17話 光

 辺りに落ちたのはのしかかるような沈黙と、吸い込むだけで身体が重くなってしまいそうな空気、だけだった。


「うそ……、」

「そんな……」

 自身の手で側頭部を撃ち抜き、動かなくなってしまった骸の身体。音羽は呆然と座り込み、ツナたちは立ち尽くしている。

 こめかみから流れ出た彼の血液が、床に赤い模様を広げていた。


 まさか、こんなことになるなんて……。
 音羽は雲雀の身体を抱いたまま、自分の手が震えるのを感じていた。

 リボーンは、『捕まるくらいなら死んだ方がマシってやつかもな』と言っていたけれど……本当にそんなことをするなんて、まだ理解が追い付かない。

 ……でも。
 
 『僕は必ず、貴女を手に入れます。どんな手を使っても』――そう言いながら、最期まで音羽を見ていた骸。

 どうしてだろう。
 最期だったはずなのに、本当に最期だと、思えないのは……。


「……生きたまま捕獲は出来なかったが、仕方ねーな」

「――ついに……、骸を倒したのね……」

「「!」」

 特に動揺した素振りもなく、リボーンがいつも通りの声音で言うと、不意にビアンキの声がした。

 音羽たちが振り返ると、倒れていたビアンキが上体を起こしている。
 腹部から出血しているが、どうやら無事なようだ。

「よかった……!ビアンキの意識が戻った!」

「……肩、貸してくれない?」

「……?」

「沢田君……?」

 ビアンキを見て、なぜか眉を顰めるツナ。

 どうかしたのだろうか? 音羽は不思議に思って、下からツナの顔を見上げる。

「しょーがねーな……。きょ、今日だけだからな」
「――獄寺君!!行っちゃだめだ!!」

「「えっ……?」」

 獄寺がビアンキの側に向かった瞬間、怪訝な顔をしていたツナが大きな制止の声を上げた。音羽も獄寺も、目を丸くする。

「どうかしたの?ツナも肩を貸して……」

「え……!?あ……うん、……」

「……?」

 ツナは自分自身の言動に戸惑っているような、どこか釈然としない様子で頷いた。
 ビアンキの元へ歩いて行くツナに、音羽は首を傾げる。
 
 ツナの顔色が、少し悪いような気がした。……何か、気になることでもあるのかもしれない。

 不安に思いながらも、音羽は一先ず雲雀の身体を床に横たえた。
 本当は柔らかい所で休ませてあげたいけれど、仕方ない。

 起きていたときより穏やかに見える彼の寝顔を確かめてから、音羽はツナたちの方を振り返る。


「いいっスよ十代目は。これくらいの怪我、大丈夫っスから」

「すまないわね……隼人」

「ほら、手」

 獄寺は少し照れ臭そうにしながら、片手をビアンキに差し出した。

 「はい」と、彼女が答えて伸ばしたのは――鈍色の、光。


「……?!なっ、何しやがんだ!!」

「!」
「ビアンキさん……!?」

 ビアンキは、骸の持っていた槍の穂をいつの間にか掴んでいて、それを獄寺向けて突き出していた。

 獄寺は咄嗟に身を引いたものの、その頬には細いかすり傷が出来ている。

 突然のビアンキの奇行に、全員が驚いていた。

「まあ、私ったら……!」

「ビアン――!」

 言いかけて、なぜかツナが口を噤む。

「何やってんだビアンキ。しっかりしろ、刺したのは弟だぞ」

 リボーンはぴょんと跳ねて、ビアンキの顔を小さな手でぺちぺち叩いた。

「私……なんてことを――したのかしら!!」

「「「!!!」」」


 ビアンキの声色が、急に変わった。
 彼女は勢いよく身体を起こし、刃をリボーン目掛けて思いっきり振り下ろす。

「……こいつは、厄介だな」

 軽々と攻撃を躱したリボーンは、ひらりと地面に着地した。

「まさか……マインドコントロール!?」

「ちげーな。何かに憑かれてるみてーだ」

「そんなことが……、」

「何言ってるの、私よ」

 ビアンキは眉尻を下げて笑っているけれど、その瞳は笑っていない。

 でも、憑かれているって“何に”……?

 音羽が怖々彼女を見ながら考えていると、

「……ろくどう、むくろ……?」

「!!」

 怯えた顔で、ツナが小さく呟いた。


 ――空気が変わる。

 二度も三度も温度が下がった気がして、背筋に冷たいものが走った。肌が、粟立つ。


「――クフフ、また会えましたね」

「!」

 俯いたビアンキの笑い方は、もう……彼女のそれではない。

 顔を上げた彼女の右目は、骸と同じ、赤い色。瞳孔に“六”が浮いている。

「で、でたぁぁ!!」
「祟りだぁぁ!!」

 ツナと獄寺が同時に悲鳴を上げた。

「そんなバカなこと、あるわけねーぞ」

「で、でも……!骸は死んでるし!!」

「……」

 ツナの言う通り、骸は、床に倒れたまま。

 音羽はごくりと、唾を呑んだ。

 彼女――いや、彼は。
 刃を握りしめてゆらりとその場に立ち上がる。口に薄い、笑みを浮かべて。

「クフフ……、まだ僕にはやるべきことがありましてね……。地獄の底から、舞い戻ってきましたよ」







「ご、獄寺君……!」

 ツナは三叉槍の刃を握り、自分に迫ってくる獄寺を見た。
 
 獄寺の右目は骸と同じ。
 ――彼は今、骸に憑依されているのだ。


 骸が先ほど、自殺に見せかけて自身に撃った弾。
 憑依弾と言うそれは、他人の肉体に取り憑いて自在に操る力があるらしい。

 ビアンキと獄寺は今、いつ骸に憑依されてもおかしくない状況だった。


「――憑依弾は、エストラーネオファミリーが開発したと言われる特殊弾だ」

 リボーンは、獄寺に憑いている骸を見上げた。

「だが、使用法があまりにも惨かったため、マフィア界で禁弾とされ、弾も製法も葬られたはずだぞ」

「この憑依は、マインドコントロールの比ではありませんよ。操るのではなく、乗っ取るのです。そして、頭のてっぺんから爪先まで支配する。……つまり、この身体は――僕のものだ」

「や、やめろ!!」

 不気味な笑みを浮かべた骸は、獄寺の首筋に食い込むほど強く、爪を立てる。
 ツナは叫んだ。獄寺の首から、一筋血が流れ出る。

「ランチアほどの男を前後不覚に陥れたのも、その弾だな。だが、なんでお前が持ってんだ?」

「僕のものだから……とだけ、言っておきましょう」

 骸は静かに答えると、ツナを見下ろした。

「さあ、次は君に憑依する番ですよ。ボンゴレ十代目」

「なっ……オ、オレ!?」

「……やはり、お前の目的は……」

「クフフフ、目的ではなく手段ですよ。若きマフィアのボスを手中に納めてから、僕の復讐は始まる」

「な、なに言ってんの!?オレはダメダメで、良いことないって!!」

 ツナは必死に伝えるが、骸は口角を上げるだけ。少しも聞いている気配はない。


「奴の剣に気を付けろ。あの剣で傷付けられると、憑依を許すことになるぞ」

「そ、そんな!!」

「よくご存知で」

 骸が憑依した獄寺は、持っていた刃を放り投げた。
 すると入れ替わるように、倒れていたビアンキが立ち上がる。

「――その通りです。最も僕は、この行為を“契約する”と言っていますがね」

「……!」

 ビアンキは獄寺が投げた刃を掴むと、くるりと身体を翻す。

 音羽と雲雀の方に歩むビアンキに、ツナは目を見開いた。





「……!やだ、来ないで……」

 近付いてくるビアンキに、音羽は震える声で訴えた。

 ビアンキの瞳は、もう彼女のものではない。骸の瞳が、音羽を見据えている。

 ――骸の目的は、恐らく雲雀。
 今の話を聞いたうえで、骸が手に握っている物を見たら嫌でも察しが付いてしまう。
 
 けれど、雲雀はまだ意識さえ戻っていない。こんな傷だらけの身体に、もし憑依なんてされてしまったら――。


「っ……!」
 
 想像したら、考える間もなく身体が勝手に動いていた。

 音羽は雲雀を庇うように、両手を広げて骸の前に立ちはだかる。

「片桐!!」

 止めるような、焦ったようなツナの声が遠くで聞こえた。
 でも、音羽は骸を睨んだまま、逸らさない。


 身体が、小刻みに震えて止まらなかった。こんな経験、生まれて初めてだったからだ。怖い人の前に塞がって、対峙する。

 それが、こんなに勇気のいることだなんて。


 ――けれど、音羽は雲雀の背中を思い出した。

 彼が、こうして自分を守ってくれたこと。
 今日だけじゃない。これまでに何度も、雲雀は音羽を助けてくれた。

 雲雀の姿を思い出せば、音羽はここに立っていられる。自分を、奮い立たせた。


「おやおや、そこを退いてください、傾国。僕は貴女を乗っ取るつもりはないんです」

「退きません……!絶対……雲雀さんには、何もしないで……!!」

 骸を睨んで強く言うと、彼は困ったように首を傾けた。

「幾ら貴女の願いでも、それを聞き入れる訳にはいきませんね。……クフフ、そんなに震えて……とても可愛いらしいですよ。怖ければ、大人しくそこを退いて見ていてください」

「……っ、」
 
 楽しげに笑う骸に、音羽は唇を噛んだ。

 ――悔しい……。
 震えているのを、怖いと思っているのを、見透かされたこと。骸にとっては音羽なんて何の妨げにもなっていないことが、よく伝わってくる。

 無力な自分が、心底辛かった。

 雲雀がしてくれたように、自分も彼を守れたら――そう思っても、音羽には何の力も術もない。……余りにも明白過ぎた。
 
 でも――。


 ――絶対、退かない……!

 音羽は、骸をキッと睨んだ。

 例え何も出来なかったとしても、それは雲雀を守りたい気持ちを諦める理由にはならない。絶対に、何があっても。

 彼のことが、誰より大切なのだから。


「っ、片桐……!」

「仕方がありませんね……」

 向こうでツナが立ち上がったのと、骸が呟いたのは同時だった。


「?!いやっ、やめて!!」

 骸の動きは、反射で追い付けないほど早かった。立ち塞がる音羽を易々と躱して、彼は瞬時に雲雀の側まで移動する。

 骸が乗っ取っている身体は、殺し屋のビアンキだ。彼女以上に俊敏な動きが、平凡な女子中学生である音羽に出来るはずもない。

 音羽が叫んで振り返ったときには、もう。
 骸の穂の刃が、雲雀の頬を掠めていた――。


「あ……、」

 震えた息のような声が、喉の底から零れ出た。

 ビアンキがその場に倒れ、今度は――雲雀の身体が、ぴくりと動く。


「そんな……!まさか、雲雀さんの中にまで……!!」

 ツナが歩みを止めると、雲雀がトンファーを掴んで起き上がった。

「!いや、待って……!!」

 雲雀は、音羽の前を過ぎ去る。ツナの元まで走って行く。
 ――そんなに、走ったら……また傷口が……!

「っだめー!!」

「がッ!!」

 叫びも虚しく、雲雀のトンファーはツナの頬を殴打した。衝撃でツナはその場に倒れ込む。

 雲雀の身体も、その隣に崩れ落ちた。

「おや……?この身体は使い物になりませんね……。これで戦っていたとは恐ろしい男だ、雲雀恭弥……。……ですが、」

「……!」

 雲雀はボロボロの身体を、ふらつきながらまた起こした。立ち上がった彼は、今度は音羽を振り返る。


「――あと少しは、無理出来そうですね」

「……いや、……」

 雲雀の赤く染まった瞳が。
 骸の瞳が、音羽を射抜く。

 骸はゆっくり歩いてきて、音羽との距離をジリジリ縮めた。


 これ以上、雲雀の身体で何をするつもりなのか。妖しく光る彼の瞳が、怖い、だなんて。思いたくない。

 けれど、身の危険を感じて音羽はよろよろ、後退った。

「……どうです、傾国。この姿でなら、お気に召しますか?」

「な、何、言ってるの……」
 
 微笑む雲雀の身体は、もうとっくに限界だ。
 やっぱり傷口が広がってしまったのか、彼のシャツに新しい血の色が滲む。

「お願い……!もうやめて……っ!!」

「クフフ、やめませんよ。貴女が、僕のものになると言ってくれるまではね」

「!」

 ――そうか、骸は。
 
 どんな手でも使うと言っていたけれど、これは脅迫だ。音羽が頷くか、雲雀の身体が限界を迎えてしまうか。

 ……でも、ここで頷いたら骸の思う壺。骸が本当に雲雀の身体から出て行ってくれるかも分からないし、何より、この気持ちに嘘なんて付ける訳がない。


「……出来ません。私は、雲雀さんの側に居たいんです……!」

「……そうですか。……貴女の口から、そんな言葉は聞きたくなかった」

「……っ!」

 苦しそう、にも見えるように。骸が顔を歪めた瞬間、音羽の背が背後の壁にぶつかった。……これ以上、後ろに下がることは出来ない。

「やめろ、骸!!お前、片桐のことが大切なら、何でそんなことするんだよ?!」

「大切だから、こそですよ。大切だから、何よりも欲しいと思う」

 身体を起こしたツナに、骸は微笑して答える。

「僕は善い人間ではありませんからね。例え拒まれたとしても、欲しいものは欲しいと言うんです。……それに、彼女にはずっと会えませんでしたから」

「!!」

 骸は言い終わるなり、壁際に追い詰められている音羽の横に両手をついた。完全に、閉じ込められてしまう。


 雲雀の傷だらけの身体が、顔が、すぐそこにあった。けれど、いつもの雲雀じゃない。あの優しい瞳が、どこにもない。骸はその姿のまま、音羽の顔を覗き見てきた。

「……さあ、傾国。どうします?」

「やめて……!これ以上動かしたら、雲雀さんが……!!」

 本当に、死んでしまう。

 ――そんなの、絶対に嫌だ……!

 でも、骸の言うことを聞いて彼の側に居るなんてことも出来ないし、したくない。音羽が側に居たいと思うのは、ただ一人。
 
 雲雀、だけなのだから。


「ほら傾国。早くしないと、雲雀恭弥の身体が壊れてしまいますよ?それでもいいんですか?」

「……っ」

「骸……!!」

 ツナの怒った声。彼が立ち上がるのが、骸に埋め尽くされた視界の端に少し映る。

 音羽は、目から熱い涙が零れ落ちるのを感じて俯いた。ぎゅっと目を瞑ると、溢れたそれが顎を伝って落ちていく。


 こんなに、悔しいと思ったことはこれまでなかった。

 いつも雲雀は、音羽のことを守ってくれた。守り切ってくれたのに。


 ――私は守られてばかりで、雲雀さんのことをちっとも守ってあげられない……。こんなに傷ついた身体を見てるだけで、何一つしてあげられない。

 ……このままだと、雲雀さんは本当に…………死んで、しまうかもしれない。もし、そんなことになったら――そんなの、そんなの絶対に……、

「いや……」

「……何です?」

「いや……、いやあぁぁ!!!」

「ッ!!?」

 何かが堰を切って溢れ、気付けば音羽は叫んでいた。その瞬間、辺りがパアァッと、目も眩むほど明るくなる。

 ――音羽が見たのは、自分の身体から溢れ出る、余りに眩しい光だった。





「これは……!!」

「な、なんだ!?この光……!!」

 骸とツナは、突然辺りを満たしたその眩い光に目を細めた。

 ツナが何とか目を開ければ、その光は音羽の身体を取り巻いて――。
 彼女自身が、その光を発しているようだった。

「ど、どういうこと!?片桐が!!」

「…………」

 祈るように目を閉じて、光を放出させたまま立つ音羽。リボーンは黙って、帽子のつばで光を遮る。


「――くっ……!!」

 骸は、苦痛に顔を顰めた。

 光が、身体の中――もっと深いところまで侵入してくる。張り付いた闇を引き剥がすように、溶かすように、骸の精神をこの場所から追い払おうとしていた。

 けれどその光は、骸に確かな苦痛を与えるのに。
 
 不思議とどこか、温かかった。 
 
 ――懐かしい、とこんなときに思えるのは、やはり“彼女”だからなのかもしれない。


「“彼女”にはまだ遠く及びませんが……やはり、貴女なのですね……」
 
 骸はふ、と微笑んで、それ以上抗うことを止める。

 雲雀恭弥の身体から意識が離れる間際、感じたのは百年前と同じ光と、温かさ。

 ただの一つも、忘れられるはずがない。


 ――飢えをしのぐために人から盗み、生きるために人を殺す。路傍に生きる小さな命にも気付くことなく、何度も、何度も。
 
 そんな見たくもないものを見続けて、一つの命が終わりを迎えることに安堵しても、目を閉じて、また瞼を開けたなら、そこに待っているのは地獄でしかない。

 ――『早く、目を開けろ』。

 聞こえてくるファミリーの大人の声に全て塗り潰されなかったのは、“彼女”の温もりを覚えていたから。

 
 ――音羽……僕は、貴女を諦めませんよ。例え、貴女がこの男を選んだとしても。



「――あ……」

 骸の声が、頭のなかに響いた気がした。

 それを聞いた途端、音羽の身体からすうっと力が抜けて、ようやく薄っすら目を開けることができる。

 意識が、朦朧としていた。けれど、視界に映ったのは雲雀の身体が崩れ落ちる瞬間、で。

「……っ、雲雀、さん……」

 力の入らない手を何とか伸ばして、音羽は雲雀の腕を掴んだ。でも、支えられるほどの余力はなく、二人してその場に雪崩れるように倒れてしまう。

 打ち付ける痛みも感じないまま、意識が薄れた。
 そんな中で見えたのは、雲雀の安らかな寝顔。骸の憑依が解かれて、彼はいつもの彼の姿で。ゆっくりと呼吸して、眠っている。

「……よかった……、」

 音羽は心から安堵して、自分の名前を呼ぶツナの声を遠くに聞きながら、目を閉じた。 


 ――雲雀の顔にあった細かな傷が、少しばかり治っていることには気付くこともなく。





「片桐、片桐!!大丈夫!!?」

 ツナは慌てて、倒れた音羽の側に駆け寄った。
 
 音羽も雲雀も気を失っているが、規則的な呼吸を繰り返している。胸を撫で下ろし、ツナは側に来たリボーンを振り返った。

「リボーン!片桐が、さっき光って……!っていうか、何が起こったの!?」

「――治癒能力ですよ」

「!!骸……!!」

 答えたのはビアンキだった。背後を見たら、再び彼女に憑依した骸が立っている。

「百年前の傾国も、同じ能力を持っていました。自身の気力や体力を消費し、放出することで、他者の傷を治癒できる能力。そしてそれには浄化の力も含まれているため、僕はあの身体にいることができなくなった」

「う、うそ……!?……で、でも、ほんとだ……!!雲雀さんの傷、さっきより治ってる……。片桐にそんな力があったの!?」

 見てみれば、横たわる雲雀の傷は確かに僅かながら治っていた。ツナは目を丸くして音羽を見る。

 見かけはどう見ても、可愛らしい普通の少女。けれど、ここに来てから彼女には驚かされてばかりだ。

「彼女の能力はまだまだ未成熟ですが……。彼の危機に眠っていた力が解放された、という所でしょうね」

「……傾国で、癒しの力か……」

 眉を顰めて言った骸に、リボーンも難しい顔で呻る。

「君たちにはさぞお(あつら)え向きでしょう。ファミリーに加えるのに、彼女は申し分ない能力を持っている」

「だから、ファミリーとか、そういうのじゃないんだってば……!」

「クハハハ!!本当に君は面白い。そして、何とマフィア向きではない男だ……。やはり僕が――」

「その身体を、乗っ取ってあげましょう」

 ビアンキが言葉を切った瞬間、倒れていた獄寺も身体を起こして言葉を繋ぐ。
 ……しかし、今までのように先に憑依されていたビアンキが倒れることはない。

「ご、獄寺君……!?まさか、二人同時に……!?」

 ツナが悲鳴を上げた、そのとき。
 後方で扉が壊れる音がした。

 見ると、そこにいたのは――。

 骸に憑依された柿本千種と、城島犬の二人だった。


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