08



 骸がベタベタしてこなくなって数週間。私は平穏とは言い難い日々を送っている。


「ほら、脇が空いてるよ」


 遠慮ない暴力をふるうのは、雲雀さん。再会した時になんとなくノリで「パパン」って呼んだら「僕は君のパパンじゃない。恭弥って呼んで」と言われた。なにこれフラグ? 回収するべきなのかな。


「ガッ!」


 私は体力がある方とはいえ、一般人よりも、という程度だから雲雀――恭弥には劣る。私は恭弥の半分もないんじゃないかな。でも生後一年未満の私がここまで体力を付けれてるのは凄いと思うんだ。一年もしないで恭弥を越えるんじゃないかな。

 トンファーが脇に入り、私は壊れたスピーカーのような悲鳴を上げた。痛い――殴られる瞬間力を込めたけどノーダメージじゃないから。


「カハー……カハー」

「敵は待ってくれないよ」


 気管につばが詰まったのか、吐気反射が起こり吸気ができず呼気ばかりになる。振り下ろされる鈍色の棒を転がって避け、根性で吐気を抑え込む。息を吸わなければ――すなわち死ぬ。人間はチンパンジーではないのだ。私は、呼吸しながら嚥下する能力を失った代わりに言語能力を得た――人間。クローン体であってもこれは変えようがなかったらしい、私の喉の構造は普通の人間と同じだ。


「くっ!」


 跳ねるように身を起こし、転がっていた杖を構える。今は幻術の使用不可で鎌が使えない。迫りくる銀色の鈍器をいなしながら打開策を必死に考える。考えろ、考えろ。活路を見出さなければ――




 今日のデザートの、チョコケーキは無しだ。














 戦うために生み出された子供。つまりあの子は生まれながらの肉食獣なのだ。


「ほら、脇が空いてるよ」


 全身を汗で濡らしながらも必死にかじり付いてくる××に、気分が高揚するのが分る。獅子は我が子を千尋の谷へと突き落とすという――××は僕の子供ではないけれど、僕は今、獅子の子を育てている。もっと、もっとこの子は強くなれる。何故ならそう生まれたからだ。


「ガッ!」


 脇を殴りつければ、××は生理的な涙と唾液を散らしながら飛ぶ。推定肉体年齢は九歳――大人と比べると、その体重は儚いほどに軽い。気管につばでも入ったのかは知らないが、ゼエゼエと息を吐くばかりで吸う様子がない。でも、敵が復活するまで待ってくれるわけがない。


「カハー……カハー」

「敵は待ってくれないよ」


 そう言いつつトンファーを振れば、××はゴロゴロと転がって避けた。出ていくばかりの息を一度止め、平常の呼吸を取り戻す。――流石、生まれながらの獅子。

 ××は足元に転がっている杖を拾い上げると反撃を開始し、僕の隙を突こうと、隙を作り出そうと鋭い突きを放つ。トンファーでそれを右に受け流し左に逸らせながら、僕は自然と笑んでいた。

 早く、早くこの高みへ登っておいで。その時、きっと僕は――




 君になら僕の左側を任せられる。


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