ブローノは最初から僕にスタンドについて話すつもりだったらしい。わざわざ遠い日本からイタリアまで会いに来てくれるような友人に隠し事をしたくなかったのだそうだ……五部に巻き込もうとされないのならスタンドのことやブローノの就いている危険な職業について話してくれても全く構わないから良いのだけど、彼なりに悩んだ末のことのようだから神妙な顔を作って話を聞いた。


「おれのスタンドの名前は【スティッキー・フィンガーズ】。物にジッパーを作り開け閉めする能力だ。たとえば壁にジッパーを作り、その向こうと行き来することができる」


 ブローノが机の上にジッパーを作りそれを開いたり閉じたりしてみせるのを見て、仕方ないので僕も自分のスタンドを開示することにした。湧き上がるように現れた僕のスタンドにブローノが目を見開く。


「ブローノ、君が見せてくれたと言うのに僕だけが言わないのはアンフェアだと思う。だから僕も君に言わないといけない――僕もスタンド使いだ。これが僕のスタンド【オープン・セサミ】。能力は君とほぼ一緒であけたりしめたりすることができる」


 ブローノの頬が紅潮した。スタンド能力は人それぞれであり似たような能力が出ることはほぼない――血の繋がった親子や孫であれば可能性はあるが、赤の他人で同じ概念を持つスタンドになるというのはほぼありえないと言って良いのだ。つまり僕らは共通のスタンドという奇妙な縁で結ばれていると言うことだ。……ジョジョたちみたいで嫌だな、この表現。


「オープン・セサミはおれのスティッキー・フィンガーズのようにジッパーを出す必要はないのか?」


 スティッキー・フィンガーズが興味深そうにオープン・セサミの腕を何度もつついたので、お返しにオープン・セサミがスティッキー・フィンガーズの腕で雑巾絞りをした。痛いって言ってるだろ、ええいお返しじゃ!


「単に『あける』って概念しかないからね、ジッパーを出そうと思えば出せるかも」


 せっかく似たスタンドなんだからということで、僕もジッパーを出せるか試してみた――が、無理だった。ただ、ブローノが壁の中に仕舞っている日記を僕のオープン・セサミでも取り出すことはできたから『同じ空間を開く』ことが可能だと分かった。ブローノが冗談めかして「だからおれに金庫は必要ないんだ」と言ったのを聞いて、実は僕も空中に穴を開けて四次元ポケットをしていると言えば食いつかれた。空港で荷物が少ない理由を土産で埋めるからと言ったけど、実際は少し違う。スーツケースは「旅行してきました」のポーズのために持っているだけなんだよね。


「おれにも出来るだろうか?」

「出来ると思うことが大事だよ、ブローノ」


 出来やしないと思っていたら出来るはずのことも出来ないさと言えば、ブローノはそうだなと頷いて空中にジッパーを作ろうと手をわきわきさせた。が……。


「出来ないね」

「そうだな……」


 ブローノ・ブチャラティの主な仕事は街の治安維持であり鉄砲玉になることではないとはいえ、空中にジッパーを作ることができればブローノの可能性は無限に広がる。ヴァニラ・アイスのようにその場から姿を隠すこともできるかもしれない。ポルポの元へ物品を運ぶのだって楽だろう。テーブルに突っ伏して嘆くブローノの背中をポンポンと叩き残念だったねと慰める。ブローノの能力はどうやらジッパーをつける相手が必ず物体でなければならないようだ。

 それから互いのスタンド能力で平和な遊び(ブローノが開いていく端から僕が閉じていくとか、半ば「おれのスタンドの方が便利で強い」という意地の張り合いだった。もちろん僕が勝った)をし、お昼ご飯にブローノ手作りのパスタを食べて一息ついたと思えば、シエスタだから一眠りすると言われ寝ることになった。


「ブローノ、僕はどこで寝れば良い? もしかして一緒のベッド?」

「そんなわけがあるか。お前用に隣家から借りた――ただ、部屋の広さの関係で隙間なく二台置いている」


 隣の家の息子が独立したため使い道に困っていたベッドらしい。寝室を覗けばクイーンサイズのベッドがみっちりと寝室を侵略していた。お、おおう……。


「これがブローノの?」

「いや、隣家の息子のだ。あいつは二メートル十センチあった」

「その無駄に飛び出た十センチを是非とも僕に譲ってもらいたいものだね」


 その十センチ、無駄無駄ァ!!

 隣家の息子ベッドの向こうにそのベッドで押し潰されそうになっているのが一台あった。これが本来のブローノのベッドらしい。うん、息子のベッドと比べて良心的なサイズだ。靴を脱いでその上に乗ってみれば、僕の煎餅布団との差がこれ以上なく感じられた。


「……親の布団に潜り込んだ子供のような気分だ」

「それを目にした親のような気分だ」


 ブローノこの野郎!


「で、シエスタっていうのは何時まで寝るものなんだい?」

「今は一時だから――二時半までにしようか」

「了解」


 目覚ましを合わせるブローノを見上げた瞬間、僕とブローノならこのベッドを二人で使っても十分なんじゃないかと思い付いた。ブローノの普段のベッドとはいえ、僕は家主に狭い布団で寝させて悠々と僕だけ広い思いをするような曲がった性根をしていないつもりだ。それにブローノは僕より背が高いと言っても百八十センチないし、承太郎や仗助のように筋肉太りしているわけじゃない。

 僕の座るベッドを乗り越えて自分のベッドへ行こうとするブローノの腕を掴み無理矢理寝転がしてやれば、ブローノは「うわっ」と分かりやすい悲鳴をあげた。


「ブローノ、一緒に寝ないか」

「は!? 何を言って……ッ!」


 目を丸くして叫ぶブローノを「この布団は僕一人じゃ広すぎる」とか「まあまあどうせ男同士だ、同衾くらいどうってことはないさ」とか「彼女いないんだろ気にするな」とか色々と言って納得させて寝た。「今」いないのか「今までずっと」いないのかはブローノの名誉のために言わない。

 男同士と言えば、ソルベとジェラートって五部開始の二年前に殺されたんだったっけ? もう殺された後なんだろうか、前なんだろうか……どちらにせよ、僕には介入するつもりは全くないんだけどね。人の命をどう思っているんだと言われそうだけど、巻き込まれて僕が死んだらどうするっていうのさ。死ぬならいっそぽっくりと――じゃなくてね、僕は何をされても死なないから、致命傷受けて生き返ったら事件になるだろ。普通の人なら死ぬような攻撃とか受けるのも怖いしさ。君子危うきに近寄らずだよ。

 ――フラグはたいがい回収されるものだと気付いたのは、シエスタの後のことだった。


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