02
マルチリンガルになりたーいっ! と言ったのは私だけどさぁ、まさかこれはないわー。
「×△×! ○□!」
「△×○ー、×□ー」
私はその時、英語じゃあなさそうな言葉を言って騒いでる周囲に呆然とするしかなかった。
周囲に外国語を話す人間しかない環境に一年もいれば、片言に話せるようになる。二年もいればだいぶん話せる、三年もいればほぼネイティブ。頭上をイタリア語と英語、時々フランス語やらスペイン語やらが飛び交っている。マルチリンガルになれる環境はばっちりですねー。
「ナッキ」
転生してからついた新しい名前は夏輝。外国人には言いにくいらしくナッキーとかナッキって言われてる。転生してから全く日本語を話したことがないから、私も『夏輝』と日本人らしく言うのは難しい。
そうそう、聞いてよ。私漫画の世界に転生しちゃったんだよー本当に泣きそうなんだけど、どーすれば良いの? 死亡フラグ乱立だよコレ死ねって言うの? 前世の記憶持ったまま転生させた癖に死にやすい環境に突っ込むってどういうことよ誰か説明してぇ!
「なーに、ザンザス」
「来い」
私に声をかけた相手はザンザス。――そう。私ツナの双子の妹なんだよ止めてよ泣きそうだよ人生は不条理だって家出したくなるよ。てか何で私日本にいないのイタリアでマフィアと一緒に生活してるの馬鹿なの死ぬの? エンリコともマッシーモともフェデリコとも会ったことあるよ、全員まだ生きてるけど。そのうち殺される、今はまだ生きてるけど私殺される!
ザンザスは私の手を引き歩きだした。どこへ行くのか教えて欲しいけど、きっと「どこだって良いだろ」とか帰って来るんだよ。歩幅が違うから半分引きずられつつ廊下を歩く。も、もっとゆっくりプリーズ。
「ナッキ……お前は」
ザンザスが立ち止まり、私を見下ろした。その目には絶望と、希望がないまぜになって存在してる。……今、私四歳。ザンザス十六歳。イエースイエース! ゆりかごの時期ね、忘れてた。つまり私の死亡フラグ。オレにはボンゴレの血が流れてねーのに、何でこんな餓鬼が!! と言うわけでしょうかね今生のお父さん――はどうでも良いや、お母さん、先立つ不孝をお許しください。また私は転生します。今度はもっと平和な世界に行きたいな……平和で、命の危険? なにそれそんなのあるの? って世界に。無理? 無理でもごり押しできない?
どうせ死ぬんだ、てかどうせ一回死んでんだ。今から私をKillしちゃう相手もなんだか可愛く思えてくるよ。辛いんだね。私を殺しても良いよ――とは言えないけど、本音を言うと殺されたくないよーって泣き叫んで地団太踏んで逃げ出したいけど、まあ……ザンザスの気持ちを考えると「可哀想」ってのが一番なんだよねぇ。
「ザンザスは悪くないよ」
背が届かないから頭を撫でることはできない。私の手を掴んだ、ザンザスの無骨というには若い手を撫でる。殺されるにはまだやりたいことがいっぱいある――たとえばチビツナを見て心のカメラに焼き付けるとかチビヒバを見て魂に焼き付けるとかしたい。てか、そんくらいしかしたいことがない。自殺を考えるくらいに私は無欲なのよー?
「悪くないよ」
辛いんだねぇ、引き取られる前の環境に戻るなんて無理だもん。起きても絶望しか待ってない生活に逆戻りなんて、誇りが許さないんだよねぇ。それなら引き取る時に、君を養子として引き取るって言ってくれれば良かったのに、実子だなんていうから――証明が欲しくなったんだよ。十代目の席って言う。
「ナッキ……」
ザンザスが私を抱き上げた。四歳児の体は簡単に持ち上げられる。薄っぺらい胸にザンザスの顔が押し付けられた。
「許せ」
それが何に対しての謝罪なのか、私には分りようもなかった。
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