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 ついさっきまでは形を保っていたそれが、どろりと溶ける。指の隙間からこぼれおちていく液体に、手の中で『個性』を失ったそれに絶望する――嫌いだ。こんな――こんなの、嫌いだ。嫌だ。


























 チョコレートが溶ける火山なんて、滅んでしまえ。







 甘い甘いチョコレート。口の中でほわりと溶けるそれはまるで空気を固めて甘くしたみたいで、一口かじれば笑顔、二口かじれば幸福、三口かじれば天にも昇る気持ちになれる。――まさかこんなにチョコレートが好きになるだなんて思いもしなかったんだけど……どうやら無類のチョコ好き遺伝子が組み込まれてるみたい。

 私の番号は69、つまり私の前に六十九人のプロトタイプがいたということになる。その誰もかれもが自我の発達がなくて処分されていったって聞いたけど、もしかしてチョコレート見せれば幼児並みの知能くらいなら発達したんじゃないだろうか。


「これがキラウェアだ、良く見ていなさい」


 イタリア語なんだろう良く分んない言葉で説明があったけど、やっぱり良く分んない。ヘリからハワイのキラウェア火山を見下ろしてぐつぐつと煮え滾る火山口を観察する。この見学ツアーが終わったらビーチで遊んで良いのかなぁ……ハワイは日本語通じるし、久しぶりに日本語を話すのも良いな。


「69! 聞いているのか?!」

「へ?」

「もう一度言うから良く聞け、このキラウェア火山というのは――」


 仕方ないから聞いてるふりをして頷いておく。キラウェア火山ね……だいぶ前にテレビでドキュメンタリー番組を見たけど、もう記憶の彼方だし。だいぶん離れてるのに熱気が昇ってくるくらいだから本当に熱いんだろうな。やだなぁ、落ちたら死んじゃう。高さ的にも温度的にも。



 私は各国の活火山という活火山を見回った。だからかな、幻術の中で一番得意なのはマグマなんだよね。


「ゆっくりと焼いて差し上げますね?」


 クフフ、と笑って相手を灼熱地獄に突き落とす。発火し燃えだす服、熱で一気に開く汗腺――でも、すぐに死ねる熱さじゃない。ゆっくりゆっくり温度を上げ、まるで気がつけば茹であがっているカエルみたいに殺す。


「骨も残らないなんて、エコですよね」


 鼻に付くアンモニア臭も断末魔の悲鳴も、どうせこれは『夢』。やけにリアルだけど、これは夢でしかない。だってほら、私のポケットの中のチョコレートは溶けてなんかないんだから。まるでゲームみたいに『死んだら跡形もなく消えてる』敵とか。摂氏何百度という高熱だったはずなのに溶けた跡一つ、傷一つない壁とか。――これは夢でしょ? 私の夢想でしょ? だからチョコレートは溶けなくて、私の胸ポケットに収まってるんでしょ?

 血痕もない廊下で、鎌を消し去りチョコレートを取り出す。パキリと一かじりして微笑んだ。だって、これは夢。


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