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パクは今三歳。私がこの世界に来たと自覚したのと同じ年だ。パクは毒のような空気の満ちる流星街内にあって、きれいな空気を吸って過ごしている。私の念能力【無菌室(キュアガーデン)】のためで、たとえ何キロ何十キロ離れたところで効果が薄れることはないから安心だ。
「お姉ちゃん!」
家にしている廃墟で内職に励んでいると、元気いっぱいな呼び声と共にバタバタという足音が聞こえてきた。足音は二人分。円で知っていたとはいえ、パクが友達(?)を連れてくるなんて初めてで驚いてしまう。
「おかえりパク。手は洗った?」
「うん! クロロもしたのよ、ね!」
「うん」
クロロ。となると将来の幻影旅団の団長か。
「パク、その子は?」
「んと、ともだちのクロロ」
「はじめまして」
「初めましてクロロ君。私はパクの姉の××」
パクと同じくらいの年齢にしては落ち着いた子だ、というのが第一印象だ。まあそれを言うと私も傍目には異常な人間だけれど、私は前世という経験があるからこうなのであってクロロはまっさらな状態からこうなったのだから、クロロこそ異常と言うべきだろう。それとも環境が子供であることを許さないのか。
「お? 二人は仲良しなのかな?」
なんと、今気づいたことにクロロとパクの手が繋がれている。可愛いなぁ、見てるだけでほのぼのする。
「うん!」
「うん」
元気に返事をした良い子がパク、頷いたのがクロロ。クロロの将来図が見えるというものだ。パクはまだ精神的に幼いから、これから変わっていくことだろう。
「クロロ君、ちょっとおいで」
私も鬼や悪魔ではない。こんな小さな子供が汚い空気を吸っていると思うとどうにかしてやりたいと思う。
「【無菌室(キュアガーデン)】」
口の中でボソリと呟き、クロロ君の唇に指を押し当てた。
「……?!」
急に悪臭が消え、肺の中のむかむかが消えたからだろう、クロロは目を見開いて周囲を見回した。
「おまじないー?」
「うん。クロロ君が病気しませんようにってね。パクもはい、パクが病気しませんように」
「ようにっ」
通常の環境であれば一年近くは効果が持続するのだけれど、流星街では半月もすれば効力も失せてくる。流星街の空気が本当に汚いことを示すこの事実には顔をしかめるばかりだ。だが住人全員にこれをしてやるほど私は暇でも博愛主義者でもないし、上層部が環境改善をしたら少しはマシになるだろう、上層部に努力してもらえば良い。
パクには半月ごとになど言わず、ほぼ毎日重ねがけしている。パクに汚い空気など吸わせて体をこわしたらと思うと体が震える。
「時々、そうね、一週間に一度くらい来たら良いわ。それ以上来ても全くかまわないけどね」
おまじないかけてあげるからと言えば、賢いクロロ君は神妙な顔で頷いた。本当にこの子はいくつなんだろうか。
「ね、ね、お姉ちゃん。クロロとゆうごはんいっしょがいいっ!」
「夕ご飯? クロロ君はそれで大丈夫?」
「うん。ちゃんと言ってきた」
パクが誘ったとは言え、こっちの都合に考えが回らなかったあたり、まだ可愛い子供といえる。
「ご両親に?」
「うん」
原作でクロロが自分の誕生日を知ってるのは流星街生まれか後からシャルを使って調べたかだとうかと思っていたら、その通り流星街生まれらしい。
「偉いね。じゃあご飯の量ちょっと増やさなくちゃね?」
「パクも手伝う!」
「そしたらクロロ君が寂しくなっちゃうよ?」
「あうー」
パクをクロロ君と一緒に居間(と呼んでいる部屋)に置いて、台所(と呼んでいる場所)に向かう。
その日の夕食はパクがはしゃいでお茶をこぼしていた。
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