気がつくと私は三歳児だった。髪も柔らかい金色で、瞳は灰色。母さんだという人は金と銀ね、なんて言って私を誉めた。元の顔と全然違うこの顔をどうしても受け入れられなくて、私は髪や目の色、顔のことを誉められるのが凄く嫌いだった。

 ところで。私は私生児だった。父は資産家のボンボンで、政略結婚だったが妻がおり、彼女の子供がその家を継ぐことが決まっていた。つまり私たちはいてはならない存在だった。私だっていたくなかった。

 家の敷地内から外に出たことは一度もなく、世の中から隔離され、隠されて私は育った。それでも私は別にかまわなかった。いつか元の世界に帰れると信じていた、否、信じ込もうとしていた。ひらがなの亜種みたいな文字を学び、漢字に該当する文字がないので読みにくいそれを解読しながら暇を潰していた。そのうち視界が灰色になるんじゃないかと思うくらいつまらない毎日に嫌気がさしながらも、マンネリと化したそれを享受していた。


「××、あなたの妹よ」


 六歳になろうという頃、母さんと名乗る人が私に赤ん坊を見せて言った。腹が大きくなっているとは思ったが、まさか妊娠していたとは。出産したことさえ知らなかった。今の私と同じ金髪の赤ん坊は、流石コーカソイド、天使のように愛らしかった。


「名前は?」

「パクノダよ」


 パクノダ。パク。私の妹。私は久しぶりに笑った気がした。頭の隅っこに何か……引っかかった気がしたけれど、気のせいだと思って無視した。

 この時たとえ私が何かを思いだしていたとしても、きっと私はどうすることもできなかっただろう。









 パクが生まれてすぐだった。本妻と父親の間に生まれた男児が病死した。箱入りと言っても良いほど大事にされていたらしい彼がどうして病死したのか知らないけれど、行き場のない本妻の思いは私たちに降りかかった。果たしてそれが悲しみ故になのか、妾へのやつあたりなのかは知らないが。

 元々戸籍のない私とパクは、本妻のわがままにより捨てられた。父親も言ってしまえばだたのボンボン、愛人の子供を愛する気持ちも妻を止める本気もなかった。

 降り立ったそこは流星街。――そう、何を捨てても許され、しかし流星街から奪うものには報復が待っているという、あの。この時になって私はこの世界がハンター世界であると知った。このパクが死ぬ未来が待っている、ハンター世界だと。


「ふぇ……」


 何も持つことを許されず私とパクは捨てられた。着の身着のまま、空気の汚いそこに立ち尽くす。パクノダが不快感に泣き出した。


「誰か、助けてください」


 私は声を張り上げ助けを求めた。周りに人影はない。でも、誰か気づいてくれたら。助かる――かも、しれない。

 でも誰も出てくることなく、パクは泣きつかれて眠った。

 ダメだ。ダメだダメだダメだ。パクをこんな汚い空気の中で生活させることなんてできない。流星街を出る――否。出て何ができる。ストリートチルドレン止まりで、マフィアに利用されるだけだ。彼らと対等になりたければ流星街にいるしかない。


「念――念能力」


 そうだ。念能力があれば生活費を稼ぐことができる。念が目覚めればどうにかなる。……でもどうやって目覚める? 瞑想なんかじゃ遅すぎる。無理矢理開くにしても開ける人がいない。


「お願い、神様――他に何を捨てても良い、この子を守る力が欲しい! 何でも、何でも捨てる!」


 初めてこの世界で愛しいと思った存在。そのためなら何を捨てても悔いない。

 と、体から白い煙が立ち上った。オーラ……だろうか? 力が抜けていく。これを体に吸着させれば良い――はず。血液のように循環する様を思い浮かべ、湯気のように立ち上るそれを睨みつける。

 だんだんとオーラの揮発は収まり、ねっとりと体表に絡むそれに安堵の息を吐く。

 流や硬を身につければ大人とも戦える。ごめんねパク、お姉ちゃん頑張るから、ちょっとの間我慢しててね。







 君が物心付くまでに、きっとどうにかしてみせるから。


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