09



 私が恭弥の師匠になって八年。ツナと別居し始めて六年。中学生になりました。


「やっほぅツナー。奈々さんもお久しぶりですー」


 私の入学写真を撮ってくれたのは当然風紀委員会の皆様。恭弥と二人でピースしたよ。それから恭弥にはまた後でと言って離れ、我がエンジェル・ツナとエンジャルママ・奈々さんを探して円を広げた。必死に探す必要もなくすぐに二人は見つかり、私は主にツナに向かって駆けた。


「久しぶりね、夏輝ちゃん」

「ナッキ! ナッキは何組?」

「もちろんA」

「同じクラスじゃん!!」


 私の手をとり喜びを全身で表現するツナに、ついつい笑みが零れる。可愛いなー、これも家に帰ったら錬金しよう。それと、私とツナが同じクラスなのは当然なのさ――そう操作したからね。


「宿題写させてね!」

「こら、ツッ君!」

「あ、やば」

「あはは」


 私が恭弥と同居するって言った時、一番反対したのは奈々さんだ。そりゃあ家光パパも反対したにはしたけど、勢いでは奈々さんの方が凄かった。女の子なのに、小学生なんだから――奈々さんの気持ちも分らないではないんだよねぇ、性犯罪で泣くのは女なんだから。でも私は奈々さんの指揮下にいるのは精神的に辛かったし、一人じゃダメなら二人でどうだってことで恭弥を巻き込んだ。だから、どっちかって言うと恭弥の方が被害者。

 今じゃ諦めたのか分ってくれたのか何も言ってこないけど、始めは……うん、凄かった。やっぱり母親なんだなぁと思ったよ。


「にしても――さ、親父、いないの?」

「うん、来てないと思うけど?」


 ツナが言いにくそうに言った。何で私に聞くんだろうか? 見れば分るでしょ。


「オレはともかくとしてさー、ナッキの入学式だろ? 一緒に住んでんなら来るべきだろ」


 ……うん?


「私、パパンと一緒に住んでないよ?」

「え?!」


 だってナッキがオレと一緒に住んでないのって、親父に引き取られたからじゃないの?! とツナが言いだした。漫画では死んだと思ってたけど、私がいるから別居してるのかと思ってたみたいだねぇ。


「り、離婚したんだろ?」

「は?」

「だーかーらぁー、母さんと親父が!」

「ぷ……あははははははははは!!」


 いつの間にか家族の籍から外されてるよぉ家光パパン。可哀想に、鬼籍に入ったと思われてるのも可哀想だけど、愛想尽かされたと思われてたのも可哀想だ。こっそりと耳打ちしてきたツナには申し訳ないけど、面白すぎる。あー可哀想。あー泣ける。


「私が一緒に住んでるのは他の人だよ、ツナ」

「え、そうだったの?!」

「うん、パパンはロマンを探す旅に出てるから」

「は、はぁ……」


 ツナが情けない声で返事をしたのにまた笑える。と、私の円にあるモノが反応した。ちょっとぉ、お祝いの席で止めてよねぇ。せっかく楽しんでたのに一気につまらなくなった。


「あ、用事思い出した。じゃあまた明日ね、ツナ!」

「ちょ?! 待ってよナッキ!!」


 場所は分ってるから円を張り続ける必要はないでしょ。私は円を解き新入生とその保護者の人込みをかき分け、校舎裏に走った。携帯を取り出し短縮コール、恭弥。


『何かあった?』

「校舎裏、馬鹿が三人被害者一人!」

『分った。今から僕も向かう』


 携帯を閉じポケットにねじ込み、代わりに腕章を取り出して袖に留めた。――今日から私は風紀委員長――補佐だ。


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