(もうあれから3年も経ったのか…)

ちらりとバックミラーで後ろを確認すると、赤林はちょうど煙草に火をつけた所だった。

「…赤林さん…ここ禁煙なんすけど、」

「あぁ、そうなの?最近のタクシーは厳しいよねぇ。まぁでも一本くらいならいいよね」

トムの言葉など気にも留めずに、ふうと紫煙を吐き出す赤林。その手には昔と変わらない銘柄の箱が握られている。トムの頭に一瞬懐しさが頭をよぎったものの、すぐに苛立ちにかき消された。小さく舌打ちをして、先ほどは我慢したフィルターに手を伸ばす。

「おや、タクシーの中は禁煙じゃなかったのかい?」

飄々と笑う男にトムは赤林に聞こえないよう、誰のせいだよと口を動かした。

「俺だけ我慢してんの馬鹿馬鹿しいだろ」

「はは、それもそうだ。田中は馬鹿じゃない。頭がいいねぇ」

(…ああむかつく)

トムは吸い込んだ煙を吐き出しながらこういった赤林の態度に眉をしかめた。人の言葉尻をとって楽しむような赤林の態度は昔からトムは好きではなかった。
なのになんでだろうか、過去の自分は何故そんなにも赤林が好きだったのだろうか。考えてもさっぱりわからない。

(理屈じゃないってか…)

しばらく走った所の交差点は赤信号だった。ひとっこひとり通らないような静けさが交通違反したくなる衝動を誘うが、仕事中だと気を引き締めて停止線の前で止まるようブレーキを踏んだ。キキィと車内が揺れる。

「おぉ、田中も大人になったなぁ。昔だったらこんなとこバイクで突っ走ってたじゃないか。おいちゃんが何回言っても止めなくてなぁ」

「…赤林さん」

「信号無視くらいならまだ可愛いもんだが、正直何回かは肝を冷やしたこともあったんだよねぇ…その時も田中は「赤林さん!」

トムが強い言葉で遮った。それでも赤林は尚も、にへらと笑顔を貼り付けて崩さない。サングラスの奥の眼光がこちらを一瞥する。

「…もう一回やり直したいかい?」

「……っ!!!」

赤林の言葉にトムの肩が震える。それが明らかな動揺を物語っていた。
赤林はわかって言っている。トムがまだ自分のことを好きだと確信している。

だがそれは嘘ではない。トムの世界の中心は昔から赤林が奪っている。そう易々と動かせるわけがない。3年経っても忘れられるわけがなかった。
しかしトムには受け入れられない理由があった。

「俺、今付き合っている人がいるんです…!」

トムには現在交際中の彼女がいた。
彼女の存在が赤林との復縁を思いとどまらせている。優しい子だった。彼女を裏切りたくはない。

「それが何か問題なのかい?」

しかしそれも赤林は些細なことと気にも留めずにトムを追い詰める。

「…ふ、ふざけんな!!!どうせまた遊びなんだろ…っ!」

「遊びだなんて軽いもんじゃないさ、おいちゃんね、田中のことは結構気に入ってるんだよ、」

やっとのことで絞り出した言葉さえも綺麗にくるまれてしまい、トムは奥歯を噛み締める。

「もうあの時の俺とは違います。遊びはしません。彼女を裏切りたくない…っ!」

「ははっ、田中は青いねぇ。大人になれば割り切った恋愛もできるようになるよ」

迷いなく言い放った赤林にはとりつく島もなかった。赤林にしてみたらトムなどただのガキでしかないのだろう。その事実がトムは悔しかった。

「………」

そうこうしている間にも車は真っ直ぐ進んでいく。30分程行ったところで赤林が右折するよう指示をした。遠回りになると言うトムを制して、おいちゃんの言う通りに進んでね、と赤林は言った。言われるがままに道を進むとどこかの駅前の繁華街に出た。

「じゃあそこに入って」

何の疑いもなく車のまま中に入ってからトムは気付く。

「…っアンタは最低だ!」

「はは、褒め言葉かい?」

トムは自分の行動を猛烈に後悔していた。赤林に連れられて入った場所はいわゆる、

「ラブホじゃねぇか!!!どこに寄り道しようとしてんだ!この腐れ親父!!!」

「気が変わったんだよ」

田中が物欲しそうな目で見るからさ。そう言いながら赤林はサングラスを取り去り、妖艶に口角を上げる。

「だからもう、遊びは嫌だって言って…っ!」「……遊びじゃなかったらいいのかい?」

「…っ!?」

トムは思わず絶句する。バックミラー越しの赤林の顔は真剣そのものであり、ドキリと心臓が波打った。

(駄目だ、駄目だ、駄目だ…!!!)






「愛してるよ田中」




「…っ」

昔は一回も言われたことのない赤林の愛の言葉に、トムは息をのむ。ずっとずっと昔から言われたかった言葉を紡がれて正常な判断ができなくなっていった。後ろから身を乗り出した赤林に無理やりな角度で口付けられて、頭がゆるやかに麻痺していく。彼女への罪悪感は今は綺麗さっぱり抜け落ちて。

「そんな顔しておいて何が駄目なんだろうねぇ」

馬鹿にするよう嘲う赤林を見て、頭のどこかでこうなることを望んでいたのかもしれないと、トムはぬるい口付けの合間に思った。









タクシードライブ







赤林さん別人ですみませんすみません!

本当はギャグにするつもりだったのにどうしてこうなった…!浮気ダメ絶対!

とりあえずタクシー運ちゃんなトムさんかっこいいという妄想から。


(0720)


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