MAMMA MIA!4



 私とぬらりひょんが子作りするという話は冬の火事のように奴良組内に広がった。ぬらりひょんと私を含む数人だけで集まって説明をすることになったんだけど、どうしてこうなった?


「――妾、ひなた様の息子様と結婚します。決めました」


 いやいや、『決めました』じゃないから。雪麗ちゃんにはぬらりひょんのお嫁さんになってもらおうと思っていたのに、何でこうなったんだっけ? 巻き戻せない過去に私は思いを馳せた――

 襖を締め切った室内は、障子紙のおかげで昼間は暗くなることがない。幹部数人だけと膝を突き合わせてさあ質問をどうぞと促せば、烏天狗が代表して口を開いた。


「ぬらりひょん様のお子を生むならば、ひなた様が奥方様になるということでよろしいですかな?」

「その通――「違う違う、全然違う」おいひなたテメェ」

「来月には奴良組は京に行くでしょ。そして魑魅魍魎の主を名乗るためには羽衣狐と戦って勝たなくちゃいけない。――羽衣狐の攻撃とか呪いとかでぬらちゃんの身に何かあってもおかしくないんだよ。たとえば男として不能にされたり髪の毛がそれから一生生えされたりするかも知れない」

「坊主頭でもわしなら似合うじゃろ」

「ぬらちゃんは黙ってなさい。ということで、私が次の子でも生んであげようかと考えたわけ。ぬらちゃんとの共同作業になったのはまあ……押し切られた感じ」


 みんなの生ぬるい視線がぬらりひょんに集まった。ぬらりひょんは不機嫌になんか文句あるのかと幹部連中を睨み付ける。大人げない。


「ぬらりひょん様……」

「大人げな――ゴホン」

「総大将……」

「かっこワリいぜ総大将」

「うるせぇ、文句あるなら表に出ろ」


 ケッと立て膝も行儀悪く唾を吐くまねをするぬらりひょんの姿を烏天狗が嘆いた。可哀想な烏天狗。雪麗は顔を覆って泣いているし。


「わざわざ京に行く前に力を消費することしなくても良いでしょ? ジュニアなら私が一人で作るから」

「んなもん許すか。お前の初子はわしとの子と決まっておるのよ。というかジュニアとは何じゃ、子供のことか?」

「なんじゃそりゃ」


 全く訳が分からないよ。私は雪麗ちゃんを猛烈にプッシュし続けてきたはずなのに、何でこうなるわけ? それに雪麗ちゃんも雪麗ちゃんで「ひなた様が相手なら諦められる」とか言わないで。諦めないで夢を捨てないで。


「私は雪麗ちゃんにお嫁さんの喜びを知ってもらいたいのに!」

「わしは駄目じゃ、ひなたに売却済みじゃからな。雪女はわしとひなたの餓鬼とでも結婚すれば良いじゃろう、まだ売れとらん優良物件じゃぞ」

「そんな恐ろしい案出さないで! というかジュニアは売れる売れない以前にまだ存在さえしてないし!」

「――妾、ひなた様のお子様と結婚します。決めました」

「雪麗ちゃん!?」


 牛鬼は額を押さえ狒狒は声も出せない程笑い転げ、木魚達磨は遠い目をしている。一つ目は雪麗ちゃんを可哀想なものを見る目で見ていて、烏天狗は言葉も出ない。これがあと一月足らずで京に出ようという百鬼夜行のするべき姿だろうか……いや、そんなはずはない。どうして私はツッコミ役になってるんだろう? おかしいよね。


「そうと決まれば話は早い。おい烏、わしは三日ほど部屋に籠る。絶対に誰も中に入れるなよ」

「ぬらちゃん、話は終わってませんよ! なんで抱えるの、何をする気なの!?」

「子作りといえばすることは一つじゃろう」

「息から生むって私言ったよね!」

「こっちの方が長期的に見りゃ安全じゃろうが。わしがいない間に襲撃を受けて死んだなんてことになるつもりか?」


 息から生んだ場合、三か月は無気力な状態になるうえ妖力はそこらへんの雑鬼にも劣るレベルになる。だから心配するのも分かるけどそれとこれとは別の話だと思うんだよね。


「それなら誰か護衛残してってくれれば良いじゃない。とりあえず私の命が助かる程度の護衛で良いからさ」

「当然残していくに決まっておるじゃろ。しかしそれとこれとは別の問題じゃ」

「なんでー!?」


 私はぬらりひょんに恋愛感情が全くない。というか、牛鬼みたいな美男たちを見ても心が全く動かされない。恋愛的に不能なのかもしれない。人の恋路は応援するけど自分の恋路を開始することは面倒なんだよね。

 だけどぬらりひょんはいつの間にやら私に恋心を抱いていたらしい。私の貞操は頂かれてしまった。














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 次、色気もくそもないけどセクロスなシーンを含みます。
2011/10/05

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