2
一人で暮らすには広すぎるマンションに帰る。家族四人用のマンションは虚しいくらい広々としている。両親と弟は今南アだ。
「今から風呂を沸かすから、沸いたらお入り」
弟と似た体格で良かった。少し弟の方が年齢的にも体格も大きいが、大は小を兼ねると言うじゃないか。濡れた上着を脱いで洗濯カゴに突っ込む。風呂の栓をして、湯量を少し多めに設定し直し自動湯張りボタンを押す。
「濡れたままでは風邪を引く」
立ち尽くすヒソカ少年を無理矢理バンザイさせて服を脱がす。さすがにズボンまでは脱がすのははばかられる。後で自分で脱いでもらおう。
「ユマさん」
「ん?」
ヒソカ少年がふにゃりと顔を歪めて呟く。
「ここ、どこ?」
「私の家だが?」
「――」
そうじゃない、そういうことを聞いているんじゃない、と言いたげな顔をするヒソカ少年。分からん、なにがどうしたと言うんだ。
風呂が沸いたからヒソカ少年を風呂場に投げ込む。六歳なのか七歳なのかは分からないが、この年齢だ、一人で体を洗えるだろう。
ヒソカ少年の上着を拾い上げ、裏返しになったそれを見て首を傾げる。何かが縫い取られている。文字だろうか?
「どこかで見たような」
アラビア文字でも漢字でも、アルファベットでもない。でも見覚えがある。どこで見ただろうか。眉間に皺を寄せて考えるが分からない。あきらめて放りだし、テーブルを片づけることにする。
メールが来るまではマンガを読んでいたから、テーブルの上には数十冊のマンガが平積になっている。聖☆お兄さんとかヘタリアとか、リボーンとか。リボーンを順番に揃えながらふと思い出した。
――そうだ、ハンターハンターじゃないか。あれはハンター文字だ。
二十冊のリボーンを抱えて部屋に入り、ハンターハンターの公式ファンブックを棚から引き出す。居間に戻りヒソカ少年の服を取り上げる。
「ひ、そ、か……ヒソカ。ふむ、あの変態と同じ名前とは」
ヒソカ少年も可哀想に。奇術師に目を付けられたら大変だぞ。
「ならヒソカ少年はハンター世界から来たのか?」
ヒソカ少年が風呂から出たら聞いてみよう。これは――見せるべきじゃないな。ハンターハンターは目に付かないところに仕舞っておこう。
そろそろヒソカ少年が風呂から上がる頃だろうか。弟の使用済みですまないが、下着も弟のを貸してやろう。弟の箪笥を探り、はきやすい短パンと肘丈のシャツ、キャラクターものではない無地のパンツを回収して脱衣所に向かった。
「ヒソカ少年!」
「は、はいっ」
「タオルと着替えは横のカゴの中にあるから、出たらそれを使えば良い」
「うん」
ザバザバという水音が聞こえ、どうやら湯船からあがるところのようだ。
脱衣所を出てハンターハンターをクロゼットの上に隠す。これでヒソカ少年の目につくことはないだろう。
居間に出てきたヒソカ少年に代わって入浴した。湯船でまったりとしていて気づいた。そういえばヒソカ少年はどうやってこの世界に来たのだろう。そしていつ、帰るのだろうか。
2/6
*前|戻|次#
|