MAMMA MIA!5



 息継ぎもできないような口吸いをされたあと布団の上に押し倒された。胸をぱくりと口に含むぬらりひょんの頭を見下ろして、でかい餓鬼が幼児帰りしたようにしか思えないのは枯れてるとは思う。だって気持ち良いというよりも気色悪いし。レルレルと胸を舐める舌遣いはきっと、幾人もの女性を堕としてきた自慢のものなんだろう。

 首筋に吸い付いたり耳に舌を這わせたりしてこっちの気分を盛り上げようと頑張ってるぬらりひょんには悪いけどだんだん飽きてきた。反応がなかったら諦めるだろうと思ってマグロになってれば、見事なお点前でとしか言い様がない滑らかな手つきで帯を引っこ抜かれ着物の前を寛げられる。


「ひなた……」

「ぬらちゃん、止めない?」

「止めねーぞ」


 首筋から下へリップ音を響かせながら吸い付いていくぬらちゃんの髪がくすぐったくて仕方ない。そして臍に到達し、私の両太腿を無理矢理広げた。もうどうにでもなれって気分だよ。


「濡れてねぇ……」

「私不感症だし、仕方ないよ」


 性欲が強い人は、恋愛感情がない相手とだって性行できるのだ。なら私は性欲がないか、性欲に繋がる精神的な神経がないかのどっちかだろう。――と思って以前診断を受けてみたら不感症だったという驚きの事実が。トリッパー主が不感症な連載とか例を見ないんじゃないかな……メタ発言でしたごめん。


「いや、濡れにくい女も数多いる女の中にゃ何人かいるもんじゃ。わしが濡らせば問題なかろう」

「痛いのは嫌だから止めようよ」

「ここまで来て止められるかっ! 男の沽券に係わる!」

「うへぇ」


 そう言って舐め始めたぬらりひょんには悪いけど、私は全然盛り上がってない。それどころかやる気もでないし面倒だし、早く終わらないものかなと思ってたりする。

 頑張るぬらりひょんと対極的に無気力そのものの私――ヤシの木で中を擦られても快感なんて感じない私がぬらりひょんを殴りつけるまであと十分。









 あれから毎日のように痛い思いをさせられた私がボロ雑巾なのに対してぬらりひょんはペカーと光り輝いていて、全く憎たらしいったらありゃしない。


「大人しくしておるんじゃぞ、ひなた」

「へーい」

「妾たちがいない間、お体を大事になさってくださいね」

「うん、もちろんだよ雪麗ちゃん」

「この扱いの差は一体どこからくるのじゃろうな、烏、牛鬼」

「日頃の行いの結果では?」

「徳の差でしょう」

「お主らも言うようになったのお」


 狒狒は腹を抱えて笑い転げ、立派な着物を早速土で汚している。一つ目と木魚達磨がそれを止めようと必死なのが哀れというかなんというか。

 まあそんなの私にはどうでも良いし。痛さに引け腰になってる私は雪麗ちゃんと別れを惜しんで抱き締め合った。疲れた体には雪麗ちゃんのひんやりした感触が気持ち良く、放したくなくて腕を解かなかったらずっと抱き合うことになった。


「ずるいぞ雪女! ひなたはわしの妻じゃ、ベタベタ触るな」

「キャハハ、まだ祝言も挙げてないから妻は妻でも内妻だろ!」

「確かに」

「早く祝言を挙げたいなら、ぬらりくらりせず真面目に頑張ってくださいよ」

「……どこで部下の躾を間違えたかのう」


 再び地面を転がり出した狒狒の世話を焼く一つ目と木魚達磨の二人はなんだかお母さんみたいだ。――あ。一つ目が巻き込まれて転けた。


「分かった分かった。真面目にやりゃ良いんだろ、真面目にやりゃ。わしもやる時はやる男じゃ」


 狒狒の下敷きになった一つ目を助けようとして木魚達磨が狒狒を蹴った。「ボールは友達!」と人外どころか心さえない物体を親友に持つキャラみたいなフォームで蹴ってたけど、将来的にメジャーリーグデビューを見据えてるんだろうか?


「――ひなた」


 真剣な顔をして私をみたぬらりひょんに、私も雪麗の背中に回した手を解いて視線を結ぶ。痛い腰をしゃんと伸ばして見上げれば真摯に見つめられた。


「奴良組を……いや、留守を頼んだ」

「死体で帰ってきたら許さないからね」

「分かっておる」


 頷くぬらりひょんを抱き締めようとしたら逆に抱きつかれた。どくどくと心臓の音が聞こえる。京に行ったらこれをなくして帰ってくるんだと思うと心の底が冷える。そんなの許さないし許せない。


「わしは必ず帰ってくる。約束じゃ」

「うん」


 こんな、まるで戦地に行く夫とその妻みたいなことをしていても、私のこの思いは恋愛感情じゃない。恋愛じゃなくて家族愛なのだ。体から始まる恋は小説や漫画の中にあるけど、体を繋げてもぬらりひょんへの想いが変わることはなかった。珱姫と結婚するのが運命だと割り切れてしまうほど私の精神構造は単純じゃないはずなのに、『だってそれが運命だから』という言葉だけで納得できてしまう私がいる。


「ぬらちゃんがいつ帰って来ても良いように、毎日掃除しといたげるよ」

「あ、ああ」


 バージンはロストした。でも、恋はきっと、一生知らずに生きていくんだろうなと思う。だって私は異物だもの。これまではそんなに気にしなかったことが、今は何故か妙に心に引っかかってならなかった。














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 色気なんてない、なんて淡白なセクロス。
2011/10/05

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