黒炎を孕む風番外―関係の始まり―



 オレは気配に敏い自信がある。葉の落ちる音で目覚めるくらいには聴力も良い――と、思っていたんだが。


「元就様、一体何を」


 元就に膝枕しながらうとうとしてしまってたらしい、オレが覚醒したのは押し倒された後だった。腕はひとまとめに頭上でくくられ着物も肌蹴てられている。逃げ出そうと思えばすぐに抜けられるが、何をしたいのか分らないままではこれからもこういうことが二度も三度も起こりそうな気がする。じっと見上げると元就は眉間に深くしわを寄せて何故逆らわないと罵ってきた。何でだ。


「元就様は主ですし。オレを傷つけようという意思が感じられませんので逃げる必要がないと思ったのですが」

「――ああ、傷付けるつもりはない」


 その瞬間、オレは逃げ出した方が良かったかもと後悔した。


「だが、貴様を頂くつもりはある」


 ギラリと光った瞳に知らず顔が引きつる。薄い舌がぺろりと唇を舐める様はセクシーだが――何故オレに。女なら星の数いるだろう、何故忍のオレにその性欲が向く。


「この命、とうに元就様にお渡ししたつもりですが」

「そう言う意味ではないと貴様も理解しているだろう、忍――いや、小太郎」


 初めてオレの名前を呼んでくれたのは嬉しい。だが、なにもこんな時じゃなく経って良いじゃないか。


「名前を呼んで頂けるだけでオレごとき道具は幸せにござ……ッ!!」

「自分を道具というでない。どうせ自分でもそうは思っておらぬだろうが――不快だ」


 オレの上に乗り上げていた元就の膝がオレの鳩尾をぐりぐりと押さえつけ始めた。鳩尾を殴られて気絶するなどという失態など犯せるはずもない、当然鍛えてはいるのだが――流石にここまで長時間圧迫されると辛いものがある。


「――う、ぁ……」

「小太郎、我のものとなれ」

「こ、の、命……っ! 既に元就様のものでございますれば、ぐぅ!!」

「分らぬか、小太郎――貴様に拒否する権限など与えておらぬのだ」


 全体重を乗せるように膝がじわじわとオレの鳩尾に刺さる。肺まで圧力がかかり呼吸も絶え絶えになっていく。何分も息を止める修行をしてきたが、打ち上げられた魚のような状態になった事は今まで一度としてない――修行を始めたばかりの頃の苦しさが蘇る。こんなに苦しいのは果たして何年振りか。


「小太郎、いらへ」

「……我が、身、も心も、元就様の御為に」

「よし」


 元就の膝が離れた。見上げればうっそりと笑んだ元就の顔が視界に飛び込んでくる。君主として憧れた男は今、ただの動物としてオレを見下ろしていた。










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 ナリ様はSだと思います。エロシーンはないけど、表におけるとは思えないので裏に。
09/05.2010

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