07



 雲雀さんをパパンと呼ぼう事件、略してヒバパパ事件から二日。私は仕方なくオリジナルをパパンと呼んでます。そろそろ哀れかなと思ったのが二割、うざかったのが七割、呼び方なんてどうでも良かったのが一割。

 三時のおやつのショートケーキを食べながら、私の世話係のクロームと一緒に絵本を読んだりアニメを見たり。日本産のアニメだからか、口があってない。タケシが「おーねーいーさーん」と言って綺麗なお姉さんにルパン飛びしてるのを見ながら、これは子供の情操教育の面ではどうなってるんだろうかと不安になった。――いや、イタリアだから大丈夫かもしれない。


「××ー! 君のパパンが帰ってきましたよ!!」


 最近骸はツナパパみたいになってる気がする。親ばかというか、目に入れても痛くないというか、暴走が過ぎるというか。もっと冷静で、冷酷で、血縁でも切り捨てられるような人間だと思ってたんだけど。


「お帰りパパン」


 フォークを置いて顔を向ければ、満面の笑みを浮かべた骸が扉の前に立っていた。


「お帰りなさい、骸様」

「ええ、クローム。今帰りました」


 そういえば、初めてクロームと一緒に骸を迎えたかもしれない。だからだろう、クロームに微笑んだオリジナルの目を見て、また私に向いた目を見て――私は気が付いてしまった。視線の種類が、全く異なることに。

 ここは人の目を見て話す文化だ。だからだと思い込んでいたのかもしれない、骸が私の左目を見て話すことに違和感を覚えなかったのは。骸が私の左目を通して何を見ているのか、分ってしまった。


「オリジ、ナル」

「××、ですから僕のことはパパンと――」

「オリジナルは私を見てるんじゃないよ」


 そう、骸は私自身を見ているわけじゃない。六道眼を、その後ろにある――実験体ということを見てるんだ。かつて自分が実験体だったという過去を。鏡のように向かい合う紅い眼を通して、かつての自分を甘やかしている。


「オリジナルは昔の自分と私を重ねて見てるだけ、オリジナルは私のパパンじゃないよ」


 私だって分る。このままで馴れ合えば、本当の「息子」になど、なれやしないのだと。


「骸様……」


 クロームが慌てたようにオリジナルを呼ぶ。骸は固まって指一本動かさない。


「――僕が」


 昔の自分と、××を重ね合わせているだけ――? と骸は呟いた。頷けば、骸は荒々しく部屋を出て行った。見てもらえないことは悲しい、それは個人として、人間として見てもらえていないことだから。


「××……」


 クロームは実験体時代を知らないから、私自身を見られる。犬や千草は、私と自分たちの過去を重ねてしまっている部分があるからか、あまり私に構おうとしない。

 本当の意味で骸が私のパパンになれる日は来るんだろうか――?











 どこへ向かうともなく歩きながら、××の言葉を考える。『オリジナルは昔の自分と私を重ねて見てるだけ、オリジナルは私のパパンじゃないよ』。


「僕が、あの子自身を見ていないと?」


 そんなことはない。僕はあの子を息子の様に思っている。何が好きで何が嫌いか、この頃はアニメに夢中だとか、知っている。クロームから聞いて……聞いて?

 僕はいつ、××がショートケーキも好きだと知った?――クロームの報告から。

 僕はいつ、××がピーマンを苦手だと知った?――クロームの報告で、だ。

 いつも近くにいられるわけじゃない、クロームに世話を頼むのは仕方ないことだ。だが、僕自身があの子を見たことは――本当にあるだろうか?

 あの子は僕のクローンだから、僕と同じなのだと、思ってはいなかっただろうか。昔の僕なのだと、思い込んではいなかったか。


「パパン失格、ですね」


 壁に背中を押しつけてずるずると座り込んだ。自分が恥ずかしい。顔を覆いため息を吐いた。


「もう、遅いでしょうか」


 パパンと呼んでもらえるには、遅すぎるだろうか。――スタート地点がマイナス過ぎて、出発点に至るまでも遠い。

 あの鳥野郎が――雲雀恭弥がパパンと呼ばれたのは当然だ。××自身を見ていたのだから。××が殴り飛ばされたところしか見ていないが、きっと二人の間には何かがあったのだ。でも。


「――よし」


 あの子は僕の息子。それは変わらない事実だ。なら僕がパパンにならずに誰がなるというんだ。鳥頭になど渡すものか、あの子は――僕の『息子』なのだから。


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