あの場にいた全員に周囲を囲まれて承太郎に担がれてホテルへドナドナされた僕は、正面に承太郎、その隣にジョースターさん、何故か隣に仗助くんと岸辺さん、仗助くんの隣に億泰くん、岸辺さんの隣に康一くんという並び方でソファに座ることになった。とてつもなく居心地が悪いのだけど。

 正面に深く座る承太郎が、睨まんばかりの鋭い目つきで僕を見つめる。


「花園――いや、花京院。どうして今までしらばっくれてやがった」

「は?」


 はい?


「死んだ者が生き返るなんて普通じゃ信じられないが、吸血鬼が実在したくらいだ。生まれ変わりがいてもおかしくない――」


 あ、ありのまま……今、起こったことを話すぜ。「おれはスタンド使いだったのを隠してた理由を聞かれると思ったら、花京院だろうと尋問されていた」承太郎が何を言ってるか皆もわからねーだろうがおれもわからなかった……。頭がどうにかなりそうだ……誰か詳細な説明をしてくれ。僕は今、とてつもなく混乱している!! 時期が被ってるだろうがおかしいと思わないのか。

 必死にポーカーフェイスを保ちながら承太郎の話を聞いていくと、趣味や嗜好が一緒、かつて花京院と同じ台詞やポーズ、スタンドの見た目と能力――僕が単なるネタとしてやったアレコレがことごとく裏目に出たようだった。でもさ、髪型は角を隠すためだし、廃ゲーマーなんて探せばいくらでもいるし、服とかファッションの趣味は偶然だし、スタンドの見た目はまあ……似てるか? まあ似てるとしても、能力は似てるとは言い難いし。


「僕は君の言う花京院という人じゃないよ。ただ似てるだけの他人さ……それに、生まれ変わりって言うのは死んだあとに別人として生まれるのを生まれ変わりと言うのであって、僕はその花京院さんと何歳も違わないだろう」

「――ッ、花京院!!」

「花園さん、どうして秘密にしたいのかは分りませんけど……承太郎さんはずっと悩んでたらしいんですよ……」

「そうじゃよ花京院」


 ――何故か周囲が承太郎の味方なのだけど、どうしてだろう。康一くん、君はもっと冷静だと思っていたよ。ジョースターさん、ぼけ老人は黙っていてくれないか。


「ちょっと待ってくれ、先ずは花園さんの話を聞くべきだとぼくは思う」


 岸辺さんっ!! 僕は嬉しい!


「僕はその花京院って人を知らないから、僕にとって花園さんは花園さんでしかないわけだ。それに、僕たちが聞くべきなのは花園さんの前世についてよりも先ずスタンド使いであることを秘密にしていた理由だろ?」


 正しい道に戻してくれた君が少しだけ憎いような有難いような、良く分らない気分だ。僕は承太郎が用意した紅茶で唇を湿らせ、改めて口を開いた。美味しいのが余計にむかつく。


「僕のスタンドの名前はオープン・セサミ。能力はあけたりとじたり、ひらいたりしめたりすることができると言うものさ。具体的には道を拓いたり雨があけたり、同音異義語の内なら色々できるね」


 本来の言語でオープン・セサミは「イフタフ・ヤー・シムシム」と言い、ゴマが弾ける様子から、宝物などの素晴らしい物が溢れ出ることを意味する。つまりイフタフ以下略を意訳するなら「素晴らしい宝物よ、溢れ出ろ」ってところだね。


「僕は幼い頃にこのスタンドで大失敗をしたことがあって、それからずっとこのスタンドを隠して生きて来た。同じような能力を持つ人が相手だとしても教えるつもりは全くなかったんだよ……けっして康一くんたちを信じられなかったとか、そういう理由じゃない」


 スタンドでうっかり宝物室の扉じゃなくてアルティメット・シイングへの扉をオープンしちゃったのはかなり恥ずかしい失敗だ。黒歴史だ。誰が嬉しくて「僕さー、実はスタンドの使い方を誤ってアルティメット・シイングになっちゃったんだ☆」なんて言えるだろうか? 残念な人だとしか思われないって確信があるよ。


「花京院……」


 だからどうして僕をそう呼ぶんだよ。花園って呼べよ。

 何故かしんみりした空気が室内に流れる。僕は巨悪との戦闘ってのが好きだったからさ、一部や四部よりも二部や三部、五部、六部が好きなんだよ。七部は序盤しか読めないまま死んだんだけどさ。特に好きなのが二部と三部で、ワムウとかカーズとか大好きだったさ。だけどワムウのポーズって荒ぶる鷹のポーズだし、カーズのウィンウィンは誰かの足がないと始まらないし僕は腕から輝く刃物なんて無理。変形はできるけど。エシディシのポーズは筋肉あってこそだろ? ていうか柱の一族のポーズのみならず二部と三部のジョジョ立ちのほとんどは筋肉有りが理想形だよね。

 さほど筋肉太りしてない二部か三部のキャラで、僕がしてもおかしくないポーズって限られるんだよ。僕は似合わないジョジョ立ちはしたくないし女キャラのジョジョ立ちもしたくない。となると花京院立ちが一番しっくりくるんだよね。ちなみに六部の祝福しろポーズはナルシストっぽくて嫌だ。――だけど、まさかこんな勘違いをされるんだったらマネなんかしなかったよ。ジョジョの世界でジョジョ立ちする興奮を楽しんでいただけなのに……。


「どうか僕のことは放っておいてくれないか。あと承太郎、僕は花京院じゃなくて花園だ」


 僕には僕の生活がある、煩わせないでくれと一言だけ残して床に通り道を『開ける』。スティッキー・フィンガーズみたいな使い方だけど『開けて』『閉じる』範囲内だから可能。今度アリアリアリ(中略)アリーヴェデルチって言ってみようかな。

 僕が帰った後のリビングで、まさか僕の身の上に対する勘違いが深まっていたなんて……誰が想像できるというだろう? 『既に花園紀明として二十五年が過ぎている。今さら花京院典明になんて戻れないよッ!!(涙をほろり)』なんて僕は一言も言ってないし泣いてもない。お前の頭の中はどうなっているんだ承太郎、人の話を聞け!

 康一くんが僕を物言いたげな目で見るようになって視線が痛い。岸辺さんは「ヘブンズ・ドアーで読ませて下さい!!」って土下座かましてきたけどない袖は振れないからね。それに前世のことを読まれたら僕の身は破滅だ。仗助くん、「花園さんの前世が花京院って人でも、おれにとって花園さんは花園さんっす!!」って言葉、前半がいらないよ。僕は花京院の人生なんて経験してないからね?

 でも仗助くん、最近なんか妙に僕にまとわりついてくるようになったのはどうしたんだい? わざわざアイスキャンディーの当たり棒を持って来なくて良いから。君は飼い主にべた惚れの犬にでもなったつもりなのかい。悪気がないのが分るから良いんだけどさ。


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