花園さんは花京院って人の生まれ変わりで、柱の一族って闇を生きる生き物の生き残りか先祖返りじゃないかってのが承太郎さんとじじいの考えらしい。

 花京院って人は花園さんと同じノリアキって名前で、写真を見せてもらったら髪型も一緒、チェリーが好きだったとか。承太郎さんたちとは二ヶ月足らずしか一緒にいられず、最後はDIOって野郎に腹に穴をあけられて死んだとか……。見る間に治ったとはいえ吉良のせいで花園さんの腹には大きな穴が開いた。花園さんと花京院って人には共通項が多過ぎるってのが二人の意見だ。

 そして額の角についてだが、あれは柱の一族ってのから進化したアルティメット・シイングとか言うヤツだからだそうだ。実際に本人も「僕はアルティメット・シイングだ」とか言ってたからその通りなんだろう。だけど本来アルティメット・シイングになるには赤石っつー石が必要なはずだとか。


「柱の一族は日光に弱いため日の下へ出ることが叶わんかった。それを克服しようと研究していたのがカーズで、後にDIOを吸血鬼となした石仮面を作りだしたのもそいつじゃ。その石仮面とエイジャの赤石によってカーズはアルティメット・シイングとなった」

 じじいは遠い昔を思い出したせいか、いつもより少し老けて見える。


「見た目では柱の一族らしい特徴は角しかないが、花園くんは柱の一族じゃろうと思う。何かしらの偶然があって先祖返りしてしまったのじゃな……得てしてハーフというものは純血種よりも大きな才能を持つもの、彼は赤石なくしてアルティメット・シイングとなったのじゃ」

「その、アルティメット・シイングというのは一体どのようなものなんですか?」


 目を爛々と輝かせながらスケッチブックにペンを走らせてた岸辺露伴が、さっさと答えろと言わんばかりの表情で質問を繰り出した。こいつネタにする気満々だな。


「そーいや花園さんが『アルティメット・シイングとはッ! ひとつ、無敵なり! ふたつ、決して老いたりせず! みっつ、決して死ぬことはない! よっつ、あらゆる生物の能力を兼ね揃え、しかもその能力を上回る!』って言ってたような」


 あの言葉が本当なら、花園さんは不老不死ってことか。なんか……なんか嫌だぜ。どこがどう嫌かってのは分らないけど嫌だぜッ!


「花園くんがそう言っていたなら、その通りなのじゃろう。わしらが知っているのはただ、ただでさえ弱点が少ない柱の一族がアルティメット・シイングになると日光さえ平気になって本当に倒せなくなるということだけじゃし」

「チッ、本人に聞くべきかッ!? しかし訊ねても答えてくれるかどうかッ!」


 ギリギリと歯ぎしりする露伴。露伴と同じ意見ってのが気に喰わんが、花園さんのことだ、聞いて答えてくれるとは思えねえ。スタンドで失敗したって話した時の花園さんの表情から見て、その失敗がかなりのネックになってるみたいだしなァ。自分を嘲笑うような……見てるこっちが切なくなるような顔だった。


「花園さんは自分の力があんまり好きじゃないのかな……」


 康一もおれと同じ事を考えてたのか、渋い表情でそう呟いた。


「ぼくたちは運良くこの力を好きになれる環境にいたけど、もしかして――花園さんはそうじゃなかったのかもしれない。孤立する原因になったとか、そんなことがあったんじゃないかな。スタンドでした失敗っていうのは」


 承太郎さんが口をへの字にして顔をしかめた。


「ありうることじゃ。花京院もスタンド見えない周囲から孤立し、わしらと出会うまで友人といえる存在がいなかったそうじゃしな」


 スタンドが見える友達は誰もいない、見えない人間と真に心が通うはずがない。花京院って人はそう言っていたのだとか。――ッ、もしかしてッ!!


「花園さんは十年前に日本縦断旅行してるらしいんですよ。もしかすっとスタンドの見える相手を求めてケンカして回ったのかもしれないっすね」

「そーそー。遠山不沈艦って呼ばれてたんだぜ、あの人」


 億泰がコクコクと頷きながらそう言った。松田って人に聞くまでは不沈艦の遠山だとばっかり思ってたからな、全く紛らわしいったらないぜ!







「遠山不沈艦……彼がか」


 桜吹雪を好み、その気風の良さと合わさって遠山と呼ばれた男がいることは知っていた。おれたちがエジプトへの旅へ出ている間に通り過ぎてしまったことを聞いた時は少しもったいなく思った。なんとおれの住んでいる街を通ったと言うのだから悔しさは余計に大きかった。あと数十日ずれていれば会えたかも知れないのだ。その遠山不沈艦が花園であったとは。


「これはぼくの想像でしかないのだが、花園さんがその花京院って男の記憶を取り戻したのはその十年前なんじゃないか? 知るはずもない場所を夢で見たりとかさ、そういったことがあったから日本縦断旅行なんてしてみたとか」


 露伴がペンを手の中でくるりと回しながらそんなことを言いだした。


「つまり、花京院さんの記憶を十年前に取り戻したってことですか?」

「そうさ。遠山不沈艦の話ならぼくも集めたことがあるんだ。彼は凄いネタの宝庫だからな。各地に武勇伝を残すような不良なんて彼くらいだッ!!――でだ、普通なら受験シーズン真っただ中の学生が日本縦断なんてするわけがない。受験勉強にかかりきりになるのが普通の学生だぜ。つまり当時の彼には何かしらの理由があったってことだッ!!」

「承太郎……」

「分っているさ、じいさん。――おれたちが花京院と一緒にDIOを倒すたびに出たのは十年前の冬。あいつが日本縦断をしたのも十年前の冬。偶然にしちゃ出来過ぎてるってものだぜ」


 話に着いてこれていないらしい億泰が頭を捻りながら仗助に説明しろと言っているのを横耳に、どう花京院を説得したものか考える。姿や生まれを変えてでもあいつが生きていてくれることがとてつもなく嬉しいんだ、おれは。

 しかし、何故ああも意固地になっているのか。何故認めようとしないのかは謎だが、お前は間違いなく花京院典明だろう。あの四十五日は捨て去りたい過去だとでも言うのか? 額を揉みほぐすが悩みは軽くならない。


「あの……これはぼくの想像なんですけど。普通の人なら、突然前世の記憶が蘇ったりしたら、混乱すると思うんです。花園さんには今まで生きて来た十五年があったわけで、それがまるで否定されたような気持ちになったのかなーなんて。いや、違いますよね」

「いや、康一くん! その通りかもしれないぜ。ぼくだって、ぼくじゃない人間の記憶が突然脳内で再生されたりしたら始めは混乱するだろう」

「混乱する前に興奮するんじゃないっすか、岸辺露伴センセーならよぉー」

「貴様に言われるとむかっ腹が立つが、でもその通りかもしれないな。これ以上ないネタじゃないか」


 前世の記憶は花京院にとって重圧でしかないのか? だからおれたちと関わり合いになるのも嫌だった、と……そういうことなのか。――駄目だ、冷静な思考じゃない。クールダウンしろ。もっと理論的に考えろッ。


「今度こそは、と思ったのかもしれん」


 じじいが組んだ指を見つめながらぽつりと呟いた。全員の視線がじじいに集まる。


「花京院は両親に何も言わずにいたからのう……今度は両親を悲しませたくないと思ったのじゃあないか? わしらのようなスタンド使いと関わり親しくなれば、わしらが何か事件に巻き込まれた時に無関心でいられなくなるじゃろう。花京院は人を思いやる優しい心の主じゃから――悲しませてしまった花京院の両親のような想いを今の両親にさせたくないのじゃと思う」


 花京院の両親を思い出し、拳を握りしめる。彼らの動転ぶりは見ていられなかった。行方不明になった息子がエジプトで死体になって見つかったのだ。それも腹に大穴を開けて。「いったい何があったの」「どうして」二人の悲痛な叫びはおれたちの心を深く抉った。花京院を巻き込んだのはDIOだが、一緒に旅へ連れて行ったのはおれたちだ。おれたちはあいつに、親より若くして死ぬという最大の親不孝をさせてしまった。

 だからか。だからなのか、花京院。前の両親を悲しませてしまったから今度こそと思っているのか。前回おれたちを優先したからこそ今度は両親を優先させようと、罪滅ぼしをしたいと――そう思っているのか。それがお前の意思だというのか、花京院。


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