一人で暮らすには広すぎるマンションに帰る。家族四人用のマンションは虚しいくらい広々としている。両親と弟は今南アだ。


「今から風呂を沸かすから、沸いたらお入り」


 弟と似た体格で良かった。少し弟の方が年齢的にも体格も大きいが、大は小を兼ねると言うじゃないか。濡れた上着を脱いで洗濯カゴに突っ込む。風呂の栓をして、湯量を少し多めに設定し直し自動湯張りボタンを押す。


「濡れたままでは風邪を引く」


 立ち尽くすヒソカ少年を無理矢理バンザイさせて服を脱がす。さすがにズボンまでは脱がすのははばかられる。後で自分で脱いでもらおう。


「ユマさん」

「ん?」


 ヒソカ少年がふにゃりと顔を歪めて呟く。


「ここ、どこ?」

「私の家だが?」

「――」


 そうじゃない、そういうことを聞いているんじゃない、と言いたげな顔をするヒソカ少年。分からん、なにがどうしたと言うんだ。

 風呂が沸いたからヒソカ少年を風呂場に投げ込む。六歳なのか七歳なのかは分からないが、この年齢だ、一人で体を洗えるだろう。

 ヒソカ少年の上着を拾い上げ、裏返しになったそれを見て首を傾げる。何かが縫い取られている。文字だろうか?


「どこかで見たような」


 アラビア文字でも漢字でも、アルファベットでもない。でも見覚えがある。どこで見ただろうか。眉間に皺を寄せて考えるが分からない。あきらめて放りだし、テーブルを片づけることにする。

 メールが来るまではマンガを読んでいたから、テーブルの上には数十冊のマンガが平積になっている。聖☆お兄さんとかヘタリアとか、リボーンとか。リボーンを順番に揃えながらふと思い出した。

 ――そうだ、ハンターハンターじゃないか。あれはハンター文字だ。

 二十冊のリボーンを抱えて部屋に入り、ハンターハンターの公式ファンブックを棚から引き出す。居間に戻りヒソカ少年の服を取り上げる。


「ひ、そ、か……ヒソカ。ふむ、あの変態と同じ名前とは」


 ヒソカ少年も可哀想に。奇術師に目を付けられたら大変だぞ。


「ならヒソカ少年はハンター世界から来たのか?」


 ヒソカ少年が風呂から出たら聞いてみよう。これは――見せるべきじゃないな。ハンターハンターは目に付かないところに仕舞っておこう。


 そろそろヒソカ少年が風呂から上がる頃だろうか。弟の使用済みですまないが、下着も弟のを貸してやろう。弟の箪笥を探り、はきやすい短パンと肘丈のシャツ、キャラクターものではない無地のパンツを回収して脱衣所に向かった。


「ヒソカ少年!」

「は、はいっ」

「タオルと着替えは横のカゴの中にあるから、出たらそれを使えば良い」

「うん」


 ザバザバという水音が聞こえ、どうやら湯船からあがるところのようだ。

 脱衣所を出てハンターハンターをクロゼットの上に隠す。これでヒソカ少年の目につくことはないだろう。

 居間に出てきたヒソカ少年に代わって入浴した。湯船でまったりとしていて気づいた。そういえばヒソカ少年はどうやってこの世界に来たのだろう。そしていつ、帰るのだろうか。


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