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 人間、水の中で浮くって無理じゃね? 無理だよ、無理無理。人類にはそんなスペック付属してませんって、本気で。

 沖に流されて、そこで一人寂しく溺れ死のうと思い立ったのは昨日。わー私って行動早い。行動派だね憧れるぅ。昨日の今日で自殺しに来たってどんだけー。


「ガボ、たす……けっ!」


 さて死のうと浮き環から手を離そうとした時、近くからそんな声が聞こえてきた。見れば――女の子が溺れている。苦しいよね、ただでさえ水飲んで辛いって言うのにコレ海水だもんねぇ。なんか、同族意識が芽生えるね。よし、お姉さんが助けてあげよう、泳ぐの下手だけどきっと、なんとかなるさ。

 バタ足で女の子に近づき、腕を引っ張って浮き環をもたせた。水の抵抗大きすぎてもう私疲れたよパトラッシュ、もう私泳げないよ。


「ヒッ、ヒッ……ありがどぉございまっ、ず」


 苦しかったのと海水が目に入ったのとでか、女の子の涙腺は決壊してる。


「いやいや良いよ気にしなくてー。私も流されてここまで来たクチだし」


 偶然だけど女の子助けちゃったし、今回は自殺するの止めようかな。また今度すれば良いじゃん、チャンスは何度もあるさ。


「落ちついたらビーチに戻ろっか」

「あい」


 ふよふよと浮かぶ、頼りない限りの浮き環。大人と子供とはいえ、二人分の体重を支え続けるのは難しかったのかもしれない。原因を知る前に溺死したから。

 私は女の子を残して溺死し、女の子は――どうなったんだろ? 助かったんじゃない?









 気が付けば、ファーストフードのレジの前に突っ立っていた。ちゃんとした服を着て、水着じゃない。


「いらっしゃいませーご注文はいかがですかー?」


 私は疑問を抱くことなくお品書きに目を通す。――チャクラ:200〜500魂、魔力:300〜650魂……。おかしいな、目が悪くなったみたいだ。


「あの、これは」

「お客様は生前に女の子をお救いになったので、彼女と彼女の配偶者及び二人の子供三人を直接的もしくは間接的に救った事になり、一人に付き500魂の追加で+2500魂の増加となります。お客様の本来の持ち点427魂と合わせまして、お客様は合計2927魂のお買い物が可能です」


 店員さんの説明が良く分らない。意味が分らない……どういうことなんだろうか。生来の持ち点500+善行ポイント−悪行ポイント=現在の持ち点とか言われても。


「お客様はもうお亡くなりになられていまして、今は転生後に得られるスペックのご購入のためお時間を頂いております」


 声に出した覚えないのに、この人はエスパーだろうか。エスパーだエスパーだ、実在するとは知らなかった。


「残念ながら私はエスパーではございません」

「え、そうなの?」

「はい、現在お客様は魂がむき出しの状態でして、思った事が外に筒抜けになっているのです」

「なにそれ、プライバシー侵害」

「ご了承くださいませ」


 ――私が死んだのは確実だから、これは本当に「転生前のお買いもの」なんだろう。来世か、来世ねぇ……自殺しようとした私が転生するなんてさ、おかしな話だよねぇ。


「じゃあこの『死ぬ気の炎及び超直感』とー、『マルチリンガル』とー、『超人並みの体力』をください」


 来世は――そうだな、オリンピックに行くんだ。死ぬ気になれば何でもできるとか、来世の私ファイト、がんばれー。「やればできる子」になれるよ、「やらなきゃできない子」の裏返しだけど。――てか、何で死ぬ気の炎置いてるの? 超直感は絶対ついてくるんだねぇ。ついでにこの三つを買っても私の持ち点は三分の二が残っている。


「お買い上げ有難うございます。ちなみに持ち点が1000魂を越えるお客様にはオプションサービスとして記憶力アップ等の頭脳の強化・前世の記憶が付いて来ます」

「え」


 前世の記憶ってことは、今の私の記憶ってことだよね? いらない、いらないんだけど。まっさらな状態で生まれ落ちたいんだけど。


「ついでにこのオプションについては受け取り拒否ができません」


 店員さんは何かを紙袋に詰めると、私にそれを押し付けて微笑んだ。店員さんが彼女の横に下がっていた紐をクイッと引き――私は落下した。


「行ってらっしゃいませ」


 店員さんのそんな声を聞きながら。


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