*色々捏造設定






「四木の旦那ァ、何か飲み物でも持ってきましょうか」

「ではコーヒーで」

「旦那は…ブラックでいいですか?」

「いえ……砂糖とミルク二杯づつ」

「えっ」

「…………」

残暑の厳しい午後の14時。何やら気まずい沈黙が粟楠会事務所を覆った。

四木は甘党だった。
煙草や酒もそれなりに嗜むが、甘いものにはてんで目がない。
これはいわば、粟楠会でも極少数しか知られていない四木に関するトップシークレットのようなものだった。

色鮮やかなケーキやお菓子、和菓子などの甘味と大きなかけ離れた位置に居そうな四木であるが、自宅には常に菓子のストックがあるし、四木にとって甘いものは日常から切り離せない大事なものだ。

四木はぽかんとする赤林を横目に、事務所のガラス戸棚から平たい箱を取り出した。中にはすあまや、豆大福などの和菓子詰め合わせセットが入っていた。幹也が知人に貰ったものを、四木が譲り受けたのだ。

幹哉にはお菓子などが似合う年頃の愛娘の茜がいるが、生憎茜はあんこなどの和菓子をあまり好かないらしい。その為、家ではすぐに駄目にしてしまうと思い、甘いものが好きな四木に回ってきたのだ。

もちろんそんな一連のやり取りを知るはずがない赤林は、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で、大福をもそりと食す四木を見つめた。

「…なんですか?私が甘いものを食べてはいけないとでも?」

赤林の物珍しげな視線を別段気にした風もなく、四木は口の中の物を飲み込んでから言う。

「いやいや、とんでもねぇ、ただなんか……意外というか…なんとうか…」

「よく言われます」

しどろもどろな赤林に、あくまで淡々と答える四木は、気にもとめずにもくもくと大福を食べていく。赤林はその光景にどうしようもない違和感を肌で感じながら、コーヒーを入れに行こうと部屋を後にした。




「旦那、コーヒー入りやしたぜ。…言われた通り砂糖とミルク2杯ずつで」

「ありがとうございます」

自分の分のブラックと四木の甘いコーヒーを接待机の上へ置く。四木はこちらを見ずに御礼だけ述べて、次の甘味に手を向けた。

(甘そうだなぁ…)
赤林は向かいのソファに腰かけながら、黙々と甘味を食べ続ける四木をみつめた。なんかちょっと食べ方がリスっぽいかもしれないと、ぼんやりと思う。

彼がコーヒーをこくりと飲み込む時、喉仏が首筋を流れていくような一連の動作が妙に艶めかしく見えて、赤林は不覚にもどきりとした。

四木の食べ方はあくまで上品だった。
手づかみで食べる菓子に品も何もないかもしれないが、がっつくとか、指を舐めるとか絶対にしない。食べている最中は何があっても口を開かないし、それはそれは丁寧に咀嚼していた。

同じ甘党なら青崎がいたが、彼ならばこうはならないだろう。
大福ひとつをぺろりとたいらげた四木はまた次の甘味へ手を伸ばす。

「…人の好みには口出ししないんですけどねぇ、甘いコーヒーと和菓子って組み合わせはどうなんですかい、」

「さっそく口出ししてるじゃないですか。美味しいですよ、私にとってはね」

コーヒーと和菓子を交互に口にしながら、まるで赤林が甘味を苦手とするのを知った口振りで四木は言った。そういえば前にそんな話をした気がする。

甘味は見ているだけで胸やけがして、赤林は何も入れないまっさらなコーヒーを口にしたが、なぜだかこちらまで甘くなったような気がした。

もやもやした味覚をリセットしようと、スーツのポケットから煙草を取り出して火を点ける。すうと肺を通る煙の感覚が心地よい。その後でコーヒーを飲んでみると、しっかりブラックの通った味がした。赤林が求めていた味だった。

「やっぱり俺はこっちの方が好きだなぁ」

カップを置いて、ゆらゆらとくゆる煙を視界で遊ばせれば、何やらため息を吐く四木の姿。

「赤林さん、」
「なんですかだん…」

旦那。とつづようとした言葉はこちらに身を乗り出した四木によって塞がれた。不意の出来事に頭が追いつかなかった。

押し付けられた唇から、くちゅりと口の中に広がる甘みに赤林は呆然とする。潜り込んだ舌の甘さにめまいがした。
しばらくぶりに口にしたあんこの味はやっぱり好みではなくて、だんだんと強くなっていく四木の味に体が熱くなった。

一通り甘味に犯された後、してやられたと首を竦める赤林を見ながら、四木は唾液で濡れそぼった唇を自らの舌で拭った。

「私はね、甘いのも好きですが苦いのも好きなんですよ」

四木は、また何事もなかったかのように甘いコーヒーに口をつける。
赤林が気づいた時には既に、ブラックコーヒーの苦みも煙草の渋みも舌に残っていなかった。











ビターメルト







赤四のつもりで書いてたんですが…あれっ?…へたれ赤林×積極的な四木ってことで!←
四木さんが甘党だったら可愛い!


(0913)

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