MAMMA MIA!6



 ぬらりひょんが江戸を出て半年が過ぎた。私の腹部は膨らみ、それを心配した居残り組のみんなから大人しくしとけとか体を冷やすなとか言われて辟易していた。ある程度の運動は必要なんだから、そこまで口をすっぱくして言わなくても聞いてるってば。

 朝から暇を持て余して、甘味でも作ろうかと厨に行ったのが不味かったのか。


「うー、あー……耳にタコができる」

「ひなた様は大人しくしていらっしゃってください! お腹にお子様がおられるのですから厨など入ってはいけません!」

「どうせ生む時は厨じゃんか……細かいこと気にしたら禿げるよ」

「それは出産時であって妊娠時ではありません! ホラホラ早く!」


 厨――つまり台所の柱とかに捕まって力むのが昔の出産時のならいだから、生む時は厨に入る。それが今でも後でも変わらないじゃないかと言ってみるも暖簾に腕押し状態だ。ていうか、私は甘味が食べたいんだよ。


「甘味、甘味に飢えてるんだよ。ぬらちゃんの甘納豆があるでしょ、それ出して」

「甘納豆は先週ひなた様が酒の肴に食べつくしてしまわれましたが」

「あれ、そうなの?」


 私は体質的に酔いやすいからお酒を飲むのは肴を摘まみたい時くらいで、二合も呑むと前後不覚になるうえそのあとの記憶がなくなる。甘酒で酔う奴なんて初めて見た、とぬらりひょんに呆れられた――なんて自慢にならない実績もある。


「雑鬼を集めて野球拳などというものまで始めて、あの後片付けをした私の身になって考えてくださいよ。老体を労わることを忘れないでくださいな」

「そりゃごめん」


 先週ぬらりひょんからの手紙が届き、怪我はしていないだろうか病気はしていないだろうかと心配しつつ手紙を開いた私の目に飛び込んできたのは「こっちはこっちで楽しくやっとる! そっちも元気な子を産めよ!」という能天気すぎる文面で、あんまりむかついたからぬらりひょんの秘蔵っ子を呑んでやろうと思ったのだ。どぶろくをチマチマ呑むのが好きな私にはちょっと度数が高すぎたようですぐに記憶が飛んだのを覚えている。気が付けば次の日の昼だったという驚き。

 仕方ないのでみかんをもらい、止められたら面倒だから畏れを使い屋敷を抜け出す。歩き回れば通りには人、人、人の群れ。畏れを発動しっぱなしだと人と正面衝突しそうだから屋根に上り、何か目新しいことはないものかと周囲を見回す。魚屋が新鮮なぶりハマグリと声を張り上げ、八百屋がホウレン草えんどう豆と叫んでいる。独活の天ぷらが食べたくなってきた――そろそろ独活の時期だから楽しみだ。

 春に入ったばかりとはいえまだ気温は冷たく、ここより暖かい大坂は過ごしやすかろうと遠く思いを馳せる。お腹の子にも暖かい気候は良いんじゃないだろうか? 向こうなら独活も早い。


「そうだ、京都――じゃなかった、大坂、行こう」


 毎日どんちゃん騒ぎしかしてないだろうぬらりひょんに活を入れに行くのも良いかもしれない。思い立ったが吉日というじゃないか、よし行くぞ、さあ行こう、やれ行かん。

 みかんの皮を八本足に剥きながら屋敷へ戻る。小ぶりなため小さいタコになったけどそんなのはどうでも良い。


「二人ともっ! 大坂に行くよ!」

「ハァ!?」

「どうなすったんです、突然」

「大坂の方が温暖で腹の子に良い。それにアレだよ、ぬらりひょんに活入れに行くんだよ」


 冬の間ずっと江戸にいたくせに、これから暖かくなるという時期に大坂へ行くなんておかしな話だけどね。


「そうと決まれば話は早い、さあ用意して!」

「えーっ!? 本気ですかぁ!?」

「本気も本気、大真面目。旅道具はいらないよ、朧車に乗るからね。必要不可欠なものだけ持って、ほら早く!」


 雑鬼は連れて行かないけど、私の護衛である二人――料理番でもある米とぎ婆のヨネと鎌鼬の風子は連れて行かないとぬらりひょんに怒られる。

 渋るヨネを無理やり朧車に押し込み、風子とみかんを剥きながら大坂への空の旅路を行く。さて、ぬらりひょんは今どうしているやら。














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グロテスクな表現を挿入する可能性が高まってきました。3、4話後にそういう表現が出るかも。ちなみに大坂は誤字ではなくわざとです。
2011/10/06

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