05



 その時オレは、夢を見ているとは思わなかったんだ。眼前にはちょっと張り切り過ぎた時みたいな荒野が広がっていて、焼いた覚えなんてないけどなぁと首を傾げてた。

 太陽はじりじりと地面を焼いて、でも背中に氷を滑らせたような悪寒が絶えずオレを満たしていた。何かがある――いる。それが何なのか超直感でも分らなくて、知らずのうちに口元を引き結んでいた。


「――こっち、かな?」


 気配があったわけじゃないけど、超直感がそっちに行けとオレに命じた。焦げた地面がジャリリと鳴り、炭化した何かが踏まれて崩れる。

 一体どうしてオレはこんな場所にいるんだろう? 守護者もいない、リボーンもいない、誰もいない……一人ぼっちの荒野。こっちに行けば誰かがいるのか、それともこの状況を打破する方法が見つかるのか、知らないし分らないけれど、オレが何か行動しなくちゃ状況は良くも悪くも変わらないだろう。




 獄寺君――ちょっと暴走気味で忠誠心が先走ってるところもあるけど、信頼できるオレの右腕。

 山本――いつも笑ってて、絶望的な状況も笑い飛ばしてくれる、頼りになるオレの親友。

 ランボ――泣き虫だけど、一途に信念を貫くことのできて、可愛い弟みたいに思ってる。

 お兄さん――話を聞かずに暴走したり思いこんだら一直線ってところがあるけど、一本筋の通った格好良いオレの憧れ。

 雲雀さん――群れるのが嫌いで、でも懐に一度入れた存在は(配下としてだけど)大事にしてる、孤高の人。

 骸――掴みどころがなくてちょっと変態っぽいけど、実はあいつが誰よりも仲間思いだって知ってる。

 リボーン――昔は家庭教師で、今は相談役をしてくれてる……理不尽なはずなのに何でかな、憎めないんだ。






 どうしてだろう、今までも守護者について考えることなんて頻繁にあったのに、今日のオレはセンチにでもなったみたいだ。

 立ち止まって周囲を見回してみる。こんなにセンチメンタルな気持ちになったのは――もしかして、オレは死んだのかな。死んだ覚えなんてないんだけど、そうなのかもしれない。普段なら気恥ずかしくてこんなこと考えられないから。


「――あれ?」


 少し離れた丘の上に、紺色がかった黒髪の幼児が立っていた。これくらいの距離ならオレが気配を察知できる範囲内のはずなんだけど……。年齢は四歳かそこらで、真ん中分けにした髪は遠目にもサラサラだ。少年はオレに背を向けるように立っていて、オレはサクサクと足音を立てながら彼に近づいた。


「ね、君」


 音に気付いたのか彼の肩が震え、オレをゆるりと振り返る。――振り返るとともに彼の輪郭が滲み、振り返った瞬間、彼は十歳かそこらの姿に変わっていた。

 どこかで見た姿。それは、骸の記憶を見た時に、鏡越しに見た姿。


「むく……ろ?」


 超直感が、彼が骸ではないと叫んでいる。目の色も左右逆だ、この子は、この子は。


「デーチモ……」


 ――骸の遺伝子を受け継いだ子供、だ。


「オレを知ってるの?」


 少年は答えず、首を傾げるばかりだった。骸に息子がいるだなんて話、今まで聞いたことがない。子供がいるって知ってたらもっと早く家に帰れるようにしたりとか、休みを多くしたりとかしたのに。やっぱりまだ、本当の仲間にはなれてないんだろうか。


「――」


 少年が何か答える前に、誰かの呼ぶ声でオレは目覚めた。それはいつもオレを起こしに来てくれる獄寺君の声で、オレはあれが夢だったと知る。












「ああ骸、酷いじゃないか。お前に息子がいるなんてオレ、知らなかったよ――」


 あの子がクローンだと知った時、オレは泣きたくなった。クローンだとはいえ親子二人ともが実験動物としてマフィアの餌食になったことに、それに気付けなかったオレに。


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