06



 ツナとのラブラブ同居生活が始まり二週間。ヴァリアーの皆への手紙を送り終えた私は公園に来ていた。色々あって幼稚園には通ってないから暇なのだ。これから通う予定もないし、小学校に上がるまでは私は暇人になる。れっとあすにーと!

 時間が時間だし、人がいないに違いないと思ってきた私は、良い意味で期待を裏切られた。誰がいたって、あの雲雀さんがいたのだ。


「君、一人なの?」

「うん」

「幼稚園は?」

「行く必要がないから」

「ふーん」


 会話、END。雲雀さんは体を鍛えているようでトンファーを振い、でもまだ鍛え始めたばかりなのかその動きは鈍かった。猿でも避けられる――とは言わないけど、歴戦の蠅叩き師と比べるとだいぶ遅い。


「振るばっかりじゃ強くなれないよ」


 一に体力、二に慣れ、三四になって、やっと技術。


「――何」

「振るばっかりじゃ駄目だって言ったの」


 雲雀さんにトンファーを構えるように言い、私は無手で雲雀さんと相対した。武器もない、それに女。雲雀さんは私を見くびっていた。簡単に勝てるだと思い込み、子供のくせにニヤリと笑んだ。似合ってるけど、雲雀さんもまだ幼稚園児だろうに……どこでそんな笑い方覚えてきたの。


「かかってきなよ」

「なら遠慮なく」


 私は一歩で雲雀さんの目の前まで飛び込み、腹に拳を当てた。殴ったんじゃなくて、あくまで当てるだけで済ませたのはまあ、気絶でもされたら話ができないから。


「――っ!」


 雲雀さんは驚きに目を見開き、それから悔しそうに顔を歪ませる。年下の女に負けたのが悔しいみたいだ。


「強くなりたいなら、私が修行したげる。――ついてくる?」

「……いつまでも余裕の表情を保ってられると思ったら間違いだよ」


 差し出した右手を握り返しながら雲雀さんが言った。――今日から私の弟子になるんだから、呼び捨てで良いよね。


「名前は?」

「雲雀、恭弥」

「なら恭弥、今日からあんたは私の弟子。師匠に対して敬語を使わないような奴をそのままにしておくつもりなんてないから、次に私にタメ語使ったら殴り飛ばすからね」

「――分った」


 私は恭弥を殴り飛ばした。


「分りました、の間違いでしょ?」

「っ、分りましたっ!」


 てかさー、何で私が恭弥の師匠になってるわけ? 自分で行っておいて何だけど、恭弥も誰かに師事して強くなったものだと思ってたのになんで師匠がいなかったのさ。喧嘩拳ってのは癖が付くから一定以上の上達は望みにくい。普通ならディーノさんと互角に戦えるはずがないんだよ。――つまり恭弥が天才ってことですか、何ソレ不公平、天は二物を与えずって言うくせになんで美貌と才能があるのさ。分った、転生前のお買い物のせいか。前世の人間が美貌と才能を選んだんだろうな、なんて奴。恭弥の前世の人間出てこいよ、私が殴り飛ばしてやる。人間無欲にならなきゃね。超人的な体力を買った人間の言うことじゃないかもしれないけどさぁ……。


「マラソン十キロ――は無理だから、まず五キロから始めよっか」

「何で無理だと思うの――思うんです、か」

「体格」


 走るには身長が足りない。年齢も足りない。色々と足りない。――これは、転生してから身をもって理解したもんねぇ。慣れてる私ならまだしも、素人の恭弥が十キロ走れるかと言えば否だ。


「僕は……太ってないっ!」

「敬語。忘れたの? 頭悪いの馬鹿なの? それともさっきので飛んでいった?――ま、そう勘違いしたのは私の言葉が少なかったからか。太ってる太ってない以前の問題なの、まだ伸び盛りの低身長だってこと」


 小さい頃に筋肉を付け過ぎると成長が止まるからなぁ、程良く鍛えつつ筋肉を付け過ぎずの加減が分らないからなー。本屋でも行こうか、筋肉雑誌があるでしょ。それともアレ……『コンビニ』に行こうか。


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