しい風に誘われて瞼を下ろしてしまった。





 下校を告げるチャイムが鳴った。

 雲雀は書きかけの書類から顔を上げて、壁に掛けている時計を見る。時間は、午後六時。外も既に薄暗くなり、校内もしんと静まり返っていた。

 そろそろ、校舎の点検の時間だ。
 雲雀は肘掛椅子から立ち上がり、応接室を出た。


 ここ最近、放課後の点検が日課になっている。
 日中は群れた草食動物を多く目にして不愉快だが、放課後の学校は静かで良い。校内を巡回するのに、一番適した時間と言える。

 一つ一つ教室を点検し、二階三階と回る頃には六時半を過ぎていた。

 そうして雲雀が、三階に到着したとき。一つだけ、未だに電気が煌々と灯っている教室がある。廊下が薄暗い分、明々としたそこにすぐ目が留まった。

「……図書室か……」

 雲雀の口の端が僅かに、殆ど無意識的に持ち上がる。確信に近い予感を抱きながら、雲雀は真っ直ぐそちらに向かった。

 ガラと俄かに扉を開けると、案の定、いつもの席に音羽がいる。

「いつまで居るつもり?閉められない――」

 言いかけて、雲雀は口を噤んだ。

 音羽は机にこてん、と頭を乗せて、呼吸と共に肩を上下させている。

「…………」

 いつもと違って反応らしい反応を返さない小動物の前に、雲雀は静かに歩み寄った。

 蛍光灯が照らす中、音羽はすうすう寝息を立てて、どこか幸せそうな顔をして眠っている。
 側に広げられた問題集を見るに、どうやら勉強をしていたようではあるが。

「……全く、寝たら意味がないね。……?」

 雲雀は呟きながら、彼女が頬に敷いているもの――ノートの存在に気が付いて、視線を落とした。

 そこには数学の計算式やらメモやらがみっちり、所狭しと書かれており、消しゴムで消した跡や、赤ペンで書き直した跡までくっきりと残っている。

「……ふうん、頑張ってるんだ」

 雲雀はにやりと笑んで、眠りこけている音羽を見下ろした。

 “80点取ってこないと咬み殺す”という雲雀の言葉のために、彼女はとても苦手らしい数学をこれだけ必死にやっているのだろう。

「馬鹿な子……」

 音羽はぱっちりしたその瞳を閉じて、あどけない顔で寝ている。少し熱いのか頬は仄かに色付き、小さく開けた唇の隙間から静かな呼吸を繰り返していた。


 ――初めて、彼女を見たとき。
 
 図書室に入った雲雀を振り返った音羽は、他の同い年の生徒より、どこか大人びた雰囲気を持っていた。
 まるで額縁の中の絵のようにじっとしていて、夕陽の光にも穏やかな風にも溶け込んでしまうような、そんな透明感があった。

 けれど、そう思ったのも束の間で、音羽はすぐにコロコロと表情を変え、慌てたり赤くなったり大忙しで。
 そして、そんな面白い反応をするかと思えばにっこりと、まるで春日(はるひ)のような笑顔を見せる。

「……君は、よく分からないな……」

 雲雀は少し、眉根を寄せて。
 無自覚のまま、音羽の瞼にかかる前髪を指先でそっと払った。

「……ん……雲雀、さん……」
「!」

 小さな呻きと共に発された音羽の声に、雲雀は我に返る。
 起こしたのかと思ったが――どうやら寝言だったらしい。音羽は尚もすやすやと寝息を立てて、微笑んでいる。


 なぜ、自分は彼女に触れたのか。


 一瞬、不可解な自分の行動について考えかけたが、それよりも。嬉しそうに口元を緩めて雲雀の名を呼ぶ、彼女の方に気を取られた。

 ――どんな夢を見てるんだか……。

「……ねえ、起きなよ、片桐音羽。あと三秒しか待たないよ」

 そう言いながら、気持ち良さそうに眠る音羽の肩を強く揺すると、音羽は「んー……」と眠そうな声を出して、ゆっくりと顔を上げる。
 彼女は雲雀の顔を見上げ、パチパチと呆けた目を瞬かせて――次の瞬間、飛び上がった。

「ひ、雲雀さん!!?……夢……!?」
「まさか。何なら、痛い思いをさせて分からせてあげようか」
「っ……!夢、じゃない……」

 学ランの裾からトンファーをちらつかせると、音羽は頬を赤くして俯いた。

 ……どうやら、彼女にこの手の脅しは通用しないらしい。
 その瞳にトンファーという危険物は一切映らず、音羽は“雲雀がここにいる”という現実だけを飲み込んだようだった。

 この様子だと、「80点取らなければ“咬み殺す”」というあの言葉も、効いていないかもしれない。

 そんな事を頭の片隅で考えていると、音羽がハッと顔を上げ、雲雀を見つめてきた。

「あ、あの!雲雀さんは、どうしてここに……?」
「ワオ。君、今何時だと思ってるの。もう下校時間、とっくに過ぎてるんだけど」
「えぇっ!?……あ、もう六時四十五分!?す、すみません!!」

 音羽は目を丸くして時計を確認し、慌てて雲雀に謝ると、今度はしょんぼり項垂れた。

「ああ……勉強するつもりだったのに……」

 と小声で呟き、寝ていた事を気に病んでいるのか、音羽は浮かない顔で筆記用具を片付け始める。

 雲雀はそんな彼女から、彼女が上体を起こした事によって全貌を現したノートへと視線を移した。手に取って見てみると、視界の端で音羽の肩がぴくりと跳ねる。

 ……まだ間違いは幾つかあるが、以前教えた時よりも正答数が多くなっている。しかも律儀な事に、どの字も丁寧に書いていた。

「少しはマシになったんじゃない」
「えっ、ほんとですか!」

 雲雀の言葉に、肩を竦めていた音羽は途端にぱあっと、明るく綻んだ顔を向けてくる。

「ま、このまま頑張ればいいさ」
「!は、はいっ!絶対、80点取ります!」
「……」

 音羽はやる気を取り戻したように、「今夜も徹夜です!」と意気込みながら荷物を片付けた。

 ……彼女は、徹夜までして勉強しているのか。
 という事は大方、昨日も徹夜をして睡魔に耐え切れず、ここで寝てしまったのだろう。

 それもこれも、雲雀に数学で80点以上取れたと報告してくるためだと思うと、馬鹿だと思う反面、なぜか悪い気がしない。

「あの、雲雀さん……、遅くまで居ちゃって、すみませんでした……」

 荷支度をした音羽が、立ち上がって雲雀を見上げる。

「次から気をつけ……」

 て、と言いかけたとき。

 彼女がノートを敷いていた方の頬に、薄っすらと文字の跡――恐らくシャーペンのものと思われる――が付いているのが見えて、雲雀は口を閉ざした。

「?何か付いてますか……?」

 音羽は雲雀の視線を追い、慌てて自分の頬を手で押さえる。注視されるのが恥ずかしいのか、たちまちその頬が赤くなった。

「付いてるよ、文字」
「も、文字!?」

 音羽は困惑したように眉尻を下げて、ごしごしと指の甲で頬を擦る。が、場所が合っておらず中々消えない。

 ……仕方ない、と雲雀は溜息をついた。
 きっとまた、面白い反応をするだろう。

「ここだよ」

 雲雀は音羽の頬についたシャーペンの跡を、指の腹で拭ってやった。

「…!!!!」

 音羽はびくりと肩を震わせて硬直したあと、まるで林檎か何かのように顔を真っ赤に染め上げる。

「何」

 今までになく動揺している姿が面白い。
 雲雀は彼女に追い打ちをかけるようにずい、と顔を寄せて、音羽と同じ目線の高さに合わせた。

 真っ直ぐに茶色の瞳を見つめると、音羽はこめかみに僅かな汗を浮かべ、ぱくぱくと金魚のように口を動かす。

「あ、あう……あの、あ、あ、ありがとうございましたっ!!!」

 半ば叫ぶようにそう言うと、音羽は荷物を鷲掴み、図書室を飛び出した。

「ふ、」

 余りに馬鹿正直な反応に、つい笑いが漏れてしまう。

 ――やっぱり君は面白いよ。

 雲雀は機嫌よくにやりと口角を持ち上げながら、ようやく図書室の戸締りに取り掛かるのだった。


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