59話 あなたが秘密にしてるもの
草壁と共に獄寺と山本をボンゴレアジトまで運んだツナは、自分も少し休憩したあと再び医務室に足を運んだ。
先に目を覚ましたという山本に会ってから隣の病室に移動すると、ベッドの上には病衣を着せられた獄寺が眠っている。
外傷はないものの、血塗れの服のままベッドに寝かせるわけにもいかないので、草壁と協力して着替えさせたのだ。
「獄寺君はどう?」
「まだ起きねーぞ」
ベッドの側の丸椅子に座っていたリボーンに問えば、彼はこちらを振り返って言う。
「だが、まあつくづく良かったな」
「なっ……! 何が、どこが良かったんだよ!! そりゃ、今回はたまたま雲雀さんと片桐が来てくれたから二人とも無事だったけどさ……! もしそうじゃなかったら……」
言いかけて、ツナは目を伏せた。
もし雲雀と音羽がいなければ、二人はどうなっていただろう?
あの場所に残された戦闘痕を見るだけで、かなり激しい戦いが繰り広げられていたことはすぐに分かった。それは、雲雀とγの戦いで残ったものかもしれないが、だとしてもだ。
もしあの二人が来てくれなければ、獄寺と山本は――……考えるだけでぞっとする。
「確かにこの時代の音羽が来なかったら、こいつらはしばらく寝たきりだっただろうな。……でもなツナ、ミルフィオーレを相手にオレたちが生き残るため残された道は、成長しかねーんだ。それに、ピンチの次には良いこともあるはずだぞ」
「っ、お前な……!」
「――十代目……」
「!」
さらりと言ってのけるリボーンに思わず声を上げたとき、掠れた獄寺の声がツナの耳に届いた。ベッドの方に視線を向けると、片手で額を抑えながら獄寺が上体を起こしている。
「……? オレ……」
「獄寺君、目が覚めたんだ! 良かった……! 怪我なら、片桐が治療してくれたよ」
傷一つない自分の腕を見て、怪訝そうに眉を寄せる獄寺に簡単に説明すると、彼は目を大きく見開いて顔を上げた。
「! 片桐が……!? あいつも、こっちに来たんスか!?」
彼女の名前に意識ははっきり覚醒したようだ。前のめりになる獄寺の勢いに圧倒されながらも、ツナは首を横に振る。
「あ、いや、十年前の片桐じゃなくて、この時代の片桐だよ。雲雀さんと一緒に来てくれたんだ」
「! そうっスか……。……良かったです……」
獄寺は心底安堵したように、長い息を吐き出した。きっと、こんな危険な世界に彼女が来なくて良かったと思っているのだろう。
ツナだってそう思う。出来ることなら、京子たちだけでも元の平和な十年前の世界に戻してやりたい、と何度思ったか分からないくらいなのだから。
獄寺はとりあえず状況を呑み込んだのか、落ち着きを取り戻してツナの方を申し訳なさそうに見た。
「すみません、十代目……。さっきの戦いは、全てオレの責任です。……オレ、本当は……こっちの世界に来て、びびってたみたいっス……。テンパって山本に当たって、あんなことに……」
「獄寺君……」
「山本もそう言ってたぞ。いっぱいいっぱいで、獄寺に言わなくて良いことまで言っちまったってな」
「……!! じゃあ、山本も……!」
リボーンの口から出た山本の名前に、獄寺が息を呑む。どうやら、山本は死んでしまったのでは……と早とちりしていたようだ。ぱっと獄寺の瞳に光が宿り、ツナは微笑んだ。
「うん、無事だよ! 山本も、片桐が治療してくれたから元気にしてる!」
「…………」
ツナが付け足して答えると、獄寺の瞳が揺れた。二人は喧嘩することも多いけれど――と言っても、いつも山本に一方的に突っかかるのは獄寺なのだが――、やはり彼にとってもちゃんと山本は仲間の一人なのだ。きっと獄寺自身は認めないだろうけれど。
そんなことを思いながらツナがつい苦笑していると、獄寺は小さく舌打ちした。
「あいつ、まだ生きてやがったか……」
――いつもと同じだーー!
獄寺の呟きにすかさずショックを受けながらも、ツナは獄寺と山本の言葉を思い返す。
『……オレ、本当は……こっちの世界に来て、びびってたみたいっス……』
『いっぱいいっぱいで、獄寺に言わなくて良いことまで言っちまった』
「…………」
――オレ、自分のことばっかりで全然気付かなかった……。皆もこんなに余裕なかったんだ……。
「そりゃそうだぞ。京子も獄寺も山本も、まだまだ乳くさいガキンチョだからな」
「!! なぁ!?」
心の中で思っていたはずなのにリボーンに読み取られ、ツナは叫んだ。しかしリボーンは、そのまま言葉を続けていく。
「お前らは経験不足で不安定で、すぐに血迷ってイタイ間違いをおかしやがる。だが、今は死ななきゃそれでいいんだ。イタイ間違いにぶつかるたびに、ぐんぐん伸びるのがお前たちの最大の武器だからな」
「! ……リボーン……。つーか、赤ん坊のお前に言われたくないよ!!」
一瞬、家庭教師である彼の言葉に感銘を受けたツナだったが、ふと我に返って彼にツッコむ。――そのときだった、彼等が姿を見せたのは。
◇
――遡ること10分前、雲雀のアジトにて。
「そんなに気にしなくても見えないよ」
「でも……、もし見えたら恥ずかしい……」
音羽は鏡の前に立ち、ふわふわした自分の長い髪を出来るだけ前に持ってくる作業を繰り返していた。
もちろん、雲雀に付けられた首筋のキスマークを隠すために。
元を正しても悪いのは音羽なので、雲雀に文句は言えない。でも、あれから一つのみならず、何個も付けられてしまった。しかも、音羽が今持っている服ではどれも隠せない位置に。
髪に長さがあるので、ついうっかり触ったり激しい動きをしなければ見えることはないと思う。けれどそれでも不安は付きまとうし、ツナたちに見られてしまうのは何としても避けたかった。
何と言っても彼らはまだ中学生で、自分たちより遥かに年下で。子供と言ってもいい年齢なのだから。
はあ……、と自分の失態を嘆く溜息をつきたくなっていると、雲雀に痺れを切らしたように腕を掴まれる。
「それくらい見せつけてやればいい。ほら、もう行くよ」
「! あ、恭弥さん……!」
まだ最終チェックが済んでないのに、と言いたかったけれど、今日の音羽はとてもとても肩身が狭い。大人しく彼の後に続き、ボンゴレと繋がっているという噂の通路を初めて通って、音羽たちはボンゴレアジトに向かった。
無機質な廊下を歩きながら、音羽は自分の手を掴む雲雀の左腕を見る。
ツナに気を取られ、そのあとは雲雀の反応に混乱してそのままになってしまっていたけれど、γとの戦闘で負った彼の腕の傷はさっき治療させてもらった。そこまで深くなかったので治療はすぐに終わり、今も問題は全くないようである。
「……」
音羽はほっとしながら、前を歩く雲雀を見上げた。
雲雀が溜息を付いた理由は、聞いてみたものの結局流されてしまってはっきりとは分からない。
でも、どうやら音羽が恐れていたような意味ではなかったらしく、それだけはきっぱりと否定され、ついでにどうしたらそんな考えになるのかと、怒られてしまった。
きっと雲雀は、音羽を悩ませるため敢えて教えてくれないのだろうが……。音羽からしてみれば、雲雀に見放された訳ではないということだけでも分かればそれでもう充分だし、何よりそれだけで安心できた。
良かった、とごめんなさい、の気持ちを込めて、音羽は腕を少し引き、雲雀の手を握る。彼は少しこちらを振り返ったけれど、何も言わずただそれを握り返してくれた。
それから音羽たちは、廊下の途中で草壁とすれ違った。彼からツナたちのいる場所や今の状況を簡単に聞いて、やがて第二医療室の前に到着する。
ひょこっと顔を出してみれば、ツナと、目が覚めたらしい獄寺。そしてあの小さなヒットマン、リボーンの姿が見えた。
「!!」
丸椅子に乗っているリボーンの姿に、音羽は大きく目を見開く。
彼も十年前の世界からこちらに来ていると先ほど草壁に聞いたのだが、本当だった。久しぶりに見るその姿に、胸がじんと熱くなる。本当は今すぐにでも声を掛けたい所だけれど、そんなことをすれば明日音羽は動けなくなるだろう。
ぐっと自分の気持ちを抑えていると、雲雀が一歩前に進み出る。
「――ねえ、いいかな。話」
「!! ひいっ!! ひ、雲雀さん!! ……と、片桐!!」
背後から現れた雲雀に、こちらを振り返ったツナが悲鳴を上げた。音羽は雲雀をちらと見て、彼等と話すことの了承を得たあとツナに声を掛ける。
「お、驚かせてごめんね、沢田君。……あとさっきも、突然ごめんなさい……」
「え、ううん! オレの方こそ、二人を助けてくれたお礼も言えてなくて……。あの、ありがとう、片桐」
「……! ううん、気にしないで。皆の役に立てて、私も嬉しいから……」
項垂れる音羽に、ツナは首と怪我をしていない右手をぶんぶんと横に振って笑ってくれた。彼の笑顔に音羽も温かい気持ちになりながら、にっこりと微笑み返す。
すると、ふとツナの向こうでこちらを凝視している獄寺の姿が目に入った。獄寺は瞬きを繰り返し、どこか困惑しているようにも見える。それを見て、音羽もはたと気が付いた。
獄寺には、まだ直接挨拶をしていないのだ。十年も経てば姿も変わっているはずなので、誰だこいつは……、と警戒されていても仕方ない。音羽は獄寺の様子を窺い見て、彼にそっと声を掛けた。
「あの、獄寺君……私、片桐音羽です。すっかり変っちゃったから、分からなかったよね。挨拶が遅くなってごめんなさい。どこか調子の悪い所はない?」
音羽が尋ねれば、獄寺はびくりと身体を跳ねさせた。何か言いたげにパクパク口を動かしていたが、彼はやがて音羽からふいと視線を逸らしてしまう。
「べ、別に、どこも悪くねー……。……お前が治してくれたんだってな……。あ、ありがとよ……」
「うん、どういたしまして」
お礼を言うのが照れくさいのか、俯いた獄寺の顔が少しだけ赤くなっていた。中学生らしい反応が微笑ましい。つい、少し可愛いなと思ってしまう。
「……」
雲雀は獄寺のその様子を見て怪訝に眉を寄せ、それから隣にいる音羽の肩を抱き寄せた。
「君達……分かっているだろうけど、もし少しでも変な気を起こしたら……、咬み殺すよ」
「!?」
「なっ……!」
「ひっ……! だ、大丈夫です! ちゃんと分かってますから!!」
雲雀の容赦ない鋭い視線と殺気に、真っ青になったツナが縮み上がって叫ぶ。音羽は突然のことに驚き半分、恥ずかしさ半分で顔に熱が集まるのを感じながら雲雀を見上げた。
「……っ、恭弥さん……!」
何で今そんなこと言うんですか! と小声で訴えると、雲雀は「君に興味を持たれても困るからね」と、涼しい顔で返してくる。
ツナは怯えているし、獄寺はなぜか狼狽えているけれど、リボーンは……以前と何も変わらない。面白そうにこちらのやりとりを見ている。
彼等の反応からして、雲雀の言うことはただの杞憂でしかないだろう。ツナたちをただただ混乱させてしまって、申し訳ない……。そう思っていた、そのとき。
「――!!」
ふわ、と髪に触れられる感覚がして、音羽は身を強張らせた。――雲雀だ。雲雀が肩に乗せている手で、音羽の髪をゆるゆると弄んでいる。
「……っ……」
音羽は出来るだけ身体を動かさないように雲雀を見た。しかし、雲雀と視線は交わらない。
わざとだ。音羽が今一番されたくないことを、雲雀はわざとやっている。なんて意地が悪いんだろう……。
そう思いながらも雲雀の望みは自然と分かり、音羽は一歩後ろに下がって雲雀の後ろに半分だけ姿を隠す。
彼等に見られたくなかったら、下がっていろ――雲雀は言外に、そう言っていたのだ。
「…………」
――もう絶対、恭弥さんの機嫌を損ねないようにしよう……。
音羽は本日何度目か、胸の内でそう固く誓うのだった。
「お前らは相変わらずだな。会いたかったぞ、雲雀、音羽」
「僕もだ、赤ん坊」
リボーンは音羽と雲雀を見比べてニヤリと笑った。
恐らく、今雲雀の中で許可を出しているつもりはないと思うので、音羽はリボーンにそっと微笑みだけを返すことにした。……本当は久しぶりだしもっと色々話したかったのだけれど、今日ばかりは仕方ない。
「――あのー……ちょっとよろしいでしょうか?」
「!!」
少しだけ気を落としていると、不意に自分の真横から声がして、音羽はビクッと跳ねてしまった。見ればボンゴレのメカニック、ジャンニーニが、いつのまにかそこに立っている。
「何だ?」
リボーンが尋ねれば、小柄なジャンニーニは控えめに室内に入り喜々とした声を上げた。
「グッドニュースですよ! 情報収集に出ていたビアンキさんとフゥ太さんが、帰ってきました!」
◇
その後音羽は、医療室に現れたこの時代のビアンキとフゥ太に挨拶をした。
彼等と会うのも久しぶりなのでお互い積もる話もあるはずなのだが、ゆっくりお喋りする時間は当然のようになく、本来すべきだった話――音羽たちがここに来ることになった経緯や、花から京子に対する救援要請があったことさえ、話すことは出来なかった。
なぜかというと、その理由は雲雀にある。医療室内の人員が、雲雀の中で定員オーバーを迎えてしまったのだ。だがこればかりは仕方ない、何と言っても雲雀だから。
結局機嫌を損ねてしまった雲雀は音羽を強制的に引っ張って行き、自分のアジトに帰ってしまった。
ただ、本来彼等にするはずだった報告は草壁がボンゴレとの会議でしてくれたようだし、聞けば京子もボンゴレで既に保護されていたらしく無事だそうなので、音羽はようやく一安心出来たのだった。……医療室を去り際、イラついた雲雀がツナを咬み殺してしまったことだけが申し訳なかったけれど……。
――今度沢田君に会ったら、怪我も治してあげなきゃ……。左腕、まだ包帯巻いてたし……。
音羽はそんなことを思いながら、薄暗い縁側に座って息を付いた。
地下なのでここには日が差さないけれど、縁側は夕暮れのような茜色に染まっている。時間に合わせて明るさが変化するライトを使用しているらしいが、余り人工的な光に感じない。
加えて整備された和風庭園には鹿威しや葉の茂った木も沢山植わっているため、ぼんやりしているとここが地下なのだということを忘れてしまいそうになる。
今日一日を振り返ると、とても慌ただしくて――少し疲れてしまった。
草壁が聞いてきてくれた話によると、ツナたちは二日前に十年前の世界からタイムスリップしてきて、どういう訳か帰れない状態らしい。
普通はそんなことが本当にあるの? と疑うべき所だけれど、十年バズーカが関係しているのならあり得ない話ではないだろう。聞くところによると過去数回、十年バズーカは故障らしき現象もあったらしいから。
「……何だか、凄いことになっちゃったな……」
音羽は庭を眺めながら、一人ぽつりと呟いた。
ここ数日、どんどん目まぐるしく状況が変化していく。正直頭での理解が追い付いていないことも多くあって、身体だけ何とか前に進んでいるような感じだ。
ビアンキたちからの情報によれば、ミルフィオーレ日本支部のアジトはなんと、並盛駅地下ショッピングモールの先にあるらしい。敵のアジトが分かり、リボーンやツナたちは今後こちらから奇襲作戦を仕掛けることにした。
ただ、今の状態ではまだミルフィオーレに対抗できるだけの力がないので、ツナたちはこれから短時間で強くなれるよう特訓をするそうだ。
雲雀の方も自分の目的と一部合致するからという理由で、今回はボンゴレに協力すると言っていた。彼がその決断をしてくれて、本当に良かったと思う。
まだ中学生である彼等に戦いを強いるのは胸が痛いし、ボンゴレの日本における勢力はここにいる人間だけと言っても過言ではなく、厳しいものになることは想像に難くないからだ。
ただでさえこんな時代に来てしまって不安だろうに、彼等は強大過ぎる敵に立ち向かわなければならない。
……でも、彼等は自分たちが過去に帰るために戦うのだ。だとしたら、大人である音羽たちの役割は、彼等を支え、励まし、導くことに他ならない。出来得る限りのことをしなければいけないし、してあげたかった。
――私も、しっかりしなくちゃ……。
音羽は膝に乗せた手を、ぎゅっと握った。
音羽はまだ自分の匣兵器すら使ったことがないし、過去から来たツナたちのようにボンゴレリングがある訳でもない。
だからやっぱり音羽に出来ることは限られているけれど、傷ついた彼等の傷を癒し、彼等がより多くの時間を特訓に充てられるようサポートするのは、間違いなく音羽にしか出来ないことだろう。
「――音羽」
「! 恭弥さん……」
頑張ろう、と秘かに思っていたところに、不意に雲雀がやって来た。彼はスーツから黒い着流しに着替えていて、ゆったりと音羽の隣に腰を下ろす。
最近は海外生活が長かったから、彼のスーツ姿しか見ていなかった、けど。
やっぱり彼は、着物がとてもよく似合う。
ついその姿に見惚れてしまっていると、雲雀と視線が重なった。ふ、と微笑まれると、余りに綺麗なその顔に頬が熱くなってしまう。
「おいで、音羽」
雲雀は胡坐をかいた自分の膝を示して音羽を呼んだ。少し躊躇したものの、音羽は大人しく彼の上に座らせてもらう。
後ろから包まれるように抱きしめられると、未だに心臓がドキドキと脈打った。彼の温もりを感じながら、そっと回された腕に手を添える。
「……君が気負う必要はないよ」
「……! 恭弥さん……?」
雲雀に耳元で囁かれ、音羽は小さく息を呑んだ。まるでさっきの音羽の決意を、見透かしたような言葉。
驚いて振り返ろうとしたけれど、しっかりと身体を抱いてくれる雲雀の腕の力が緩むことはなく、音羽はそのまま首を傾げる。雲雀は微笑すると、音羽の首筋に顔を埋めた。
「君は、僕の側にいればそれだけで良い」
「……?」
息を吐き出すようなその囁きは、独り言を呟いているようだった。誰に聞かせるためでもない、彼の本心をそのまま映しているような。どこか寂しくて、けれどとても優しい響き。
何の脈絡もなかった彼の言葉とその声色から、彼がこれ以上説明する気はないのだと悟る。
「…………」
胸がほんの少し苦しくなるのと同時に、音羽の脳裏に一瞬、“今日のこと”がちらついた。
雲雀が、γに言っていた言葉。
……でも、すぐに頭から消してしまう。
音羽はただ目を伏せて、彼の腕をぎゅっと抱きしめ返した。
「……恭弥さん、大好きです」
そう伝えれば、背後から僅かに驚いた気配が伝わってくる。雲雀は笑んで、「僕もだよ」と、甘く囁き返してくれた。