※仏英前提
「…っ…ん…っ…ぅ」
ふと漏れてしまった声を隠すように、アーサーは両の手のひらで口元を覆った。部屋には自分以外いないのだから、別に気にすることはないと思ったが、これはもう癖だ。
「くそ、誰のせいで…!」
と、今は居ないドーヴァーの向こうの恋人に文句を投げつける。彼はセックスの時には必ず、アーサーに声を出すことを求める。彼曰わく、その方が盛り上がるそうだ。
しかしアーサーは自分のあられもない声が大嫌いなので、いかに上手に声を抑えるかに没頭した。もちろん限界はある。気持ちがよくなってくると、頭がぼーっとして声のことなど飛んでしまうのだ。だからアーサーはいつも翌日に後悔する。
最近は自慰ですら声が抑えられない自分が情けない。
今、アーサーはいけないひとり遊びの真っ最中だった。ベッドに横になって右手で慰めている。
ベッドサイドにしまってある雑誌やDVDには手を付けず、想像だけで高まった。フランシスと付き合う前までは、画面に映る淫らな女達を自分の手でどう犯すかを考えていたが、今ではそうはいかない。
自分で触ってみてアーサー。脳内で彼の言葉が蘇る。セックスの時の彼の声は砂糖を溶かしたようにあまく柔らかで、アーサーはその声がたまらなく好きだった。自分はその声に弱い。彼の声に間違いなく興奮してしまうのだ。だけど癪なので、本人には絶対言ってやらない。
もっと早く動かして。脳内の彼の言うとおりにペニスに指を絡めて上下に動かした。すぐにカウパーで先端が濡れてくる。
「ぁっ…ぁっ」
無意識に腰が揺れてベッドがギシギシ音を立てた。彼がいつも扱うように裏筋を中指でさする。体がぶるりと震えて、もっともっと快楽が欲しくなってしまう。ふるりと後ろが震えて、フランシスのかたくて長いものに突かれて気持ち良くなりたくてしょうがない。
アーサーは篭もった息を吐き出した。やっぱりだめだ。こんなのじゃイけない。アーサーの体は、いつからか前だけの刺激では足りなくなってしまっていた。
「全部あいつのせいだ…っ」
責任は全部フランシスに押し付けて、アーサーは体の裏側に指を持っていった。肌が緊張でぞわりと粟立つ。きゅ、と窄まった入り口に指を撫でつけて、恐る恐る中指を埋め込んだ。
「ふっ…っ」
するとすぐに我慢できなくなって、指を動かし始めた。リズムをとりながらピストンを繰り返す。中はぐいぐいと締め付けてくる。後ろなんて自分で触ったことがないアーサーは複雑な気持ちだった。
右手でペニスを扱いて、左手で後ろを動かす。二カ所をいっぺんに追い詰めたので、終わりはすぐにやってきた。
「あぁっ…!」
吐き気がするほど淫らな声が出て、それと同時に吐精する。シーツにぽたりと白濁が零れ落ちた。それを見て慌ててティッシュを掴む。両手を使っていたのでティッシュを使う暇がなかったのだ。しょうがない。シーツは明日洗濯するしかないなと考えながら、どこか虚しい気持ちになった。
くしゃくしゃになったティッシュをダストボックスに投げ入れて、アーサーは長い夜に溜め息をついた。
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