広瀬康一に絡まれるようになった。意外と常識的な方だったんですねとはどういうことだろうね? その発言については近いうちに康一くんとは膝を突き合わせて話し合いをするべきだろう。


「みーんなはいまどこで何をしていますか」


 銭湯へ行こうとジムを出て、奇妙な流星群を歌いながら階段を下りる。ガラス扉を押して建物から出た僕の視界に白ランが飛び込んできた。康一くんとリーゼント少年の三人で何やら話しているようだ……四部スタートか。好きにしたら良いんじゃないかな、僕を巻き込まない限り。流星群を鼻唄に変えて先頭の方向へ足を向ける。修行なさいジョジョー♪


「花園さーん!」


 何故声をかけた康一くん。こういう時は見てみなかったふりをしてやるのが優しさってものじゃないかい? 僕は悲しい……僕は君をそんな人間に育てた覚えはないよ。

 仕方がないから三人のいる方へ向き直って手を上げる。僕のことを訊ねる白ランに康一くんがにこにこと笑顔で「この町の警備会社の人ですよ。前にも絡まれてたところを助けてもらったんです」と答える。僕は確かに警備会社の職員ではあるけど便利屋にまでなった覚えはないのだけどね。三歩の位置で立ち止まり、掛けてたお局様サングラスを外し尻ポケットにねじ込んだ。


「やあ康一くん。……初めまして、私は花園紀明と言います。貴方は?」

「空条承太郎という。よろしく」


 白ランこと空条さんと握手して、次にリーゼントの少年を振り向く。愛嬌のある顔をしてるけど、僕より背が高いのが可愛くないね。


「康一くんのお友だちかな? 僕は花園紀明」

「あ、おれは東方仗助っす」


 ぺこりと頭を下げた仗助くんに頷いて、やっと康一くんを見やる。


「今日はどうしたんだい? 傍目不思議な組み合わせだけど」

「いやぁ……なんて説明したら良いのかなぁ」


 なら呼び止めるなよ。僕はこれから銭湯に行くんだからね。まだ梅雨前だから涼しいけど、体に汗が貼り付いて気色悪いんだ。


「言いにくいことなら言わなくても構わないさ。僕はこれから銭湯に行くところでね、残念だけどここで失礼するよ」

「あ、すみません! 呼び止めちゃって!!」

「気にしないでくれ。僕も町の人と仲良くなることに否やはないからさ。じゃあ、空条さん、この町を楽しんでくださいね」


 空条さんにそう言って、彼らに背を向けて銭湯のある方向へ歩き出す。町の人と仲良くなることに否やはないさ、ないよ。――ただそれはスタンドと関わりのない一般人にのみ適用されるんだ。スタンド使いたちの面倒ごとに巻き込まれたら死んでしまうよ、僕の能力は物事の『あけしめ』に特化してるんだから。

 自ら死亡エンドに首を突っ込みたがる馬鹿がいたら見てみたいよ。





 微かに聞こえた歌声が気になってそちらを見れば、風呂桶を抱えた二十歳かそこらの青年がビルから出てくるところだった。アメリカンチェリーのような色に染めた髪を右側だけ垂らし残りはオールバックにしている。逆三角のサングラスをかけたその姿に懐かしさが胸をついた。花京院を彷彿とさせる姿からだろう。あいつと似たファッションセンスの者もいるようだ。

 薄いシャツにジーンズ姿であることから細身ながら筋肉質であるのが分かる。どうやら彼はこのビルに入っているジムから出たところらしく、シャツの胸部と背中が汗に濡れて変色している。


「へーいわなーときのなかにーいますかー。いーまはただーそーれをねがーいつづけるー」


 聞いたことのない曲調であることから自作の曲なのかもしれない。悲しい歌詞だ。人混みに入ったことから鼻唄に変えたその彼を見ていたのに気づいた康一くんが、おれの視線を辿って「あっ!」と声をあげた。


「花園さーん!」


 康一くんの呼ぶ声に彼が振り返った。手をあげて微笑む彼と知り合いなのかと康一くんに訊ねればこの町の警備会社の職員で恩人なのだと言う。三歩空けた位置で立ち止まった彼はサングラスを外しジーンズの尻ポケットにそれをねじ込んだ。 目付きはあまり良くないが鋭すぎるというわけでもなく、少し性格がきつそうだ。好戦的な性格のためなのか目の奥がキラリと輝いている。


「やあ康一くん。……初めまして、私は花園紀明と言います。貴方は?」

「空条承太郎という。よろしく」


 花園ノリアキ……花京院と同じ名前か。漢字が同じだとしたら過ぎた偶然だ。握手を交わせば花園はにこりと人当たりの良い笑みを浮かべた。そして今度は仗助を見やり名乗りあった。


「今日はどうしたんだい? 傍目不思議な組み合わせだけど」


 康一くんに対して気安い様子から見て、どうやらかなり親しいようだ。説明に困って言葉に詰まる康一くんに花園は笑いながら気にするなと返した。


「言いにくいことなら言わなくても構わないさ。僕はこれから銭湯に行くところでね、残念だけどここで失礼するよ」

「あ、すみません! 呼び止めちゃって!!」

「気にしないでくれ。僕も町の人と仲良くなることに否やはないからさ。じゃあ、空条さん、この町を楽しんでくださいね」


 花園と別れてから彼の名前の漢字を聞けば彼の名刺を見せてくれた――紀明と書くらしい。流石にそこまでの偶然はないか……いや、おれは彼に何を求めているんだ? 彼の名前が典明であったところでどうだというのだ。


「花園さんはああ見えてかなり性格がきついっていうか、敵に対して容赦ない人なんだ」

「へ、あの柔和そうな兄ちゃんがか?」


 仗助は彼を柔和で優しそうと思ったのか。さっきは仕事用の態度であり、そう思われるように対応していたようだから仕方ないか。


「実はぼくが花園さんと初めて会ったのは二週間も前じゃないんだ。不良に絡まれてたぼくを助けてくれたんだけど、その時迷わず躊躇なく相手に金的したんだ」

「うげぇ! あの人マジで男か!?」


 仗助が股間を押さえた。同じ男なら蹴られた時の痛みが分かるはずだが、躊躇なく蹴ることができるのか……。怖い男だな。

 もう既に人ごみに消えただろう背中を探すが、もちろん見つけることは出来なかった。


「それで、蹴られた人が立ち上がったのを見て言った言葉が『サンドバッグになるためだけに立ち上がった』だよ。あの時は物凄い人と関わり合いになっちゃったと思ったよ」


 『サンドバッグになるためだけに立ち上がった』だと? おれは知っている、その言葉を言った男を!

 逸る気持ちをどうにか落ち着け仗助と花園の武勇伝で盛り上がる康一くんを見下ろす。


「康一くん、その時の言葉を思い出せるか? その……サンドバッグの下りだ」

「サンドバッグの下りですか? えーっと確か……『立ち上がる気か……だが、悲しいかな。その行動をたとえるなら、ボクサーの前のサンドバッグ……ただうたれるだけにのみ、立ちあがったのだ』でしたよ」

「まじかよ。花園さんすげぇ人だな……」


 花京院! 花園、お前は花京院なのか!?


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