*女装静雄
恋人同士で、明日は休日で、お互いに気分が盛り上がったらやることはひとつだ。最近は仕事が忙しくこういうことがめっきり減ってしまったからお互いに少しそわそわしているかもしれないと、熱いシャワーを体に浴びながらトムは思った。ベッドには先にシャワーから上がった静雄が待っている。
どうせなら一緒に入ればいいのにとトムは思うのだが、うぶな恋人は照れて頭を横に振るばかり。恥ずかしくてシャワーどころではないと言うのだ。そういう染まらないところが可愛いのだが、たまにはちょっと積極的になってくれてもいいじゃないかと、トムは男のロマンに夢を馳せた。
ドレッドヘアをドライヤーで出来るだけ早く乾かしてから、トムは洗面所のドアを開けた。待たせてごめんなと言いたかったのだが、ドアの向こうの予想外の光景に言葉がつまった。バスタオルがぱさりと床に落ちたが、拾う気さえ起きない。
「え、しずお、何、やってんの…」
発した言葉でこちらの動揺がわかったのか、静雄は少し照れながらシーツを握りしめていた。トムの記憶では静雄は先ほどまで黒いTシャツとジャージを着ていたはずだった。それはうちに泊まりに来たときの風呂上がりのいつものスタイルだ。それは間違いない。
しかし目の前の静雄がいま身にまとっているのは濃紺のセーラー服だった。
何だ、これは、
「…トムさん風呂長かったっすね」
「え?ああ、うん、ドレッド乾かなくて」
「あ、そうなんすか、」
相手につられて普通のやりとりをしたが、ふと我にかえる。これは明らかに非日常な事態だ。
「ちょ、ストップストップ!」
うっかりナチュラルに流されそうになってしまい流れをせき止める。濃紺セーラー服を着た静雄はきょとんとして、あれ?トムさんはメイド服の方が良かったですか?と更にトムの頭を悩ませることを言った。
「あっ、もしかしてブレザーの方が良かったとか」
「いやおい待て、根本的に何か間違っているだろ」
「…でもトムさん女子高生好きっすよね?」
小さな子供がするようにこちらを伺い見る静雄。確かにトムは女子高生が好きだ。ああ、好きだ。ミニスカートの制服からすらっと伸びる脚や、胸元を飾る色とりどりのリボン、三年という短い間のみ着ることを許された制服の貴重さ。ブレザーやセーラー服はどちらも捨てがたく、それを着こなす女の子達の…って何言わせんだ。
「まぁ、好きだけど…何かあれ…おかしいってのはわかるよな?」
「おれ、トムさんの好みになりたくて」
「無視かよ!?」
なんだか今日はいつもの静雄じゃない。いや、風呂上がりの静雄と洗面所ですれ違った時まではまだ普通だったように思うが、いまの静雄は羞恥心をあまり感じていないような振る舞いをする。さっきまであんなに照れてひとりずつシャワー浴びたのに。あと、女装は恥ずかしがってるとこもポイントじゃないのかとトムは少しがっかりしたが、割と適応している自分にびっくりした。
「に、似合わないとは思うんですけど、そこは許してください…」
静雄は膝上丈のスカートの裾をきゅっと握る。似合う似合わないでいうならば、聞くまでもなく完璧に似合っていた。白い肌と濃紺のセーラー服とのコントラストがたまらなくそそる。
「男とに言うのもあれなんだけどさ、すんげぇ似合ってるよ」
「まじっすか…?」
お世辞ではなく本心で告げると、静雄は嬉しいしそうにふにゃりと笑った。ああ、可愛いなぁなどと見とれていたが、ふとテーブルの上に目を向けると三分の一ほど減った日本酒が置いてあった。トムの家の冷蔵庫にはビールしかなかったので、静雄が自分で持ってきたのだろう。多分生粋の恥ずかしがり屋な静雄が自らの意志で女装するというのは相当勇気がいることで、酒の力を借りたということなのだろうか。だとすればこれは計画犯か。
トムの心に悪戯心がふつふつと湧いてきて思わず胸元に手を伸ばした。静雄はびくりと肩を上げて、スカーフを揺らす。
「こんなの着ちゃってさぁ、おれの好みになりたかったんだ?かわいいねぇ静雄くんは」
上から下までまじまじと見つめると、静雄は頬を染めながら上目遣いで訴えてきた。なるほど。結構くるものがある。
「どうして欲しいんだ?」
聞いてやると、静雄は目を輝かせて抱きついてきた。バランスを失った上半身は仰向けのまま後ろに倒れる。視界にはとろんととけた瞳の静雄と静雄越しに見える天井だけ。耳元に唇を寄せられて、抱いてくださいと甘美な誘惑をされた。
ああ、なんかこいつすげぇいじめてやりてぇ。
ここまでストレートに情欲を露わにした静雄は初めてで、トムは加虐心にも似た何かが体の中でふつふつと湧いてくるのを感じていた。
太ももに跨がるように足を開いた静雄の足の間では、気の早い起立が黒のスカート越しに主張している。じっと目線を送ると、静雄は恥ずかしそうに足をもじもじさせながらトムの股間にそれを押し付けた。
「ごめんなさいごめんなさい、おれ、我慢できなくて、」
「…やらしいなぁ」
ほとんど無意識に喉を鳴らして、トムは静雄のスカートの裾を人差し指でなぞる。静雄は熱に浮かされた目をして、びくびくと全身を粟立てた。
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