*トム←静で静雄自慰










電話越しのトムの声に静雄は欲情した。掛けてきたのは向こうからで、何か用があったようななかったような、数分後には忘れてしまいそうな、思いだしてみれば些細な、たわいのない会話だった。

こちらのかすれた息に気付いたのか、風邪でもひいたか、と優しい上司は告げる。
何でもないですとすぐに否定をして、静雄は熱を穿んだ声を隠した。

少し話してから、じゃあまた明日、と簡単な挨拶をすませて、携帯の電源ボタンを押す。腕を上に伸ばして部屋の明かりを落とした。

急に降ってきた夜の部屋に落ち着かなくなって、静雄はもじもじと足をすりあわせる。そして躊躇う間もなく兆しはじめたペニスを取り出した。
触れた自身の先端はすっかり濡れていた。

耳の奥にはトムの声が残っている。よく通る声が頭のてっぺんからつま先まで響いて、疼く体を抑えきれなかった。
電話中にやり出さなかっただけマシだ。頭の中で言い訳を必死に考えて、静雄は汗をかいた手のひらで自身を握った。

荒い息をそのままに、ペニスをなでて、こすって、大きくして、トムの指にされているように頭で考えていじると、体は正直に応えてくれる。

くちくちとはしたない水音が広がったが、気にしている間もない。

静雄はトムが好きだった。片思いだった。

「トムさ、ん」

彼のことを考えて強くこする。笑った顔や優しい声、意外に几帳面なところ、トムの全てが好きだった。

「ト、ムさ、ん、トム、さん」

色に濡れきった声で静雄は何回も名前を呼んだ。きっとこんな浅ましい姿を見たら軽蔑されるのだろう。静雄はそれが怖かった。トムの中で静雄は昔と変わらない清廉な後輩であった。

そう、この気持ちに気付かれてはならない。

はっ、はっ、と断続的に出る息。こする手がどうにも止まらない。手の動きがだんだん早さを増して、カウパーが溢れて、限界が近い事を知らせた。

「あ、あ、っ、いく、いく、」

トムさん、と小さくうめいて静雄は射精した。体がどんよりと重くなる。
べっとりと濡れた手を側にあったティッシュでおざなりに拭い、頭から布団をかぶる。

射精後の余韻で体はふるふると震えていたが、それとはまた違った震えが体を支配する。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

トムの事を思って抜くのは今回が初めてではなかった。彼に恋心を抱いてから卑しく続いていた行為。もう数えきれないくらい、想像の中で彼に抱かれた。いけないことだとわかっていても止められなかった。

一気に冷める意識を片隅に追いやり、静雄はけだるい体に誘われるまま眠りに落ちた。


翌朝、目を覚ますと携帯にメールが届いていた。未だに覚醒しない頭をなだめて携帯を開く。ディスプレイには大好きな彼の名前があった。


『体調悪いなら無理すんなよ』


そう、一言だけ書かれたメールに泣きそうになった。

「ごめんなさい、トムさん…」

膨れ上がる罪悪感に潰れそうになりながら、返信を打つ。

『心配かけてすみません』

10分くらいかけて短い文字を紡いだ。溢れる想いを隠して送信ボタンを押す。
かちりとキーがなってディスプレイに送信完了の文字が映る。


静雄は今日もトムが好きだった。






汚れた右手






お前タイトルセンスねぇな。と、友人によく言われます。


(0707)


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