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 飛ぶように校舎裏に向かえば、真っ青な顔した一年生が二年に囲まれて震えてた。保護者はどうしたんだろう、はぐれたのかなぁ。まったく、まだ中一なんだから保護者もちゃんと監督してよねぇ。これで学校側に「私の子供がいない、探せ」とか言ってくるのは筋違いでしょーよ。頼むなら「はぐれてしまったので放送をお願いできますか」が当然。――て言っても、この学校には恭弥がいるから保護者も大人しいものだけど。


「はいはいそこまでー。学年と出席番号を言ってぇ」


 私がそう言って仁王立ちすれば、びくっと肩を揺らした上級生三人がおそるおそるこっちを振り返った。風紀委員の腕章をつけた私が女だってことに目を疑っているよーだ。恭弥もだったけど、女だからって見くびると痛い目見るよぉ。たとえばビアンキとか、イーピンも将来有望なマフィアとしてランクインしてたしねぇ。でも私の容姿って損かもなぁ……背は低いし、顔はツナに似て可愛い系でごつさとは無縁だし、腕も何もかも細いし。私だって無理してこの体型キープしてるわけじゃないからさぁ、どうしようもないわけ。見た目が弱いこと気にしてるんだよこれでも。


「は、なんだ女じゃねーか!」

「風紀委員の真似事かー?」

「あとでおいで、可愛がってやるよ」


 おまえら本当に中学生か。それとも最近の中学生は早熟なんだろうか。比較対象が恭弥しかいないから何とも言えないよなぁ、私は論外だし。てか「可愛がってやる」って何、どーしてわざわざ私からキモ男に可愛がられに行かなきゃいけないわけ? 鳥肌立つよ本当にもー。そんなこと言えるような容姿してると思ってるんだろうか、もし自分は美男だとか思い込んでるとしたら重傷だよねぇ。鏡見てから言えば? って聞きたくなるよ本当に。その気色の悪い笑みをどうにかしてから来てください、ましになったとしても相手にするわけないけどねぇ。傲慢な台詞を吐いても良いのは美形だけなのだよ。

 どうもこの方々とはお話になりそうにないということで、肉体言語に切り替えた。ニヤニヤ笑う馬鹿共に一歩で距離を詰め、跳ねて相手の頭を抱え込み膝頭で鼻骨を折る。――カウロイの変形。崩れ落ちる奴を軸にして、もう一人の顔に製靴に包まれた足をお見舞いする。そして勢いを付けて軸から飛び、茫然と立ちすくむ残りの一人の腹に蹴りを放った。


「だから言ったでしょ、私は風紀委員だってさ……人の話聞いてた?」


 あーやだやだ、人の話聞かない奴らは苦手だよ。一年生が更に顔色を失くして震えだした。失礼な奴だなぁ、可愛い女の子にピンチを救われて感謝の一言もないのか。世間はそんなに劣化しているとゆーのか! お礼、謝罪は円滑で日本人らしい人間関係を築くための手段だぞ、なんたること! 日本は腐食が進んでいるぅ――!!

 とか、頭の中で大演説して遊んでたら恭弥が来た。思ったより早かったねー。


「現状は?」

「鼻骨骨折が二人と、ろっ骨骨折が一人」

「分った」


 恭弥は頷き、恐怖の代名詞風紀委員長が目の前にいるからか更に震えだした生徒に一瞥をくれると――無視した。弱い人間に興味ないもんねぇ、恭弥って。


「事後処理は草壁たちに任せる。君はどうする?」

「んー、先に家に帰ってご飯でも用意してるよ」


 携帯を取り出しながら訊いてくる恭弥にそう返しながら、私たちの足はその場を離れるために動いている。


「いや、今日はお祝いだから寿司をとろう」

「おお、やったね! 竹寿司?!」


 ――高校デビューならぬ中学デビューは、これからの三年間を暗示するかのように、流血で始まった。エンギワルー。


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