06



 オリジナルにパパンと呼びなさいと言われて、なんか飽き飽きしてきた。他の奴をパパンと言ってやろうか……山本――駄目だ、息子ができたのなーとか言って私を引き取りそうな気がする。獄寺――十代目が仰るなら! とか言いながら養子縁組の書類を一日で用意するに違いない。ランボは年齢的に無理でしょ、了平さん――引き取られたら苦労しそうだ。あとは――ツナか、雲雀さんか。オリジナルにとってどっちの方が屈辱的かと考えると、雲雀さんに言った方が悔しがるだろうなぁ。そのうちパパンと呼んであげるとしても、今くらいは遊んでも良いでしょ、きっと。

 私は骸に引き取られたものの、遺伝子組み換え生物(トウモロコシっぽい)だから定期的にメンテナンス――人間ドック? を受けなくちゃいけない。今のところ問題は全く出てないそうだけど、いつ何が起こるか分からないから周りは神経質になってるみたいだ。私はナリは九歳十歳くらいだけど中身が幼児レベルと思われてるからか、Dr.シャマルが診察してくれる。女しか見ないのには彼なりの理由があるんだろう。


「ホレ、両手バンザーイだ、バンザーイ」


 シャマルの言うように両手を上げれば、するりとシャツを脱がされた。――これが女好きのなせる技なのかとちょっと感動した。


「こっちに寝転がれ、そーだ」


 シャマルに従って検査を受け、すぐに結果がでる検査に関しては何の問題も見つからなかったらしく追加の検査とかはなかった。







「ああ、南国植物の」


 シャマルに手を引かれて骸の待つ幹部控室に向かっていると、角から雲雀さんが現れた。『南国植物の』で止まったのは『クローン』というべきか『息子』と言うべきか迷ったから――かな?


「××だ、骸が引き取った」

「知ってるよそんなこと。――ねえ、この子ちょっと貸してよ」


 雲雀さんは私を指さした。何をしたいんだろうか。


「こいつはまだ幼児だぞ?」

「獅子は幼くとも獅子だよ」


 Leoneって何だろうか。聞いたことがあるようなないような、微妙な単語だ。帰ったらクロームに聞いてみよう。


「――ったく、けがさせんじゃねーぞ。オレは骸呼んでくっから。第三鍛錬場か?」

「うん、一番近いからね」


 シャマルは私を雲雀さんに引き渡し、私に軽く手を振って控室に向かった。一体何がどうしたんだろう?


「行くよ、肉食動物」


 アニマレ・なんたらかんたらって何だろう。さっきからよく分からない単語のオンパレードだ……もう少し幼児にも分かる単語を使ってください。

 雲雀さんに連れられ、体育館みたいな別館に入る。やるよと言われて気がついた。雲雀さん、戦いたいんだ、私と。……何故に?


「来ないの? なら、僕から行くよ……っ!」


 殴りかかられ、仕方なしに応戦する。刃なしで鎌を具現化し、ただの柄でトンファーをあしらう。柄って言っても厨二乙なデザインで、肋骨っぽい。どうしてこんなのにしたんだろうか、私。半年前(?)の私どんだけー。


「やっぱり血が繋がってるね、槍術とは」


 雲雀さんは私を殺す気だ! ニッと笑った雲雀さんからの殺気が半端ないです、私殺されちゃうよ。私の背景にオリジナルの影でも見えてんじゃないだろうか、私雲雀さんに恨まれるようなことしたことないのに。会ったのも今日初めてだしさ。


「ッフ!」


 大人と子供の力の差はやっぱり大きいわけで、私は弾き飛ばされ床を滑った。背中が摩擦で熱い。火傷したかもしんない。でんぐり返りの逆再生みたいに体を起こし、雲雀さんに飛びかかる。背中が熱い、火傷しそうに熱い――でも、胸はもっと熱い!


「流石、獅子だね!」


 Leoneが何なのかなんてもう気にならない。ただ目の前のことが楽しくて胸がドキドキする。

 一合、二合、三合と打ち合う。雲雀さんに隙なんて全くないし私も隙を見せるつもりはない。すべてが一撃必殺、相手の命を奪うつもりで武器を振るう。体力の差か、私が汗だくになる中雲雀さんはあくまでポーカーフェイスを貫いている。この顔を叩きのめせたら。

 時間にして数分も過ぎてないだろうに私は疲労困憊し、まさに膝を突こうとした時だった。雲雀さんのトンファーが腹を殴打し、私は唾液と胃液を噴きながら宙に放物線を描く。


「ちょっと鳥頭! 僕の息子に何してくれてるんですか表に出ろ!!」

「試合」

「どこが試合ですか!!」


 勢い良く扉が開き、真っ蒼な顔したオリジナルがこけつまろびつ入ってきた。よっぽど急いだらしく息が荒い。そりゃそうだ、控室は遠い。

 私が床に落ちる前にオリジナルの蔦が伸び私を支え、ゆっくりと床に下ろす。口を閉じていることもできず半開きになった口から、唾液と胃液の混合液が垂れた。苦い。心臓も苦しいし体は重い、さっきまではあんなに――何でもできるような気がしてたのに。


「この子は――良いね。将来が楽しみ」

「誰が貴方なんかのサンドバックにしますかっ!」

「うるさいよ南国植物」

「貴方はどうやら鳥並みの脳しか持っていないようですから、理解できるように繰り返し教えてあげているんです。感謝してくださっても結構ですよ?」

「へえ……その頭を絞ったらジュースが出来そうだね、美味しくなさそうだけど。絞りかすは一グラムしかないんじゃない?」


 ――なんと不毛な戦い。やばっ、涙が出そう。

 二人は散々口着高く罵りあった後、仲が良いのか悪いのか一緒に私に近寄った。


「さあ、帰りますよ××。こんな害獣のいる場所にこれ以上いてはいけません」

「この子も可哀想に、こんなのが父親だなんてね」


 父親で思い出した。そーだ、私は悪戯するつもりだったんだ。雲雀さんをパパンと呼ぶって悪戯を。


「パ……」

「パ?」

「パパン」


 雲雀さんのスラックスの裾を摘まみながら言ったら、横でオリジナルが泣いた。


「ワオ、この子は誰が強いか分かってるみたいだね。偉いよ××」

「何故です、何故なんです××! 僕がパパンだと何度も言ったでしょう……?!」


 オリジナルがあんまり泣くから、雲雀さんじゃなくてツナに言えば良かったと後悔した。オリジナルがあんまりに哀れだったから。


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