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 他人なんて基本、どうでも良いんだよね。ただ合わせなきゃ受験とかで困るから合わせてるだけで、僕の基本的なスタンスは一匹狼。合わせるのとか、反吐が出る。

 僕は気付いたらオレンジ色の培養液で満たされた太いガラス管の中にいて、その周りを白衣着た老け顔が囲んでた。彫が深いから外国籍なんだろうけど、僕いつの間に外国に来たわけ?

 みるみるうちに培養液が排水され、僕は白衣の奴らに取りだされた。姫抱き……これ、何の悪夢? でも手足の感覚がないから指一本として動かせないから――むかつく。イライラムカムカして白衣の男を睨みつけたら、何故かそいつは目を見開いた後歓声を上げた。わらわらと他の白衣の男たちも集まり、僕を囲むようにして観察し始める。むかつく、むかつく、気色悪い! 見るな、あるでこれじゃあショーウィンドウの犬猫と一緒だよ。

 視界に入れるのも嫌だったからそっぽを向けば、僕が今まで入ってたのと同じような太いガラス管が九本並んでいるのが見えた。どれも扉が開けられているけど、今さっきまで使っていたんだと分るほど濡れている。そして視線をずらせばそっくりな子供が九人、まるで人形のように座っている。目は虚ろで、手足に力はなくだらりと投げ出されてた。――ナンダアレハ。

 何か良いことがあったのか白衣の男たちが肩や背中を叩き合って喜んでいるのとは対照的に、クローンみたいにそっくりな九歳かそこらの少年たちは何の反応もなく『ただ』息をしている。――ナンダアレハ。


「――――クローム――」


 どこかで聞いたことのある単語が聞こえた気がした。耳を澄ませば何度も同じ単語が出てくる。『クローム』。イタリア語で、クローンの意味。必死に少年達――クロームを見た。濡れ羽色の髪、整った鼻梁に釣り上がり気味の眉尻、薄くも厚くもない唇。まさか。まさかまサカ、コレハ。

 雲雀恭弥のクローンだというのか――?










「ゴジュウゴゴー! 早く立チなさーイ!!」


 僕が『生まれ』てから早くも半年が過ぎた。研究員の中で比較的日本語を知っている男が指示担当だ。英語以外の外国語を覚えたいとは思ってたけど、こいつらから教わるつもりは全くない。僕は日本語以外の言語を突っぱねた。

 口元を拭って立ち上がる。モスカに殴られて口腔内を切ったけど遺伝子操作によって組み込まれた自然治癒力がすぐさま傷口を直してゆくから跡が残らない。まるでトカゲだ――以前腕を切断された時、弾けるようにして生えてきた新しい腕を見てそう思った。


「早ク反撃するノでス、ゴジュウゴゴー!」

「うるさいな、命令しないでくれる」


 五十五号。それが今の僕の名前。僕は雲のように、したいからする。したくなければするつもりなんてない。でも今は――向かってくるストゥラオ・モスカを破壊しなくちゃ。


「むかつく、むかつく、むかつく」


 ストゥラオ・モスカに飛びかかりトンファーで滅多打ちにしながら、僕の口は文句を紡いでる。強いのとは戦いたい。でも、強制されて戦うなんて僕は嫌だ。だからむかつく。今の僕じゃ反撃しても負けるって分ってる。どうしようもなくて更にむかつく。弱い僕自身にも研究者の奴らにもイライラが溜まってく。


「壊れなよ……!」


 だんだんと反応が鈍くなっていくストゥラオの脳天に、持ち変えたトンファーを叩きつけた。尖った鉛筆の先が肉を突き破るように、トンファーが鉄の装甲を食い砕く。

 ストゥラオを動かすために重要な部分を完膚なきまでに破壊し、今日の訓練は終わった。






「ゴジュウゴゴー、何故命令に従ワないノデすカ?」

「別に良いでしょ。僕は戦うとは言ったけど命令に従うとは言ってないよ」

「――オ前の代ワリは幾らでモいまス。殺さレタクなけれバ従うコとでス」


 当初あまりに暴れる僕に焦れた研究者たちが、僕の頭に小型の機械を埋め込んだ。そこに埋めてあるかは分ってる――一部体表に出てるからね。その機械がある限り、僕はこいつらの奴隷だ。


「チッ」


 でも僕は知っている。僕以外の成功例はいないのだ。前世の記憶がある僕に対し、他の素体たちは乳児並の知能しかない。それに加え彼らには洗脳教育も役に立たず、ただ処分されるばかり。――僕を殺せば、あと何年先に『第二の僕』が生まれるか分らない。僕を殺すことはできない。


「いつか――」


 いつか、必ず復讐してやる。


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