*タクシードライブのつづき
ホテルの一室で事に及ぶ。足を大きく開かされ、前戯もそこそこに赤林の欲望を体内に押し込めたトムは、サングラスの奥で笑う男を下から見上げた。赤林が腰を動かすと艶やかな喘ぎが唇からこぼれて、悔しさと気持ちよさが一緒くたになったような言い表せない感情に胸が詰まる。
ゴムについたジェルで多少は入れやすくなっていたものの、ぎちぎちと不快な音を立てて締まるそこは、じわりと染み出したトムの鮮血で濡れていた。
「っ…へたくそ」
「そんな口きいていいのかい?早く入れてってねだったのはどこの誰だったかねぇ」
「うっせぇ…」
「体は素直なのに口が悪い」
ククッと赤林が笑いながら腰を打ちつけると、トムの体は面白いぐらいにしなった。久しぶりに男を受け入れたそこから更に赤い血が滲んで、まっさらなシーツを赤く汚した。
しかしここは自宅ではないし、所詮ラブホテルというのはこういうことをする用にあるんだから、あまり気にしないでおく。
ふいに近くなった赤林の匂いに誘われて唇を開くと、彼の暖かい体温が重なった。無遠慮に入り込んでくる舌を拒まずに中で絡めれば、煙草の味が口いっぱいに広がる。
前歯で舌を軽く噛まれた時には、まるで急所を人質にとられたような感覚に陥った。
たったこれだけの愛撫で、いともたやすく赤林のペースに乗せられてしまう。
あれから何人か人と付き合ってきたが、赤林よりキスの上手い人をトムは他に知らなかった。
赤林は唇についた唾液を綺麗に舐めとってから、繋がっている部分に流れる血を指に救いとって指先をまじまじと見つめた。
「こうやって見ると生娘みたいだねぇ。おいちゃん悪いことしてる気分になるよ」
「誰がきむすめ…だ!う、あ…!馬鹿、言うな、ん、んっ、…!」
「久しぶりだけど感度は変わってない。やっぱり田中は女抱くより、こっちの方が合ってるよ」
「うっせ…っ、っ、ん、ぁ、そこ、だめ、っ、あっ、」
ピンポイントで前立腺を擦られて、トムはつま先でシーツを蹴った。トムの気持ちいいところを的確に把握している赤林は、数年のブランクを感じさせずにトムの体を蹂躙していく。元々彼に散々開発された体だ。良くないわけがない。
赤林と別れてからは男とは付き合わなかった。赤林以外の男に抱かれるなんて想像がつかなかったし、多分もう男は懲り懲りだという意識が働いたせいかもしれない。
それだから受け入れる側は久しぶりで、気を抜いたら意識が飛びそうになった。赤林のセックスは怖いぐらい上手い。
「んぁ、あかばや、し、やば、」
「本当、田中は早いねぇ。おいちゃんはまだまだかかるよ」
「あ、この、遅漏ぉ…!さっさといけっ、」
「はは、褒め言葉かな?」
「…ばかっ、んっ…あぁっ、はっ、いく、いく、っ」
声にならない声をあげてトムは欲を吐き出した。ぞくぞくと体の奥から疼きが溢れて止まらない。数回に渡って射精して自らの腹の上を白く汚す。
トムが達したのを確認してから赤林は一旦動くのを止めて、トムが落ち着くのを待った。段々と遠のいた意識が帰ってくる。
「…ずいぶん、優しいセックスをするんだな、昔は、やめろって言っても、やめてくれなかったくせに、」
「知らないのかい?おいちゃんは好きな子には優しいのよ」
「嘘、や、優しくされた、ためしなんかねぇし……あっ!」
「血も出てるし、久しぶりなんだろ?今日くらい優しくしてやるさ」
律動を開始され、じゃあ次からは優しくないのかとトムは思ったが、そんな考えはすぐに自分の喘ぎにかき消された。
ああクソ、だめだ、気持ちいい。
イったばかりの雄はまたすぐに起立してトムを悩ませる。裏筋をそろりと撫でられれば体はされるがままに快感を拾った。
「ンっ…」
鼻に抜けた声の甘ったるさに吐き気がする。
「素直に抱かれるってことは、俺のもんになる決心はついたのかい?」
「…はっ、あ、も、モノじゃねぇしっ」
「ん、ああ、そうだね、悪かった。」
謝罪と共に再度重なる唇。とろりと注がれる彼の味と歯列をなぞる舌先に焦がれた。恋人同士のようなキスに目眩がした。
トムはずっと昔から赤林のたったひとりになりたかったのだ。
でも、そんな、いまさら
「入れられてる最中に考え事かい?あんまり感心しないねぇ」
「ひあッ…!」
こちらの考えがばれたのか、弱い所を躊躇なく攻められる。急に襲った射精感から耐えようとシーツを掴んだ両手がほどかれて、赤林の背中に回された。ためらいながらも縋るように彼の汗ばんだ肩を掴む。体は正直だと言った彼の言葉を思い出した。泣きそうになった。
「田中はね、余計なことは考えないで俺のことだけ見てればいいんだよ」
「はっ、そ、そんな、いまさら…っ!」
自分の声色に迷いがあったのを聡い彼が聞き逃すはずもない。赤林の真摯な目で見つめられて、もう何が正しい道なのかわからなくなった。なんて狡猾な男なんだろう。
「好きだよ。これでも信じられないかい?」
再度優しく重なる唇。こんなキスひとつで簡単にほだされてしまう自分が嫌いだ。
「う、あ、ぁっ、ずる、い…っ、ぁ…!ん、っあ、ぁ」
「田中、」
「あ、あっ、はぁ、ひ、ぁ…!ひん、っおれもぉ…あっ、ん、すき…っ」
「トムは本当に可愛いねぇ…っ」
さっきまでとは比べものにならないぐらい強く体を暴かれて、喘ぎ声というよりは嗚咽に近い声をあげてトムは果てた。その後すぐに、赤林が薄いゴム越しに達したのがわかった。
知らぬ間に流れていた涙を彼に拭われて、トムは朦朧とした意識を抱えながら赤林に自ら口づける。初めて彼にした時のようなたどたどしい酷いキスだった。
「おかえりトム」
赤林の言葉にもう戻れない事を悟る。
それがどうにも悔しくて、嬉しくて、どうしようもない気持ちを吐き出すために、トムは赤林の肩口に思いきり噛みついた。
認めたくないだけで、答えはきっと彼に会った時から出ていたとトムは思った。
リプレイ
久しぶりに赤トムです。
うっかり続きを書いてしまいました…
蛇足感たっぷり…!
(0923)