MAMMA MIA!7



 京の妖怪はやはり都の住人としての矜持でもあるのか、歌舞伎者にしか見えないような奴らまでもが地方の妖怪――つまり私たちみたいな妖怪を馬鹿にしていた。生き肝信仰なんていう他力本願な話に踊らされて人を襲っているような間抜けに笑われて黙っていられるほど寛容な心の持ち主じゃないけど、私たちはまだ京に来たばかり。大人しくするに限る。大坂でぬらりひょんと合流する前に見物をと思ったのは間違いだったかもしれない。


「なんすかアレ! 性根が腐ってやがらぁ!」

「鎌鼬、口が悪いですよ。底辺にいる妖怪は京も江戸も同じってことです」

「いーや、江戸の妖怪はもっと性根がきれいっすから」

「そりゃ貴方の見間違いですね」


 京に入ったとたん飛びかかってきた生き肝喰いの妖怪をぶちのめし、鎌鼬と米研ぎ婆が横でそう言い合うのを聞きながら町を歩き回る。都らしく人で満ちているかと思えばそうでもない。すぐ隣の大坂でついこの間戦いがあったばかりで、それに加えて大坂城を囲む堀は埋められている。真田幸村が建てた玉造周辺の真田丸も壊され、今や大坂城は砂上の楼閣といえる。あの状態で江戸と同等の力を保てているのは羽衣狐一派が守っているからにすぎない。

 しかし一般庶民は大坂城を守っているのが妖怪集団と知るわけがない。こりゃ大坂は終わりだと疎開しているのだ。大坂から近い京もどんな被害を受けることか。それに加えて食人妖怪なども町中を闊歩しているのだから正に世紀末といえる。

 盆地の中のため新鮮な魚は望むべくもない、魚屋に並ぶのは干物ばかりで口の端がひきつった。商人もまばら、いるのは根拠のない安全を確信しているお貴族様とその直属の兵、京を出ても行き場のない者ばかりだ。


「あっ、独活(うど)!」


 江戸より暖かいうえ春も早い大坂に来た目的の一つ、独活があった。口論する鎌鼬達をよそに八百屋の台に飛びついた。真っ白な土を被せられて育った独活ちゃんと、緑色も瑞々しい独活ちゃん。個人的には緑色の方が癖が強くて好きなんだけど、時には白いのも良い。


「おじさん、独活一束ください」

「ハイハイ、お? 奥さんここいらや見ない顔やな。どこから来はったん?」

「江戸から。旦那が京に高飛びしちゃって、それを追いかけてきたの」

「遠いところからよう来はったなァ、こんな別嬪さん捕まえといて逃げるとか信じられへんわ。おまけしたろ、はよ旦那はん見つけて逃げや。今京は物騒やからな」


 八百屋の主人は紐で縛った独活の束に数本のおまけを付けて渡してくれた。


「おじさん有り難う、早く見つけて殴ることにするよ」

「そりゃエエわ」


 あんな手紙を送ってきた馬鹿は殴るに限る。独活を抱きしめおじさんに手を振り、鎌鼬たちの元へ戻る。――私が八百屋に行っていたことにも気づかないくらい白熱している論争に頭が痛くなった。













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 でーでん、でーでん、でででれでででー。旦那さん、嫁さんが京に着きましたよ。
2011.10/19

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