04



 僕があの子と初めて会ったのは、ほんの数ヶ月前――夢の中を散歩している時のこと。その日もいつものように誰もいない草原を歩き回って、安心と失望という相反する感情をもて余していた。何かが足りないような、でも無いならば無くてもが良くて……矛盾した思いに困惑していた。

 歩き回りしばらくして、そよ風程度しか吹かないはずのここに一陣の突風が吹いた。反射的に目を閉じ、開けばそこには荒野が広がっていた。卒塔婆や十字架や――おおよそ墓場として相応しいものがぽつりぽつりと在るそこは、まさに地獄と言えた。人の姿はなく、芽生える命の欠片もない……。


「くーふーふー、くーふーふー」


 と、石を削り出した墓に背を預けた幼児が視界に飛び込んできた。――僕が気付けなかったとは、この子は一体……何なのか。


「ボク……?」


 幼児は地面に何かを描いていて、見れば僕を描いているようだった。下を向いていて幼児の顔は見えない。僕の心臓は早鐘のように脈打つ――この子がきっと、僕の求める子なのだと確信して。幼児の前に立ち、おそるおそる声をかけた。


「う?」


 顔を上げた彼はまるで、昔の自分そのままで。時を越える鏡を覗いたような気持ちになった。六道眼が左右で逆だが、僕の血縁に間違いない。年齢を見るに三四歳――身に覚えが全くない。ここ数年で別れた愛人もいなければ火遊びをした覚えもないのだから、子供など「いるはずがない」。だが、「いる」。


「……オリジナル」


 目の前の幼児が口を半開きにして何か呟いた。聞き逃してしまい慌てて問い返す。


「今、何と言ったんですか?」


 幼児は首を傾げるばかりで何の返事もしない。繰り返し言っても、まるで言葉が通じていないかのように。――もしや、実際に通じていない? 女がこの子を抱えて外国に逃亡した……? 僕に見つからないように?

 と、幼児の体が透け始めた。現実に帰るのだろう、眠そうに目元を擦っている。


「待って下さい! まだ話があるんです!」


 そう言っても目が覚めてしまうのはどうしようもない。幼児はゆっくりと掻き消え、その場には僕だけが残される。


「息子――僕に?」


 いないはずだ、そんなもの……いるわけがない。僕が望まなかったのだから。愛人たちもそれをよく理解しているはずなのだから。


「息子――」


 だというのに、何故こんなに胸が騒ぐのだろうか? 声を大にして叫びたいような気持ちに、狼狽える。何故僕は喜んでいるのか、分からない。


「僕の、息子」


 僕の血を分けた唯一の存在。会ってみたい――父親である僕には合う権利があるはずだ。

 どこの誰が生んだとも知れないが、陰ながら支援するも良いし、母親が頷くなら引き取ることだってできる。なるべくなら引き取りたいが、母親と一緒の方が良いのだったら支援だけでもしたい。






 だから――クローンだと知った時には、衝撃のあまり目の前が真っ白になったのだけれど。


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