特にこれといった事もなく四日が過ぎた。時刻は三時を過ぎ、さっき食べたおやつの甘食の味が口の中に微妙に残っている。

 ところで、私は暇つぶしと暇つぶしを込めてヒソカ少年にひらがなカタカナ漢字を教えている。


「それは『な』か?」

「あ、うん」

「間違ってるぞ、それだと『あ』だ」

「あれ?」


 カタカナは覚えられたのに、ひらがなで苦戦している。まあカタカナの方が単純だし、混同しやすいのはシとツくらいだから当然かもしれない。


「そんなヒソカ少年にはこれをあげよう」


 今朝散歩がてら立ち寄った本屋で買ったひらがな練習帳を取り出す。大手の通信教育の出版社が出しているものだ。


「見本を横に書くよりもなぞる方が良いだろう」


 実際『な』と『あ』を間違えているし。


「うん……やってみる」

「頑張りたまえ」


 真剣なヒソカ少年の目に、なんだか羨望の気持ちが沸いた。私はあれくらい何かに真剣になれたことがあるだろうか? 覚えている限りでは、私は必死になったことも悔しさに涙を流したこともない。

 ヒソカ少年が羨ましい――昔、私もあれくらい本気だったんだろうか? 分らない。


「あ、あ、あ……」


 眉間にしわを寄せながらひらがなの練習をするヒソカ少年は、もうこっちの様子など目に入らないようでひたすら鉛筆を動かしている。

 私はヒソカ少年がハンター世界の住人であると知っている。トリップしてきた彼が、ハンター世界でどんな生活を送っていたのかなんて知らないし、知ろうとも思わない。ヒソカ少年が自分から言うのでもない限りどうでも良い話だから。

 今一番大事なことは、ヒソカ少年が私の世界にいるということ。もし元の世界に戻るとしても、それがいつになるか分らない。明日かもしれないし一年後かもしれない。ならここの文字を覚えるべきだと私は考えた。そしてそれをヒソカ少年に言い、ヒソカ少年は真剣にそれを受け止めていた。


「――ふむ」


 ヒソカ少年が構ってくれないので、私も紙に向かい思いついたことを書き連ねる。


「ヒソカ少年、これで合っているかな?」


 私が書いたのはハンター文字。ヒソカ少年にだけ勉強させるのもなんなので私も練習したのだ。文字数が少ないから二日でマスターしたけれど。ヒソカ少年はずるいずるいと言っていたが。


「えーっと?『今日の夕飯の献立は何が良いか、以下の三つのうちから一つ選べ。一、豆腐サラダと焼き肉。二、ポテトサラダとシャケのムニエル。三、たこ焼きと明石焼き』……問題じゃないんだから」

「どれが良い?」

「三だけ異色を放ってるよね」

「じゃあ三で」


 まだ選んでないよ、一番が良い! と騒ぐヒソカ少年を無視して席を立った。

 関西弁の友人に伝授された私のたこ焼き術、とくとごろうじろ。


4/6
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