*色々捏造設定






「シズちゃんそれさぁ。いくらなんでも盛りすぎでしょ…」
「ああ?」

臨也がため息まじりに呟くと、静雄は若干不機嫌そうな顔をして手に持ってる二枚の皿をテーブルに置いた。皿には色とりどりのケーキがこれでもかというほど盛られていて、甘いものが苦手な臨也には地獄でしかない。漂う甘すぎる香りに目眩すら感じる。

「それ全部食べるの?」
「当たり前だろ。残したら店の人に悪ぃじゃねぇか」
「シズちゃんってそういうとこクソ真面目だよねぇ…ってそういうことじゃなくて甘いケーキばっか食べてて飽きないの?ってこと」
「後でプリンも食べるから大丈夫」
「プリンも甘いじゃん…」

はぁと再度ため息。バニラエッセンスの香りが鼻に痛い。実は甘いものの香りもあまり得意ではなかった。

二人が居るのは池袋で人気のケーキバイキングの店だった。女性客やカップル、家族連れが目立つ店内には、男性同士で来ている客は臨也と静雄しか居ない。
それもそのはず。バレンタインである今日にわざわざカップルが多いであろうケーキバイキングの店に選んで入る男性など皆無だからだ。

「…早く糖尿病にでもなればいいのに」
「あ?今なんか言ったか?」
「なんでもなーい」

静雄はいつものように臨也を睨むが、大好きな甘味を前にしているためかいつものような戦争は起こらなかった。皿の上のケーキが次々と静雄の口に消えていくのを臨也は何ともいえない気持ちで眺めていた。

自分の目の前にも皿は置いてあるが、乗っているのはもちろん苦手なケーキではなく、ノンオイルのドレッシングのかかった野菜サラダだ。我ながらダイエット中の女子のような食事だななどと、どうでもよいことを思った。この店のいい所はケーキなどのデザートの他に、箸休めとしてのサラダや数種のパスタがあるところだ。こういうのは正直助かる。

そもそも何故苦手なスイーツバイキングに来ているのかというと、経緯から話すと長くなるので割愛するが、二人が恋人同士であることと今日がバレンタインであることが関わっていた。

せっかくのバレンタインだからと言ってチョコを渡すのも妙に気が引けて、(どちらかというと俺はシズちゃんの彼氏役でありたい為、チョコはあげるより貰いたい。でもチョコは嫌いだ。)とりあえずそんな理由で一般的なバレンタインは諦めた。

だから、せめて出来る彼氏っぽく何でもシズちゃんの好きなことをしてあげるよ!と豪語したのだが、その結果がこれだ。
はじめは「じゃあ、今すく死ね」とかなんとか恋人に向かって言ってはいけないようなことを言われたが、まぁこれも一種のツンデレだと思ってさらりとかわしておいた。とりあえず慌てて一緒に過ごすことを条件としてつけ加える。

「…まさかスイーツバイキングに連れていかれるとは思ってなかったけどね…」
「お前が何でもしてやるって言ったんじゃないかよ」
「いやだって、恋人同士になってから初めてのカップルイベントじゃん!何かやりたかったんだよ!」

でもシズちゃんが喜んでくれてるから別にいいんだけどね!
最上級の笑みを浮かべて静雄に笑いかけると、静雄はうぜぇと一言口に出してチョコケーキを頬張った。それが最後の一個だったらしく静雄はまた新たなケーキを求め席を立つ。時間はまだまだ充分にあるが、彼は一体何往復すれば気が済むのだろうか。

それにしても静雄は先ほどからケーキしか見ていなかった。ここに連れてきたのは俺なのに何か楽しくないと、臨也はやさぐれた気持ちを食べ物にぶつけた。サラダに入っているコーンをひと粒ずつぐさぐさとフォークで刺しはじめる。
(いや、確かにシズちゃんが喜んでくれているのは嬉しいんだけど…)

8粒ぐらい刺し終わった所でまた大量にケーキを盛り終わった静雄が席に戻ってきた。
今回はケーキの他にプリンなども持ってきたらしい。心なしか表情が生き生きしているように見える。全くもって楽しくない。

「なにそれ、チョコフォンデュ?そんなのも置いてるの?」

臨也の目線の先に甘そうなチョコでとろりとコーティングされたデザートが映る。形状がはっきりとしない為わからないが、多分王道のマシュマロやクッキーなどだろう。

「…チョコふぉーでゅ?何かよく知らねえけど、チョコで出来た噴水?みたいなのがあったからやってきた。すげぇよなあ」

フォークに刺さったチョコまみれのデザートを眺めながら、静雄は感嘆の声を上げる。最近ではあまり珍しくもないが、どうやらチョコフォンデュははじめてらしく、はしゃいでいるようだ。甘いものが大好きな静雄にとってここはまさしくスイーツのパラダイスなのだろう。

こんなに喜んでくれているなら連れて来て良かったとも思うが、やはりどこかつまらなそうな顔で臨也は浮かれる静雄を眺めた。目の前に恋人がいるんだから、シズちゃんはもっと俺に構うべきなんだ。暗に構って欲しいと視線を送るが見たこともないデザートに夢中な静雄は気づかない。

スイーツに嫉妬だなんて情けないにもほどがあるが、今の臨也の敵はまさしく静雄を虜にしている色とりどりのスイーツたちだった。

(早く、もっと、こっち、見てよ)

「ねぇシズちゃん、それ美味しい?」

子供のような独占欲を露わにして、臨也は椅子から立ち上がってチョコフォンデュを口に含んだ静雄の腕を強くひいた。

「は?おまえなに…」

静雄の言葉が途切れる。持っていたフォークがカランと音を立ててテーブルに落ちた。立ち上がった時に肘が当たったのか、オレンジジュースの入ったグラスも床に転がって小さな水溜まりができた。隣に座っていた女の子達が小さく悲鳴を上げてこちらを注視する。周りの視線も一気に集まったがそんなの知ったことではないと、臨也は構わずに笑った。

「…チョコフォンデュって思った以上に甘いんだね」

先ほど静雄が持ってきたのはやはりマシュマロだったと、臨也は静雄の歯形のついたマシュマロを噛みながら思った。目の前で真っ赤になりながら、わなわなと唇を震わせる静雄の口内には既にマシュマロはなかった。

「え、おま、いま、」

動揺で口がうまく回らない静雄に優越感を感じながら、柔らかいそれを喉の奥へと飲み込む。

(ああ、やっぱり甘いものは好きじゃない)

「ほら、シズちゃんフォーク落ちたよ。拾わなきゃ」
「えっ…は…なに?」

臨也の言葉が耳に入ってこないのか静雄は赤い顔で、チョコのついた唇を押さえた。

ほうら、これで俺を意識した ざまあみろ。








スイーツバレンタイン









いつもツイッターやオフでお世話になってるひわ嬢への誕生日プレゼントです。
勝手に捧げます(笑)^▽^

ひわ誕生日おめでとう!


(0214)

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